【17.帰館】
【side】
(果たして間に合うだろうか)
は右手に分厚い封筒を持ち、次にくるキャツベルトをケセドニア港で待っていた。
右手の資料はシンクに会った後、アスターの屋敷に向かい、ここ三年の間のキムラスカ・マルクト両国の軍物資などの輸出入資料を頂戴したものだ。
地平線の向こうからキャツベルトの影は一向に現れず、は、ふとアスターのことを思い出した。
毎回、会うと思うことだが、どうもあのアスターという人物は、信用してよいか迷う。
実はキムラスカ領事館に行く前に、商店街の裏通りから自分を見ていた三人組の一味でした、といわれてもおかしくない風貌をしている。
それはさておき、アスターにキャツベルトのことを話したら、今は一日、二時間おきに港に来ているとのことだ。
(ピオニー陛下が即位してからは半日に一度だった・・・資料を見ても輸出入が頻繁だ。やはり陛下は戦争の準備を・・・・)
は資料を見ようとしたが、左腕が動かない。
(それに、腕もどうにかせんと・・・)
??「ナーーーハッハッハッハッ!!ナーーーハッハッハッハッ!!」
(この笑い声は)
鼓膜を突き破り、蝸牛(かぎゅう)の機能を狂わせんばかりの・・・。
ようするに五月蝿い。
は声のした、空を見上げた。
「サフィール」
ディ「ディストですよ!!ディ・ス・トォ!!薔薇のディストと呼びなさいと何度も言っているでしょう!!何故、その名で覚えるんですか!!」
「サフィールのほうが、響きが綺麗だと言ったではないか」
【ディスト脳内】
響きが綺麗→響きが綺麗な名前→綺麗な名前の私→美しい私
ディ「そうでしたね。し、仕方がありません。特別ですよ!特別!」
ディストは、の目の前に移動した。
正確には椅子が、と言っていい。
ディ「だいたい、貴方!この一年、どこに行っていたんですか?!!」
行方をくらましていた三年のうちの二年、はベルケンドとシェリダンを行き来していた。
ベルケンドでは、サフィールに会うことが多かった。
の目の前で、ディストは手足をバタつかせて、怒りを表現している。
は片手を挙げ。
「マルクト領土をウロウロしていた」
ディ「なんですって!?よりによってマルクトなんかに!!行くなら行くと、一言、言ってください!」
「置手紙を残したではないか」
ディストは懐から一枚の紙を出し、の前に突きつけた。
ディ「これのどこが置手紙ですかぁ!!」
内容:【少し、でかけてくる】
ディ「私は、シェリダンに行ったと思って、ベルケンドで一週間も待ったんですよっ!!分かりますか!?一週間ですっ!一週間!!シェリダンに行ってみれば、いないと言わて・・・(ズビ)どうしてくれるんです!!」
どーもしようがいない。
「そう、だったのか。それは、すまなかった」
は深刻そうな顔をして、頭を下げた。
いつも無表情でさらりと非礼を詫びる彼女は見てきたが、そんな思いつめたように言うのは、初めてだった。
少し言いすぎたかと、ディストは思った。
ディ「ふんっ。次からは何があっても待ちませんよ!!私を待たせるなんて、あの陰険ロング眼鏡以来です!!」
と、本人はフォローしたつもりで言い、手を前に出した。
ディ「義手を見せなさい。なんといっても、貴方しかいないんですからね、私が作った超スーパーウルトラ(以下略)義手をつけているのは。今後の資料にもなりますからね」
そう、この義手を発明したのは、目の前にいるサフィールだ。
もう七年ほど前の話になる。
がマルクトの捕虜となり、片腕を無くして戻ってきた。
まるで陛下はそれを承知していたかのように、キムラスカ城にが戻ってくるなり、このサフィールという人物を紹介し、義手をとりつけることとなった。
初めての事例だったが、はそれに従った。
そして定期的に、サフィールに義手の調整のため、会うことを必要とされた。
今は、身体が義手に馴染んできたせいで、そうする必要はなかったが、たまに記録という形でサフィールとは、顔を合わせていた。
は左手を、サフィールの前に出さなかった。
ディ「? 何してるんですか?さっさと義手を」
「動かない」
ディ「はっ?」
「壊れてしまった」
ざばーーん
