【gate25:心境】
ルークは飛び起きた。
ルー(なっなんだよ!?)
テントの中を見渡すと、すでにイオン起き、外の様子を伺っていた。
ガイとジェイドはいなかった。
ルー「おいっ、イオン!何が起こってんだ!?」
ルークはイオンに掴みかかった。
外から聞こえる大勢の声、剣のぶつかり合う音、爆発音と
「殿下!!」
ルー(!?)
イオ「ダメです、ルーク!貴方は!!」
ルークは反射的に柄を握り、イオンの制止を無視して外へ出ると、そこは・・・。
ルー「何だよ、これ・・・」
一瞬、夕焼けかと思った朝焼け。
白の砂漠は斑に赤く、傍には複数の・・・死体。身なりや持っている武器に、見覚えがある。
ルー「これって、あの・・・盗賊と」
柄を持つ手は震えているのに、足は石にでもなったように動かない。
バラバラだ。一体、何人いたのかも分からないくらい無残に。
遠くで、ガイとアニスがジェイドとティアを守りながら巨漢の盗賊と戦い、その後ろで、ナタリアが泣きながらに何か言っている。
取り乱すナタリアと違いは、何時も見る無表情で何事も無いように立ち、湾曲剣が食い込む右肩をおさえていた。
容赦なく流れる血は右手を、肩口を押える血は左手を、赤く染める。真っ赤だった、軍服のせいじゃない。
乾いた砂漠が、その血を吸い尽くしてしまうんじゃないかと思うくらい、本当に真っ赤で・・・。
ざわりと鳥肌がたった。
ルー「なっ何やってんだよ!!」
全員(!)
ルークは衝動的に剣を引き抜き、皆のもとへと駆け出した。
その叫び声で、一同一瞬の間が生まれた。
巨漢の盗賊長の後ろで、譜術を唱えている数名の女盗賊の口が裂けるように笑むと
ルー「!?」
ルークの足元に、譜の円陣が出現した。
ガイ「ルー
ドゴッ
ガイ「ぐっ」
ガイは盗賊長による拳をまともに食らい、ルークのところまで殴り飛ばされてしまった。隊形が崩れた。
ジェイドは援唱を中断、槍を出現させ盗賊長の猛烈な攻撃をアニスと防戦するが、押されつつあった。
複数の円陣がルークとガイを囲いはじめた。
ガイ「ルーク!!俺のことはいい、早く行け!!」
脚は痙攣し視界は揺れ、起き上がれないほどの強打を受けたガイは、ルークを押しのけるが
ルー「置いてけるわけねーだろ!!」
ルークはガイの腕をとり、引きずってでも連れ出そうとしたが、砂で足が滑る。
前に進めない。邪魔だ。
砂がうざい。
二人を囲う譜の円陣が光り帯び始めた。
ルー「やっやめろ!!」
このままでは・・
「ティア!地のFOF(フォース)を右へ。カーティス大佐!アニス!」
ジェ「分かりました」
アニ「はいっ」
三人は意を理解し、アニスとジェイドは同時に後ろへ跳ぶ、その場所こそ
ティ「アピアース・グランド」
地のFOF。
ジェ「破砕の一撃、岩砕烈迅槍」
アニ「いっぱつどかんと、昇龍礫破!」
ジェイドの槍術で、巨漢の盗賊長は軽く持ち上げられ突き飛ばされると、トクナガの激しいアッパーが繰り出され、大きく宙へ飛んだ。
「アニス、カーティス大佐」
指先だけ向けると、アニスはトクナガを走らせガイ達のところへ、ジェイドは譜を唱え始めた。
「ティア、もう一度だ!」
ティ「はい」
再び、地のFOFが浮かび
「喰らうがいい」
は左手だけで鎌を振り上げ、砂漠に突き刺した。
ドォッ
刺した場所から砂が左右に割れ突進、盗賊長の後ろにいた女盗賊達に直撃した。
ルー「!」
ガイ「なんとかなったか」
二人の周りにあった円陣が、次々と消えていく。
「とどめだ」
