【10.襲撃】
※少し流血表現がありますのでご注意ください。
【チャット形式】今何処にいる?
ルー「なぁなぁ、あんた、結構、軍とかのことに詳しいんだよな?」
ルークはに話しかけた。
「まぁ。多少なりは」
ルークは、期待をふくらませた目で、を見る。
ルー「じゃあさ。ケルベロスが、今どこにいるかっていうのも知ってるのか!?」
目の前にいる。
とは流石に言えない。
「・・・噂では病に伏せているとしか、どこにいるのかは私も知らない」
ルークは口を尖らせる。
ルー「ちぇっ。どこかって分かったら会えるかと思ったのによ」
ガイ「おっ、見えてきたな。ルーク、あれがカイツール軍港だぜ」
ルー「やっとか。ヴァン師匠も遠いなら遠いって言ってくれれば良かったのによ」
ルークはヴァンから、関所からは歩いてすぐだと聞いていた。
しかし、いざ歩いてみれば数日かかるような距離だった。
ガイ「このくらいの距離、ヴァン謡将の足ならなんでもないだろ」
ルー「俺は、ヴァン師匠(せんせい)みたいに鍛えてないからな」
影が一瞬、ルーク達をよぎった。
雲にしては早すぎる影だ。
ルー「なっなんだ!?」
ルーク達が空を見上げると、複数の影の正体は東の空へと移動していった。
アニ「あれって根暗ッタのペットだよ」
ガイ「ネクラッタ?」
ガイは、はてと首をかしげた。
アニスはガイめがけて、ぽかぽかと腹辺りを軽く殴り始めた。
ガイの表情は引き攣り、体勢も後ろへ下がる。
アニ「六神将の妖獣のアリエッタの事。根暗アリエッタで根暗ッタ。さっきの魔物は、その根暗ッタのことをよく聞く連中なの!」
ガイ「わっ分かったから触るな〜!」
ガイはアニスから十分な距離をとり、息をついていた。
はすんと鼻を鳴らした。
「血の臭いがするぞ」
ルークも匂いを嗅いだが、何の匂いもしなかった。
ルー「お前、鼻良過ぎだろっ。ぜっんぜん分かんねー」
ティ「きっと港のほうからだわ。行きましょう」
ティアは、先に走り出した。
ジェ「ほら、ガイ。喜んでないで、行きますよ」
ジェイドはティアの後を追い、ルーク、アニス、イオンもジェイドにつづいた。
全員の表情は固い。
ガイ「俺は、嫌がっているんだ!」
知っていますよ。とジェイドが言ったのをルークは聞いた。
俺に我儘だというが、この軍人もそうとう性格は歪んでいると思った。
は、バイラスの群れが去っていった東の空を見ていた。
(確かあの方向は・・・)
ガイ「、行くぞ」
「あぁ」
ガイとはルーク達を追った。
【カイツール軍港】
ルー「うっ」
ルークは思わず、腕で鼻を覆った。
見渡す限り、血の海。
周りには人だったものが、転げ落ちている。
(これは・・・)
咽かえるような生臭く鼻を劈く匂い。
傷口は剣や槍で傷つけたものではなく、無残にも抉り取られている。
平行に切られた痕が数箇所、アリエッタが操るバイラスの爪で刈り取られたものだろう。
ルークはフーブラス川での出来事を思い出した。
ルー(あの時、俺があいつを助けたからこんなことになったのか?違う! 俺のせいじゃねー。確かに止めはしたけど、イオンがその後止めたから、ジェイドが殺さなかったんだ。そうだ、イオンが言ったからだ。だから、俺のせいじゃねーんだ)
ルークはイオンを見た。
イオンは苦しそうに眉を寄せ、目の前に横たわっている、首から上のない兵士を見ていた。
ガキィン
船着場のほうから聞こえた。
おそらく剣で誰かが対抗しているのだろう。
思い当たる人物はただ一人。
ルー(ヴァン師匠!!)