港に、大きな波がうちつけられた。
ディ「壊れてしまった。ではありません!!壊してしまったの間違いでしょう!!貴方、一体どーしたらそんな風にできるんですか?!」
椅子が揺れんばかりにディストは、足をバタつかせ、の左手を持ち上げた。
「上空・・約200Mから落下した衝撃を受け止めた結果、こうなる」
ディ「ムキーーーッ!!私のスーパーウルトラデンジャラス最高傑作を、そんな手荒に扱うんじゃありませんっ!!」
そう言ってディストは、両手から紫色の電流のようなものを、義手へ発した。
ぴくり
の義手が動いた。
紅の袖と肌色の薄い手袋をとると、内部にまであった亀裂が綺麗になくなっている。
「すばらしい。さすがサフィールだ。私もそれが出来たら便利なのだが」
ディ「貴方程度の人間にできるわけないでしょう。この奇知にとんだ美しい私だからこそできるのです!!」
美しいは関係ない。
「そうだな。私程度では」
は目線を下げる。
しゅっ
サフィールは、に何かを投げつけた。
すかさずは、動く左手でそれをとる。
それは掌サイズの・・・。
ディ「咄嗟の反応も上々ですね。それで毎日、整備でもしなさい。その程度なら貴方でも可能ですからね。いいですね!?毎日、ですよ?!毎日!」
義手専用の整備セット(小型バージョン)だった。
ディ「どーせ、貴方のことですから、私の目の届かないようなところに行ったときのことを考えて、作っておいたんです。私が、あなたの為に作ってあげたんですよ!!あなた専用ですよ!?あ・な・た専用!!感謝なさい!!」
「感謝する。サフィール」
ディ「ふんっ。私の用は済みました。それでは、失礼しますよ」
ディストは顔を背け・・・。
(!)
「そうだ。サフィール。一つ聞いて欲しいことがある」
【ジェイドside】
??「お初にお目にかかり、嬉しく思います。私はキムラスカ・ランバルディア王国軍、第一師団から第三師団をまとめております、海軍大将のゴールドバーグと申します。以後お見知りおきを。ルーク様、ご無事のご帰還、賛美いたします」
ルーク達は、キムラスカの港に到着した。
出迎えたのは、頭に毛はなくアルマンダイン伯爵よりも厳い大男。
アルマンダインの軍服はワインレッドだったが、この男の軍服はキムラスカの旗色と同じ朱色に近い赤だった。
白髭を顎全体に生やしたて、見た目だけで気が引けるほどの自信に満ち溢れていた。
アルマンダイン伯爵のは、もっと落ち着いた感じがした。
ゴー「アルマンダイン司令官より鳩が届きました。マルクト帝国から和平の使者が同行されているとか」
鋭い眼光がジェイドへと向けられ、若造か、とすこし小馬鹿にしたよう眉を上げた。
イオンがルークの前に出で、ゴールドバーグに会釈をした。
イオ「ローレライ教団、導師イオンです。マルクト帝国皇帝ピオニー九世陛下より親書をお持ちしました。国王、インゴベルト六世陛下にお取次ぎをお願いします」
ゴー「無論です。皆様のこと、このセシル将軍が責任を持って、城へお連れ致します」
ゴールドバーグの体に隠れてしまっていたせいで、紹介されるまで誰も気がつかなかったセシルと呼ばれる将軍が、ゴールドバークの後ろから現れた。
淡い金色の髪をし、ゴールドバーク海軍大将と同じ赤色の軍服を着ていた。
型は少々違い、女性用といった感じだった。
セシ「セシル少将であります。よろしくお願いいたします」
逸し乱さず、綺麗に敬礼をした。
ガイ「・・・あっ、その・・私は、ガイ・・といいます。ルーク様の使用人です」
めずらしくガイは、歯切れが悪い言い方をした。
女性恐怖症であるが、女性に対して親切なガイがめずらしい。
気まずい、そんな感じだった。
ティ「ローレライ教団。神託の盾(オラクル)騎士団、情報部第一小隊所属、ティア・グランツ響長です」
アニ「同じくローレライ教団、神託の盾(オラクル)騎士団、導師守護(フォンマスターガーディアン)所属、アニス・タトリン奏長です」
ジェ「マルクト帝国軍、第三師団師団長、ジェイド・カーティス大佐です。陛下の名代として参りました」
ジェイドが自己紹介をした瞬間、ゴールドバーグ海軍大将とセシル少将がジェイドを凝視し、顔つきが強張った。