落ちてくる盗賊長へ走り飛躍すると鎌を一振りくだし、ジェイドは瀕死の女盗賊たちへ譜術を発動させた。
が地に足を付けたとき
ドドッ
全ての敵は絶命した。
撃退後、ルークは始終無言だった。
あの中に、ルークが逃がした女盗賊がいた。
ガイがお礼を言っても、ジェイドが嫌味を言っても、ルークは無言だった。
は・・・。
(「怪我はないか?」)
なんて言ってきた。
ルー(お前が、一番怪我してるくせに)
傷口こそ軍服で分かりにくいが、右手の指先からぽたぽたと、足元の砂を潤していた。
嫌味だとルークは思った。
ルー(どうせ、俺のせいだって思ってんだろ)
でも本当にまた襲いに来るなんて思わなかったんだ。
あれだけ、あいつにやられたて、なんでまたくるんだよ。
ナタ「・・・・」
ナタリアの目元は赤かった。
襲撃時、ナタリアは盗賊の安い挑発に乗り前衛に出た。
それを機にとした盗賊たちは、ナタリアを集中的に襲いかかるが、駆けつけたにより盗賊たちは切り裂かれていった。
数の多さと庇いながらの戦いに梃子摺ることもなく、絶命した盗賊から投げ出された剣も難なく交わすが、旋回してきた剣は運悪くナタリアへ
(「殿下!!」)
ドッ
ドカッ
はいかず、リョーカの右肩へ。
挟み襲いくる盗賊の頸椎を砕き刺し、ナタリアの腕を引き寄せると、お互いの体を反転させ庇った。
ルークが叫び出したと同時には、ゴミでも払うかのように剣を引き抜き走り出した。
飛散した血が、ビシャリと頬に当たり血を拭おうと手を・・・
その手も赤く、ナタリアの周囲は汚れいていた。
(ナタ(これは、全て、の・・・))
行かなくては。とナタリア思ったが、腰が抜けて立てなかった。
盗賊を一掃しケセドニアへ向かう中、アニス達はの治療をしようとするが、当の本人は大丈夫だとの一点張りだった。
アニ「早く傷の手当しなきゃダメだよ!!」
「見た目ほど深くない。案ずるな」
ティ「でも・・」
ビシッ
「!」
ティ・アニ「「大佐!?」」
ジェ「周りに迷惑をかけているが、分からないのですか?」
の肩口近くに容赦なく槍の柄で叩きつけたジェイドは、そう言うと、さっさと行ってしまった。
(迷惑?)
盗賊は倒した。
怪我はしたが血も止まり、薬は使わず譜術も使わせていない。
足取りも皆と同じ。魔物とだって戦える。
(何が、迷惑なのだ・・??)
は訝しげに、ジェイドの背を見る。
ガイ「誤解しないでくれ。皆、心配してるんだ。大佐もな」
ジェ「言葉には気をつけてください、ガイ。私は、怪我人を連れまわしたくないだけです。ましてや彼女は、我々の護衛のはずです。その護衛が役割を果たせなくては、いる意味がありません」
ガイ(本っ当、よく回る口だよな〜)
ティ「そうよ!」
少しきつい口調で言うと、の肩口に手をあて、譜歌を唱え始めた。
アニ「あとの戦闘は、アニスちゃん達にまかせて、ケセドニアまではおとなしくしてなさい!!」
アニスはの前に立ち、片手を腰に当て、もう片手は一本指をたてて上下にふった。
親が子をしかる仕草だ。
この場合、逆だが。
アニスの背中にある不気味な人形も、心配そうに左右に揺れる。
それはない。
「分かりました」
イオ「いなければ、こうして僕達はここまでこれませんでした。貴方は少し休んでください」
アニ「今は、治療に専念しなさい!ねっ?」
「分かりました」
ぎこちなかった雰囲気が和らいだ。
ジェ(・・・)
【ケセドニア】
日が傾く頃、ルーク達はケセドニアに着いた。
全員、一斉に息をつく。
ルー(はぁ〜〜、やっとか。さっさと、宿屋に・・・。?)