ルークが走り出し、ジェイド達はその後を追う。
倉庫のような縦に長い建物の間を走り、船着場へと向かった。
もジェイド達につづ
(おっと、忘れるところだった)
こうとして引き返した。
ルークは向かう途中、視界に入る見るも無残な死体は無い、と自分に言い聞かせた。
皆の反応は・・と思い、後ろを振り返る。
全員の表情は真剣だったが、死体については驚きもせず冷静だった。
ルー(あれ?)
ルー「は?」
ティ「えっ!?」
ルークの後ろにいたティアは振り返る。
つづいてジェイド、ガイ、アニスが振り返った。
しかし、足を止めているような状況ではない。
皆、走ったままである。
ガイ「しまった!は民間人だった」
民間人があの血の海や、残虐な光景に慣れているわけがない、今頃腰を抜かしているはずだ。
ジェ「やれやれ、本当に足手まといで困ったものです」
「気苦労をかけるな」
声の方向をルーク達は見た。
ルー「おっお前、どこにいるんだよ」
「屋根だ」
ルー「んなの、見りゃ分かるっつーの!」
は建物の屋根を走っていた。
「前を見ろ。着くぞ」
ルークは前を見た。
建物の間を出ると、そこには
ルー「ヴァン師匠(せんせい)!!」
恐怖も、のことも一気に吹き飛んで消えた。
やはりそこにいたのは、ヴァンだった。
両手剣を片手に持ち、その剣先を妖獣のアリエッタに向けている。
(あれが、ローレライ教団六神将の一人妖獣のアリエッタか。随分、幼く見えるな)
【妖獣アリエッタ】
ローレライ教団神託の盾(オラクル)騎士団第三師団師団長。
ピンクの長い髪、眉毛は垂れ下がり今にも泣きそうな顔つきをしている。
ローレライ教団から支給された黒い服を身にまとう。
片手にはいびつな人形を握り締め、もう片手で短いスカートの裾を引っ張っている。
(引っ張るくらいなら長くすればよいものの・・。彼女の近くに倒れているのはライガ、ということは彼女が・・・いやそれより今は・・・・・)
は全体を見渡し、生存者がいないか確認した。
ヴァンを目前にしたルークは、ライガの襲撃に剣の柄を握るが引き抜きはしなかった。
いや、引き抜くことに躊躇っていた。
ガイはすでに剣を構え、アニスはイオンを庇う。
ティアはルークの前に移動し、ヴァンから少し離れて杖を構えた。
おそらく、間合いに入らないためであろう。
ジェイドも、いつでも戦える体勢に入っているが、目線はにあった。
敵意でない視線を感じながらは、現状を把握する。
(どうやら船は全滅のようだな。さて、整備士たちは生きているのか・・)
ティ「・・・・一体、なにがあったの?」
ヴァ「アリエッタが魔物に船を襲わせた。あとは・・・見ての通りだ」
船は魔物によって破壊され、少し海に沈んでいる。
ヴァ「アリエッタ!誰の許しを得て、こんなことをしている」
ヴァンに怒鳴られるとアリエッタは、片手に持っていた人形に顔をうずくめた。
アリ「総長・・・・ごめんなさい。・・・・アッシュに頼まれて・・・」
ヴァ「アッシュだと?」
ヴァンの意識が一瞬、アッシュを思い出させた。
その瞬間をアリエッタは見逃さなかった。
何かに合図を送ったのだろう、指先で音を鳴らすと怪鳥が姿を現し、アリエッタを攫っていた。
アリエッタが怪鳥の足に掴まり、上空にいる。
も上を見上げる形となった。
アリ「船を修理できる整備士さんは、アリエッタが連れて行きます・・・返して欲しければ、ルークとイオン様が、コーラル城へ来い・・・です。来ないと・・・・あの人たち・・殺す・・・です」
アリエッタはを見かけると、泣きそうな顔を増々泣きそうにさせた。
アリ「あなた、あなたがママをそそのかした人・・アリエッタは、あなたもあの人達もどこまでも追いかけて・・・殺す・・です」
「そそのかした?」
ルー「おい、待てよ!うわっっ」
待つはずもない、アリエッタの魔物は風を巻き起こし、次に空を見上げたときには、どこにもなかった。
ガイ「ヴァン謡将、他に船は?」