ゴー「き・・・貴公が、あの、ジェイド・カーティス・・・・ネクロマンサーか」
セシルは、信じられないものが目の前にあるように、固まってしまった。
ジェイドは、そんなセシル少将を見て、目を伏せる。
笑みはいつも通り絶やさずに。
ジェ「いやいや、ケセドニア北部での戦いは、セシル将軍に痛い思いをさせられました」
セシル少将は、赤くなった顔を隠したいのだろう、俯いてしまった。
だが、耳まで真っ赤なので、意味がない。
セシ「そんな、ご冗談を・・・私の軍はほぼ壊滅でした」
セシルは下唇を噛み、握った拳は強く握り過ぎたせいで、かすかに震えた。
ゴー「その後、陸軍大将が持ち直したではないか」
ゴールドバークは、セシルの肩に手を置く。
セシ「ですが、あれは陸軍大将の足を引っ張ってしまったのと同じことです」
ジェ「いえいえ、持ち直したのは貴方の兵が要だったからですよ。さすがの私も、あの時は腸煮えくり返りそうでした」
笑みは変わらない。
だが、ジェイドの周りを纏う雰囲気がいつもより重い感じがした。
ジェイドとゴールドバーグが睨み合う。
ジェ「ところで、その陸軍大将殿は病に伏せられていると聞いていますが、お加減はいかがですか?」
ぎくりと二人の首は僅かに動いた。
ゴールドバーグは、咳払いをする。
ゴー「えぇ、まぁ」
病に伏せているというのは、噂に過ぎない。
事実は、行方不明中。
しかし、そんなことがマルクト側に知られてしまえば、勝ち目がありと判断し、戦争を引き起こされるかもしれない。
交戦時代、キムラスカの番犬が一年間、いないことがあった。
その時、マルクトには痛い目にあっている。
国境を越えられたことがあり、キムラスカ側が苦戦していた時期だった。
恐怖、といった感情が、一切マルクト兵から消え去っていたのだ。
理由は、キムラスカの番犬が死んだと言う噂が、マルクトからたったせいだった。
もちろんキムラスカの番犬は死んだわけではなかったが、戦場には出られない状態だった。
だが、事情を知らないキムラスカ兵は噂を鵜呑みにし、戦力を低下させていった。
ただ一人の存在に、兵がこんなにも左右されるのか・・とその当時のキムラスカの上層部は、驚きが隠せず、認めないものもいた。
そのような過去の経験から、キムラスカ軍上層部は、病に伏せているということにしたのだ。
それも、あまり重度ではなく、戦いに影響はないということも付け加えて・・・。
ゴールドバーグは、ルークへ向き直る。
ゴー「では、ルーク様は私どもバチカル守備隊とご自宅へ」
それ以上、番犬について聞かれないように、事を運ぼうとしたが・・・。
ルー(まずい!!これじゃー軟禁生活に逆戻り、英雄の道が)
ルー「ま、待ってくれ」
ルークは、ゴールドバーグの前に手を出して制す。
ルー「俺は、イオンから伯父上への取次ぎを頼まれたんだ。俺が城へ連れて行く」
イオンは、ぱっと花開いたように笑った。
イオ「ありがとうございます。ルーク。とても心強いです」
ティ「あなたも、自分の責任をきちんと理解しているのね。見直したわ」
ルー「あっ、当たり前だろ」
なぜだろう。
胸のなかが、もやもやする。
キャツベルトで褒められたときと同じように、イオンとティアに褒められたけど・・・。
ルー(全然嬉しくねぇ・・・)
チャット形式【天空滑車】
ルークの前には壁があり、道が閉ざされていた。
ルー「あれっ、道間違えたのか?めんどくせーけど、戻」
ジェ「戻っても、どのみちまた、ここに来ることになるでしょうね」
ルー「馬鹿にすんなよ!来た道ぐらい覚えてるっつーのっ!!」
ジェ「これは失礼しました。ですが、港からここまで一本道ですから、覚えるも何もありませんね」
ルー「一本!?」
ルークは来た道を振り返る。
ガイ「旦那・・・。あんまりルークを、いじめないでやってくれ」
ジェ「おやっ。私はただ、本当のことを言ったまでですよ」
ルー「じゃー、こっから、どーすんだよ」
ティ「ここからは、天空滑車に乗っていくのよ、ルーク」
ルー「その【てんくうかっしゃ】ってーのは、どこにあんだよ」
ジェ「あなたの、すぐ横にありますよ」
ルー「横っ!?」
チャット形式【天空滑車乗車】