は、宿屋の前を通り過ぎていった。
ルー「おいっ!!どこ行くんだよ!!」
ガイ「、今日は、とりあえず宿屋で休まないか?色々、準備もしておきたいし」
アニ「そうだよー。アニスちゃん、もう、くたくた〜。イオン様だって、お休みして頂かないと」
イオ「すみません、僕からもお願いします」
軍特有の回れ右にならいは振り返る。
「失敬、先に宿屋で休んでくれ。私は領事館に用がある」
ティ「・・・私たち、早とちりしたみたいね」
皆は口々に謝り、は首を振り「気にするな」と言葉をかけ、去って行った。
ルー「ったく、間際らしいことすんなっつーの」
と言ったが、賛同の声はなかった。
ジェ「・・・・よろしいのですか?」
ジェイドは最後尾のナタリアに声をかけた。
ナタ「何が、よろしいのですの?」
ナタリアは、小首をかしげる。
ジェ「彼女は領事館に行くようですよ」
遠目でそう言うと、ナタリアはその言葉の意味に気がついた。
ナタ「ルーク!!を止めてくださいまし!!」
ルー「はぁ?俺には関係ねーし。つーか、いい加減、休ませてくれよ」
ナタ「まったく、頼りにならない方ですわ!!昔はいつも私(わたくし)のことを守ってくださいましたのに!!」
ナタリアは、領事館へ走り出した。
ルー「なんなんだよ。あいつ」
ルークは、宿屋へと足を向けた。
ふかふかのベットに遠慮なく食える飯と飲み物、砂も汗も嫌な気分と一緒に早く洗い流したい。
【領事館前の階段】
階段の隅には、砂が積もり、従来の階段よりも幅が狭く感じる。
砂で埋もれてしまわないように、階段の左右に後から建てられた建物が隙間なく並ぶ。
カッ
カッ
カッ
は、ゆっくりと階段を下りていく。
丁度、港からさす夕日が階段を照らし、暮れ色の絨毯の上を歩いているようだった。
カッ
カッ
??「!!」
半分ほど下りきったとき、誰かに呼びとめられた。
振り向くと、予想通りの人がそこにいた。
「ナタリア殿下」
階段の一番上で息を切らすナタリアは、素早く服と髪を整え、腰に手をあて凛とした姿をきめた。
ナタ「私(わたくし)は、皆と共にアクゼリュスへ参りますわ!!お父様への報告は許しませんことよ」
「この旅は、殿下の身に余ります。砂漠で、そう判断しました」
ナタ「私(わたくし)が王女ということを忘れ、陸軍大将として遠慮なさらず、発言なさい!!私(わたくし)が皆の足を引っ張っていると、おっしゃりたいようですわ!」
「はい」
ナタ(!!)
真っ直ぐと合わせていた瞳が、強くナタリアを刺し帯びる。
「賊の安い挑発に乗り陣形を崩したことは対処のしようがあり、注意だけ終わります。ですが、殿下。殿下は私が庇ったとき、御泣きになられた」
ナタ「当たり前ですわ!!私(わたくし)をのせいで、お前が」
「あの程度で取り乱されては、邪魔です」
ナタ(!!)
内容も言い方も容赦がない。
「敵は生きていました。私に治癒術をかけるなり、矢術で皆と参戦できたはず。ですが貴方は何もせず、ただただ泣くばかり」
は、背を向け階段を下りはじめる。
止めの声はない。そのことを考慮して。
「六神将のこともあります。これ以上、殿下を危険に招くわけには参りません。この先、また同じようなことが起きては
ナタ「わっ私(わたくし)は・・取り乱して泣いたのでは、ありませんわ!」
二段下りた足が止まる。
ナタリアは腕を組み毅然として、背を向けたままの紅の軍服を見据える。
ナタ「陸軍大将が何ですの!?あの程度の輩に傷を負うとは、私(わたくし)、情けなさのあまりに涙が出てしまったのですわ!!、よくお聞きなさい。お父様に伝えることも、私(わたくし)をキムラスカに帰すことも、許しませんわ!!これは命令ですわ」
「・・・・」
領事館の奥には港が、海が広がり、その先にはキムラスカがある。
ナタリアは違和感を覚えた。
ナタ「?」
「ナタリア殿下。殿下には、アクゼリュスに行くよりも陛下の傍に、陛下の支えになって頂きたい。あの方は・・・些か人の意見に流されやすい」