ヴァンは剣を収めガイへと振り向く。
ヴァ「・・・すまん。全滅のようだ。応急措置でなんとなかる船が一隻あるが、それも機会部(エンジン)の修理には専門家が必要だ。だが、それもアリエッタに連れ去られてしまった。・・・訓練船が来るのを待つしかない」
地上では、コーラル城についてガイがジェイドに説明していた。
どうやらルークが誘拐され発見された場所だそうだ。
ルークはそこに行けば何か思い出せるかもと言いだしたが、後のことは自分がするとヴァンが止める。
しかし、それではアリエッタの要求を無視することになってしまうとイオンが言ったが、それもヴァンによって止められてしまった。
「ミュウ」
ミュ「なんですの?さん」
は右肩にいるミュウに話しかけた。
先ほどが引き返した理由はミュウだった。
皆が走り出し、門からしてこの血の海と無残な死体。
ミュウは追いつくのにも大変だが、この情景はきびしいと思い出したのだ。
案の定、ミュウはカイツール軍港の前を踏み出せないでいた。
ミュウを掴み、急いでルーク達のもとへ向かった。
ルーク達と同じ道ではなく屋根へと飛んだ。
視界が遮断された道よりも屋根のほうが、全体を見渡せ一直線に進めると判断した結果だ。
「あの者が言っていた《ママ》というのは」
ミュ「知ってますの!ライガクイーンのことですの!」
ミュウは前のめりになり、大きな目をより一層大きく開き、に言った。
「そうか・・・・」
は、初めてライガクイーンに会ったときのことを思い出した。
洞穴に入った瞬間に雷撃が襲い、話す暇などなかったが、防戦をしているうちにライガクイーンが疲れ始め、話す機会ができた。
説得をしている最中、ライガクイーンが言っていた。
『人の子 育てた。今 ダアト』
「なるほど。親の敵討ちに私も入っているわけか」
ガイ「フーブラス川でも襲ってきたんだよ」
はミュウから目線を外し、ガイへ移す。
ガイはを見上げる形になっている、仕方が無い、はまだ屋根の上にいるのだ。
は屋根から飛び降り、一定の距離を置きガイへと近づいた。
ふと、ヴァンがいないことに気がついた。
ルークが、門の先を見ていたので、コーラル城へ向かったと予測できた。
ガイ「あんたも身軽だな」
「身だけな」
アニ「なになに?親の敵って、そそのかしたって」
ガイ「ルーク達が倒したライガ・クイーンが、そうだとかなんだとか」
「私はその前に会っていて、子が生まれたら森を出ないかと交渉していた」
アニ「あ、そーいうこと。んっ?も魔物と会話できるの?!」
「いや、なんとなく感じる、といったほうが正しい。ライガクイーンほどの高位な魔物であればいいのだが、普通の魔物に対しては無理なようだ」
なるほど、とアニスは頷く。
ガイ「で、その後あの子は障気にやられて倒れちまったんだが」
イオ「僕がお願いして見逃してもらったんです」
アニスは腰に手をあて、頬を膨らませた。
アニ「相変わらず、根暗ッタてば、しつこー。しかも、全然こっちの話聞かないし。ほんっとめんどー」
ジェ「こうなることは、分かっていたんですがね」
(それでもなお殺さなかったというわけか、甘いな)
と思いながら口には出さなかった、出したところで過去は変わらない。
イオンは目を伏せ、この状況を生み出してしまったのは自分のせいだと思っていた。
そんなイオンを見てルークは思う。
アリエッタを見逃さなければ、ここにいる人間は死なずにすんだ。
だけどあの時、止めなければ良かったとも思わない。
そんな歯がゆさから、ルークはイラだってきた。
ジェ「まぁ、過ぎたことを言ってもしかたありません。とにかく我々は国境に戻って」
??「お待ちください、導師イオン!」
ルーク達は振り返った。
アニスは素早くイオンは庇う。
アニ「導師様になんの用ですか?あなたは誰です!?」