アニ「きゃ〜ん、ルーク様。揺れがっ」
全く無い。
【キムラスカ城下】
ルークは、周りをキョロキョロと見まわしたり、見上げたりしている。
ルー「なんか、ぜっんぜん実感ねぇ」
ガイ「そーだな。お前は屋敷からでたことがないから、当然といっちゃー当然だろうな」
ルー「それに・・なんか、ごちゃごちゃしてるしよ」
ガイ「でもまぁ、ここは普通なほうだぜ。下にいくと、もっとごたごたしてて、暗い感じだな」
ルー「・・・行った、ことあんのか?」
ガイ「ん?まぁな」
ルークは神妙な顔になりうつむくが、ガイに背中を叩かれる。
ルー「痛って」
ガイ「何だよ、真剣な顔になって。何もヤバいものに手―だしてるわけじゃないから、安心しろって」
ガイがにっと爽やかに笑う。
ルー「ちっげーよ。そんなんじゃねぇーって。ただ、やっぱ俺って狭い所にいたなーって、思っただけだよ」
ルー(それじゃー英雄になれない。俺のことを皆に知らしめねーとダメなんだ)
(ヴァ「民がそうさせてはくれぬ」)
ヴァン師匠(せんせい)の言葉にもあった。
(ヴァ「キムラスカの英雄は、近々戻るそうだ」)
ルー(・・・領事館じゃ、会えなかったけど、もしかしたら、英雄もここに来るかもしれねーな。あっでも、城には行くかもしんねーけど、屋敷じゃ・・)
ガイ「ルーク。どーした?ぼーっとして」
ジェ「まるでお上りさんですよ」
ルー「なっんでもねーよっ!だいたいまだ昇ってねーだろ!」
ガイ「いやっ、そーいうー意味じゃないって」
ルーク達は、昇降機に乗り、城を目指して上がっていった。
キムラスカに帰ってきたのに、安心感とか、やっと帰ってきたとか、そういったものがない。
自分は、まだどこか知らないところを、旅してるんじゃないかと思う。
下を覗くと、城下町や港が霞んでいく。
この都市は、上に上がるほど階級の高くなり、下に行くほど低くなる。
そんなつくりの都市だと、ガイが説明してくれた。
「攻めるとしたら、空からですね」そんな物騒なことを、ジェイドがぼそりと言った。
ガゴン
昇降機が最上部で停止した。
昇降機を降りて、目の前の階段を上がると、見慣れた屋根が視界に入った。
ルー「あれが・・・俺が住んでいた屋敷?」
ガイ「あぁ、そうだぜ」
ルークは、改めて実感した。
ルー「俺、あんな狭い場所で住んでたんだな」
ルー(英雄にならなきゃ、なれなかったら、またあの場所でずっと・・・・)
ガイ「狭いってな・・・・かなり広いぞ」
アニスは、目を輝かせていた。
【side】
「助かった。サフィール」
は、サフィールの椅子の背もたれの上部分から飛び降りた。
ディ「これっきりにしてくださいよっ!!私は、貴方と違って忙しいんですからねっ!!」
着いた場所は、キムラスカ港。
あの後、はキムラスカ港まで、サフィールに送ってもらった。
はじめは、サフィールも渋っていたが、頭を深く下げた結果、浮遊する椅子に乗せてもらえた・・といっても背もたれの部分だが。
「本当に感謝している」
ディ「分かってますよ。最後ですからね。最後!!」
「あぁ」
ディストは眼鏡の位置を直す。
眼鏡越しから見える、深く暗い桜色。
ディ「・・・貴方のその姿は、久々に見ました」
そう言い、浮遊した椅子は南へ向かっていった。
(私も、これを着るのは久々だな)
が着用していたのは、深い緋色のキムラスカの軍服。
光の国、王都バチカル。
キムラスカ王国の首都になる。
左右後ろと巨大な土壁に覆われ、周囲には七つの最新型瞬惨譜業砲が設置されているため、要塞都市とも呼ばれる。
都市の上に、上がれば上がるほど、階級の高い貴族や上層部の軍人が住まい、下に下がれば下がるほど、貧困が激しくなる。
最下層部では、道端で寝ている人がいるのが当たり前。
昇降機の前には、キムラスカ兵が最低二人、警備にあたる。
貧民が貴族街や城への乗車を防衛する為だ。
暴動が起き、集団で押し寄せようものなら、昇降機を空のまま上げ、合図を鳴らす。
次に滑車が降りてきたときには、キムラスカ兵が押し寄せ、取り押さえる。
リーダ格のものは牢に入れられ、拷問。
裏で糸を引いている貴族や軍人が、いないか調べるためだ。