先程の荒波のような物言いではなく、静かにその声は響いた。
ナタ「まぁ!何をおっしゃいますの!?お父様は、そのような方ではありませんわ!常に民のことを考え、確固たる意志を持って決断しております。そんなに心配なさるようでしたら、私(わたくし)の変わりにお前が、お父様の傍にいてはどうです。私が、許しますわ」
は振り返るとナタリアに丁寧に腰を、深く頭を下げた。段差の違いに夜色の髪が砂につく。
「私は、護衛としての勤めがございます。今後、殿下に情けないと思われぬよう精進し、殿下のご意見を、尊重致します」
ナタ「そうしてくださいまし。それと私(わたくし)に敬語はおよしなさい。王女という身分を隠せませんわ」
「私が気をつけたところで、ナタリア様の高貴な気品は消えません。マルクトの軍人は敬語で対応しておりますし、親善大使に至っては身分を隠しておりません」
ナタ「・・分かりましたわ。では、私(わたくし)には、話しかけないでくださいまし」
ナタリアは踵を返し、宿屋へと優雅に去っていった。
は、しばらく頭を下げたまま、立っていた。
夕日は、海へと沈む。
黄昏の絨毯が敷かれた階段も、上の段から順に、その色を無くしていく。
(ナタ『お前が私(わたくし)の変わりに、お父様の・・・』)
(殿下・・・。それは、殿下である貴方しかできないことです)
そう言っても、納得せず、キムラスカへ帰らないだろう。
アクゼリュスへ行き救済すること、民のことを常に考え、行動し・・・
は、小さくため息をつき
「楽しいか?そこからの光景は」
顔をあげた。
ジェ「そうですねぇ。悪い気はしません」
ナタリアの立っていた、ほぼ同じ位置にジェイドが立っていた。
「何かあったのか?ただの物見遊山というわけでは、あるまい」
ジェ「おやっ。そうかもしれませんよ?」
「用もないのに、お前が動くとは思えんな」
ジェ「なるほど。私をそう見ているわけですね」
「言い方が悪かったのようだ。意味のない行動は、極力控えているように思える」
ジェ「面白そうなことでしたら、別ですよ」
軽く小首を傾げ、ジェイドは目を細めた。
「そうか。頭に入れておこう」
の表情が、ほんの僅かに和らぐ。
は階段を上り、ジェイドはそれを待つ。
「何かあったようだが、無事に収まったようだな」
ジェ「そこまで察して頂けると、説明が楽で済みますね」
「悪いが、明確に願いたい。憶測で不明瞭に理解してしまっては、二度手間になってしまうからな」
ジェ「分かりました。実は、ルークがティアに斬りかかり、倒れました」
「・・・明確にと言ったはずだが」
ジェ「他の方に聞いても、答えは同じですよ」
は人差し指を軽くこめかみに当て、考え込んだ。
(何故、ティアを?ティアは無事なのか?倒れたが、マルクトの軍人の態度から察するに、重症ではないことは確かだ。・・ダメだ、切りつけた理由が、全く分からんぞ)
「双方に、怪我はないか?」
ジェ「はい」
「斬りかかった理由を、お前は知っているか?」
ジェ「いいえ」
「そうか・・・」
ジェ「ですが、親善大使殿の意思とは別、と言っておきましょう」
「ますます理解から遠ざかっていくな。一体、それはどういう意味だ?」
ジェ「・・今は、言えません。いえ、認めたくないだけなのかもしれません」
ジェイドの表情から、笑みが消えた。
「受身の発言。・・・お前にそう思わせるとは、常識の範囲を逸脱するようなことなのだろう。と、受け取っておけば良いだろうか?」
は、真意の確認をするように見上げれば、ふと、ジェイドの口元が再び緩み、眼鏡の縁に手をかけた。
ジェ「えぇ、そうですね。私自身は、常識の塊なのですが。どうも、それを非常識にもっていく非常識な存在が、非常識なことを起こそうと、非日常的な日々を送っているようです」
「・・・・なるほど、お前が制したことを、その愚考かつ愚行な者が事を進めているとみる。一度会ってみたいものだな、さぞかし愚かしい面構えに違いない」
ジェイドは、に笑いかけた。