整備「わ、私はここの整備士です。導師様!どうか、攫われた我々の隊長を導師様のお力でお助けください。隊長は、預言(スコア)を忠実に守っている敬虔なローレライ教の信者です!今年の生誕預言(スコア)にも大厄は取り除かれると」
イオ「分かりました」
整備士が全てを言い終わる前に、イオンは答えた。
ジェ「イオン様」
ジェイドは諌めるように、イオンの名を呼ぶ。
イオ「ジェイド、預言(スコア)は詠まれたのです。わかってください」
ジェ「しかし」
ティ「私も、イオン様の考えに賛同します」
その後も、コーラル城へ行くか行かないかという議論がつづいている。
ジェイドはイオンと親書をバチカルへ届けるのが最優先であり、わざわざ危険なところへ行く必要はないという考えだ。
しかし、それではユリアの教えに反してしまう。
海の男は迷信深いから、変な噂が立ってしまってはという意見が飛び交い、ジェイドも、ついには折れた。
半ば仕方がないという感じだった。
(9・・10か?いや、門辺りに4人ほどいたな・・・・)
整備「隊長にはバチカルで残してきた、ご家族も」
ジェイドは折れたが、ルークに行く気がなかったせいで、整備士達はルークに懇願している最中だった。
ルー「わーった!」
ルークは整備士の前に手を出し、これ以上言うなと示す。
正直うざかった。
ルー「・・・分かったよ。行けばいーんだろ。あー、かったりー」
結局行く羽目になるんなら、あの時ヴァン師匠(せんせい)についていけば良かったとルークは思いつつ、ズルズルと歩き出した。
カイツール軍港の門では足を止めた。
「私はここに残る」
アニ「えっなんで?も根暗ッタに狙われてるんでしょ?だったら一緒のほうがいーじゃん」
「確かに狙われているが、貴殿らがコーラル城から帰ってくるまでの間は大丈夫だろう。それに・・戦力にもならない足手まといはいないほうが、余計な気遣いもしなくていい」
イオ「戦力にならないというのでしたら、そ」
ジェ「そうですね。この件に関しては貴方は部外者ですし、確かに戦力にもなりません。ここでおとなしくしていて下さい」
イオンの言い分を止めるようにジェイドは言い、眼鏡の位置を直した。
「あぁ、分かった。いってらっしゃい」
全員「・・・」
この状況でその言葉がでるとは、誰も予想していなかっただろう。
ルーク達は大きく目を見開いてを見る、あのジェイドもだ。
ジェ「まったくこの状況で、呑気なものですねぇ」
ジェイドは溜息交じりに言い、歩き出した。
アニ「そうですかぁ?アニスちゃんとしては、OKかなぁなんて♪じゃあ、いってきまーす♪」
イオ「いってきます。」
ガイ「ちょっくら行ってくるぜ」
ティ「行ってくるわ」
ミュ「行きますですの〜」
皆、それぞれに言葉をかけ、東へと向かった。
ルークとの目があった。
ルー「・・・・」
ルークは何も言わずに歩き出した、何て言ったらいいか分からなかったからだ。
ルー(くそっ、俺は屋敷から出たことがねぇからそんな言葉知らねーっつーの)
は、ルーク達が見えなくなるまで見送った。
ジェイドとルーク以外は振り返り、皆はそれぞれ軽く手を振り、イオンはお辞儀をした。
そして完全に・・・・見えなくなった。
(14・・・・だな)
は、振り返らず、死体を前に物怖じする整備士達に話しかけた。
「お前達」
ぴしゃりと背筋に鞭でも打つような厳格な声に、整備士達はびくりと肩を上げた。
「どうせ隊長がいないと何もできないのだろう。そこに、穴掘ってくれないか」
は門前、脇道の平地を指した。
(何だ、こいつ。偉そうに・・・)と整備士達は思ったが、それ以上何も語らないその人物の圧迫感に身が強張る。
まるで魔物に殺されそうになった時と同じ・・・・整備士の一人が喉を引き攣らせながら答えた。
整備「わっ分かりました。そっ、その、どの、ぐらいの大きさ、ですか?」
「そうだな、人一人入れる分の大きさをお願いしよう。数は・・・14」
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