敵は何もマルクトだけではない、内部にも潜んでいる。
自らが実権を握るために。
スコアで知ることも可能らしいが、いかせん莫大な資金がかかり、直接名前があげられるわけではない。
下から上を見上げれば、上空の大気と太陽光線の加減により霞がかり、城の屋根さえも見ることは叶わない。
光の王都、要塞都市・・・。
(私から言わせれば・・・)
焦げ茶色をした外壁、上下を行き来する昇降機は鉄格子のようで。
(牢獄だ)
周りの民がを見ながら、ひそひそと耳打ちをしあう。
警護にあたるキムラスカ兵は、恐ろしいものでも見てしまったように、怯えている。
(帰ってきた・・・。そうだ。これが・・私の日常)
の無表情は変わらない、だがディストやルーク達といたときと違い、その雰囲気は研が鋭さを増し、見据えたような目つきに変わる。
眼前には敵が対峙し、一部も隙を見せず、近寄らせない。
そんな感じだった。
【ジェイドside】
【キムラスカ城 謁見の間】
ルー「だーかーら、マルクトは、平和そのものだったって」
少し前、ルーク達はキムラスカの謁見の間に、強制入室した。
すでに大詠師モースが、王に謁見していたからだ。
案の定、モースは陛下に、マルクトとの戦争を、持ち込んでいる最中だった。
ジェイドが和平の書状を渡したが、一つの教団から二人の使者が来たことに、玉座に座る男は迷っていた。
モースは、和平の書状が渡されても、食い下がらなかった。
モー「何を言っておるか!マルクトはすでに戦争の準備を始めておる。陛下、マルクトの口車に乗せられてはなりませぬぞ」
玉座は三つ。
その中央に座る、紫色の服を着て王冠を被りし男、国王インゴベルト陛下六世。
イ陛「・・・しかし」
モー「しかしではありませんぞ!!この者の言っていることは、そこのマルクト兵に、無理矢理言わされているかも知れませんぞ」
ルー「ジェイドが、んなことするかっつーの!お前が伯父上を乗せようとしてるんだろ!?お前、マジウゼーんだよ!!」
バタン
謁見の間の扉が、荒々しい音を立てた開かれ、モースやルーク達は後ろを振り返った。
キ兵「こっ困ります」
??「構わん。責任は私がとる」
大詠師モースに和平の使者達が謁見中に、入ってこられるような人物とは・・・。
インゴベルト陛下は、玉座から立ち上がった。
カッカッカッカッ
謁見の間に、鳴り響く靴音。
緋色の肩マントが靡く。
黒髪が、後を追うように揺れる。
その髪は、後ろは短く顔のサイドが長く、毛先にいくにつれて紫に・・・・。
ガイ「おいっ、あれって・・・」
アニ「えっ、何で??」
は、インゴベルト陛下を真っ直ぐと見つめたまま、ルーク達を一瞥もせず横を素通りし、陛下の前で膝を折り、頭を下げた。
「陛下の配慮、有難く頂戴いたします。本日を持って、・アルマンダイン。軍に復帰いたします」
イ陛「・・・待っておったぞ。」
ジェイド以外の全員が、驚きの表情を見せる。
ルー「おっおい、何でお前が・・・」
モー「貴様、何者ぞ!?無礼にもほどがある。儂は大詠師モースなるぞ」
モースは、を指差し、顔を真っ赤にさせた。
は立ち上がり、ルーク達の奥にいるモースを見た。
薄紫色の服を着用すると気品を漂わせるはずだが、どうもこの目の前にいる人物が着るとそうは見えない。
狸のような体系と、狐のような目。
(狐だか狸だか、はっきりしてもらいたいものだ)
のほうが身長が高いせいか、見下すかたちになる。
彼女は何も言わず立っているだけだが、アルマンダイン伯爵を思わせる威厳があった。
ただ彼女のは伯爵よりも、とても重苦しく鋭い。首元に剣先を当てられていると思わせる緊迫があった。
「・・私は、ランバルディア王国軍、第四師団から第八師団を治めしキムラスカの」
抑揚のない静かで固い声が名乗り始めた。ルークの脳裏に過去のとの会話が蘇る。
(「第一から第三は海軍大将が、第四から第八は」)
(ルー「あっ、分かった。それが」)
(「陸軍大将だ」)
「陸軍大将だ」
ルークの目が、大きく見開く。
ルー(嘘だろ・・・)
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