ジェ「それこそ、愚考というものですよ」
【ディストside】
ディ「ハーーーーックッシュン、クション!!誰か、美しい私の噂をしていますね。まったく、美しいと罪深いものです。ズビッ」
シン「馬鹿にされてるんだよ」
ディ「ムキーーーーッ!!なんですって!?」
アリ「くしゃみ・・・二回。・・・悪口・・・」
ラルゴは無言で、二度頷く。
ディ「・・・・・キーーーッ!!あの陰気ロン毛眼鏡ですね!?私のこの美貌と頭脳に嫉妬しているに違いありません!!」
違う。
その場にいる全員がそう思った。
【side】
宿屋へ入ると、ティアが起きていたことに驚いた。
倒れたのはてっきり、ティアのほうだと思っていた。
ジェイドの言った通り、皆も、とナタリアが去った後、突然ルークがティアに剣を向けたと言う。
だが本人は「やめろ」と叫んでいたそうだ。
剣を出したが、歩み方も構えも、抵抗するようだったと聞く。
【ケセドニア:夜】
寝静まる時間。
は一人、宿屋の外に出て星を眺めていた。
頭の中は、アクゼリュスの現状、無事に使節団を連れていくこと、旅支度に必要なもの、そのためのガルドはいくらかかるか。
途中で六神将に出くわしてしまった場合の対処法、アクゼリュスに向かう途中あの峠を越えるにはどこで休憩をとるのがいいか、そもそも領事館に行くのはこのタイミングにすれば・・・
「・・・ここの星は、遠いな」
??「あぁ、そうだな」
「屋敷の中庭で見た星は、届きそうだと錯覚した」
??「俺も・・・ルークが記憶喪失になってから、そう思ったけな」
「やはり、上から人を除く趣味があるのではないか?ガイ」
ガイは、の傍にある店の屋根から、姿を現した。
ガイ「いや、たまたまだって」
ジェ「それは、どうでしょう?」
家の角から、ジェイドが姿を現す。
ジェ「後をつけるように出て行くように見えましたよ?」
ガイ「いや・・・そーゆー、アンタこそ・・・」
「盗み聞きが趣味なのだ」
ジェ「聞こえの悪い言い方はやめて頂きたいですね。私は、少しお酒でも嗜もうと外に出たところ、偶然、貴方々を見かけただけですよ」
「そうか。だが気配は、ほぼ同時だった」
ジェ「ガイ。彼女に用事が合ったのではありませんか?」
「私に用事?なんだ?」
ガイ「あぁ、実は・・・」
ジェ「さぁ、ここで立ち話もなんですから、中に入りましょう」
【酒場】
カウンター、椅子、机、ブランデーを並べる棚。
ほとんどがこだわりの材木で作られ、アルコールのにおいが充満している。
カウンター越しでは、白いシャツの上に黒いベストを着たバーテンダーが立っていた。
何時もなら様々な地方客で賑わっているはずだが、今はアクゼリュスのこともあってか、ちらほらとケセドニアで住む人々が入る程度だった。
人々は酒が入っているため、会話も声量も盛り上がっている。
彼女に贈る婚約指輪をルビーにするかダイヤモンドにするか預言(スコア)に詠んでもらったおかげで結婚が決まったと、大喜びで話している男達を尻目に、三人は素通りする。
カウンターではなく空いているテーブルに、と思ったが。
ガイ「悪い。どこに座っても、俺・・・ダメだ」
「確かに、どこに座っても、私と隣になってしまうな」
ジェ「改めて、貴方の私生活をお悔みしますよ」
三人はカウンターに座った。
ジェイドを真ん中にして。
【チャット形式】注文
ジェ「お二人は、何にしますか?」
ジェイドは既にバーテンダーへの注文を終えていた。
ガイ「俺は、酒はちょっと・・・」
ジェ「分かりました。すみません、この方にミルクをー」
ガイ「俺まで子供扱いはやめてくれよ。せめて、オレン」
「この者には、トマトジュースを」
ガイの好物、トマト。
ガイ「あっ・・・それで」
ジェ「貴方が先程頼もうとしたものも、れっきとした子供扱いに入りますよ」
ガイ「まっまぁ、いいじゃないか。は、どうするんだ?」
「そうだな、私は」
ジェ「では、この方にミルクを」
ガイ「まで、子供扱いかよ」
「ホットで頼む」
ガイ「余計にお子様っぽいぞ!!」
ジェ「もしあるようでしたら、蜂蜜も入れてあげてください」
ガイ「いや、酒場に限って」
バー「あるよ」
ガイ「あるんだな・・・」
「ガイ。私に言いたいこととは、何だ?」
はカウンターに両肘をつき、ジェイド越しから横眼でガイを見た。
ガイ「あっあぁ、そうだったな。話っていうのは・・・ルークの、ことなんだが」
ガイは六角グラスを両手で握り、中の液体を見つめていた。
色褪せたその朱は、どことなくルークの髪の色に似ている。
会話の間を縫いバーテンダーはの前に木製のエッグカップが置くと、ふわりと立ち上る湯気から、嗅いだことのない甘い匂いがした。
ガイ「旅んときに、ルークがあんたに憧れてるのは知ってるだろ?だけど、あんたに酷いことばっかり言ってるは、ザオ遺跡で落ち合う前に色々あったからなんだ。ほら、ここで会えると思ってた謡将にだって会えないって分かって、余計機嫌悪くなっちまって・・・だから、その、あれがルークの本心ってわけじゃないんだ。今は、目をつぶってくれないか?」
ジェイドは三角錐グラスに口をつける。透明な液体からは小さな気泡がたっていた。
は揺れるエッグカップから昇る湯気越しに、正面を見つめていた。
「・・・私は、あれが本心だと思っている」
ガイ「・・」
ジェ「・・・」
「それにあの旅路では釘を刺しておいた。『期待しない方がいい、絶望が見える』とな。親善大使の態度から、期待外れ、がっかりだというのは、周囲から見ても充分伝わっている」
ガイ「それでも・・・アンタに対する態度は、やり過ぎだ。ただ、ルークも自分のことで一杯で、周りが見えてないだけなんだ。だから、すまない」
「お前が悪いと思っても、あの者が変わるわけでない」
ガイ「分かってるさ」
「そうか」
は、ゆらゆら動くエッグカップを両手で止める。
「私のことならば気にするな。別に親善大使に対して、不愉快だと思っていない」
ガイ「・・そっか」
ガイは用意された飲み物を一気に飲み干し、空のグラスをカウンターに置き
ガイ「先に宿屋に帰えるよ。酔ったみたいだ」
小さく笑い、席を外した。
ガイ「、旦那も、ありがとな」
ジェ「私は、何もしてませんよ」
ガイ「聞いてくれただろ?じゃあ、また明日」
パタリとドアが閉まり、ガイは店を出ていった。
はカップに口をつけ、音を立てず飲む。
「・・・・迷っているな」
ジェ「何に、ですか?」
「それが分かれば苦労せん」
【宿屋前】
小一時間後、とジェイドは宿屋に帰ると、出入口前の砂が豪快に乱れ、ガイの刀についている装飾品が落ちていた。
半分砂に隠れたそれをは摘まみ上げると無言でジェイドに渡し、ジェイドも無言で受け取った。
「もしや、ガイは転んだのか?」
ジェ「本人が酔ったと言っていましたから、そうではありませんか?」
「いや、しかしあれは、ただの」
ジェ「ブラッディマリー。れっきとしたお酒ですよ」
「・・・そうか、あそこは酒場だったな、私の注文したものをベースに作ったのか。明日に影響せねばいいのだが」
ゴン
ジェ(!)
は扉に頭をぶつけてた。
ドアノブにかけようとした手は、実際にドアノブがあるのとは反対の位置だった。
「・・・・一つ聞く、私のあれにも入っていたのか?」
ジェ「えぇ。と言いましても、ブランデー数滴でしょう・・・。まさか、酔ったとは言いませんよね」
「・・・分からん」
は、扉を引き開けようとしたが、開かなかった。
「鍵がかかっているのか?」
ジェ「・・・押してください」
扉は開いた。
悪夢
黄昏と彼誰時
独り立っていた
その間に挟まれた空間で、一面に広がる赤黒く蒸した鉄と銅と甲殻類を混ぜた臭い
足首まで浸る生温く、表面は冷たい感触
何度も見る全景だ
違いのは・・・浸る沼に浮ぶ者
(・・・)
これは夢に過ぎない
瞼がゆっくりと開く。
は、軽く頭をかかえた。
to be comming・・・・
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