【18.対面】
ルー(嘘だ。あいつが、キムラスカの英雄だなんて、嘘だ)
ルークは、を凝視したまま固まっていた。
モースは驚愕し、指していた指を上下に振る。
モー「何ぃ、貴様があの番犬か!お前が病などに倒れておらなければ、とっっくの昔に、戦、争、うぉっ、げほっげほっ」
ムセた。
「貴様こそ不届きにもほどがある。戦争など、誰も望んでいない」
モースは、更に顔を真っ赤にさせた。
今にも湯気が、でてきそうだ。
モー「なっなんじゃと!?儂は大詠師モースなるぞ!闘いしか能のない軍人が何を言うか、躾がなっとらん犬め!!」
散々な言われようだ。
しかしは聞き流すように、陛下に向き直り。
「陛下・・・」
モー「黙らんか、番犬!!今は、儂が陛下に謁見しておるんじゃ!陛下、番犬が病から立ち直ったのもユリアの導きに違いませんぞ。今こそマルクトへ宣戦布告を」
「この資料をお使いください。私も、和平を望むマルクト帝国皇帝ピオニー九世陛下のご意志に、偽りはないと判断致します」
無視。
まるで言うことを聞く筋なし、という意志が伝わる。
は持っていた資料を、陛下の近くにいるアルバイン内務大臣に渡した。
大臣は、何故かそれを物怖じしながら、受け取った。
よく見れば警備にあたる兵士たちも、腰が引けたような立ち方で、なんだか情けない。
一体、何をそんなに恐れているのか。
モースの目が血走る。
モー「ぬぅう。命令に忠実だと聞いていたが、病で頭がイカレたか!!犬なら犬らしく地べたを這いずり回り、おとなしく言われた通りにせんか!!」
今まで無視した人間も、経験もしたことがないモースは、怒りにまかせてを罵倒した。
ガイ「おい、あんたも大詠師だからって、いい加減にするんだな」
痺れを切らしたガイが、敬語を忘れモースに言った。
イオ「モース、怒りを静めてください。ダアトの印象にも関わります」
アニ「モース様ぁ、アニスからもお願いしますぅvV」
ジェ「権力者として、みっともないですよ」
ぐぬぬとモースは唸りながら、握りこぶしをつくり、なんとか怒りを落ち着かせる。
は、謁見の間に入ってから、初めてジェイド達に視線を投げた。
「私のことならば気にするな、今にはじまった言われようではない。だが・・・初めてお会いする貴殿らに、感謝の意を」
"初めて"を少し強調しては言い、頭を下げた。
ルー(?)
ルークは、今の言葉で我に返る。
ルー「何言ってんだよ。お前、マルクト」
ドゴッ
ティアがルークの脇腹に、軽く肘鉄をいれた。
ルー「~ってーなっ!何すんだよ!!」
モー「なんじゃと!?マルクトで番犬に」
ジェ「とーっても、そっくりな方を見かけただけですよ。世界には三人似ている人がいるといいますから、そのうちの一人だったのでしょう」
ジェイドが微笑をうかべて、モースの言葉に続くように言葉を繋げた。
イ陛「・・・陸軍大将、その資料は」
は陛下に向き直り、膝を折る。
「ケセドニアでのキムラスカ、マルクト両国による、ここ三年ほどの流通記録となります」
モー「そんなものが、和平になんの関係があるというのじゃ」
「軍物資関係の記録のみ抜粋しておりますので、マルクトが戦争の準備を始めているか否かが、お分かりになられるかと。・・・ダアト経由の流通記録とも合わせております」
裏ルートからの記録とも合わせていることは、伏せただった。
モースの質問に答えている、というよりは陛下に説明し続けている、と言っていい。
まるでモースはここには存在していないような態度であった。
イ陛「うむ、分かった。和平の親書とともに会議の場で」
モー「陛下!」
イ陛「モース、今言ったとおり、会議を開きその決議によって決める」
モースは小さく唸り、歯を強く噛みしめた。
モー「陛下、懸命なご判断を期待しておりますぞ。ティア、後に・・・よいな」
ティ「はい。モース様」
モースは、通り際、忌々しそうにを睨みつけ、陛下には聞こえない声量で「駄犬が」と貶し、謁見の間から去っていった。
近くいたジェイドにもその言葉は聞こえたが、二人とも何もなかったように微塵も態度に出ていない。
イ陛「。久しく戻った。ここ三年のキムラスカの内部、現状の把握に努めよ。急務がありしだい兵を使わす。部屋の場所は、覚えておるな」
「はい」
イ陛「ナタリアは、私の名代でシュザンヌの見舞いに行っている。帰りしだい私からお前のことを伝えておこう」
ルー「!母上が?!」
は返事をしたが、ルークの言葉でかき消されてしまった。
陛下に礼を交わして、ルーク達の横を過ぎ去り、謁見の間を後にした。
ルークもルークで母親のことで頭がいっぱいになり、インゴベルト陛下に問い詰めた。
ルー「伯父上!今の話は本当ですか?!」
イ陛「お前が突然いなくなり、倒れたと聞いた。早く、元気な顔を見せてきなさい」
ルー「はいっ!」
母上はもともと病弱で、精神的にも弱い。
あの丘に飛ばされてから、もう二ヶ月ぐらい経っている。
大臣「使者の方々は、城内にお部屋を用意しております。ご案内を」
そうアルバイン内務大臣が説明し、傍にいた兵を呼び出す仕草を見せたが。
イオ「あの、もしよろしければ僕はルークのお屋敷を拝見したいのですが・・」
アニ「私も、ルーク様のお屋敷に行きたいですぅv」
ジェ「ふむ。面白そうですね。こんな機会はないでしょうし、私もよろしいですか」
ルー「おう。別に面白いもんなんてねぇーけど。いいぜ」
アルバイン内務大臣は陛下のほうを見て、陛下は頷き、使節団がルークの屋敷に行っても問題ないことを確認する。
大臣「では、ご用がお済みになりましたら、城へお越しください。門に使いのものを待たせておきます」
ルー「じゃっ、行こーぜ」
ルークは、足早に謁見の間の扉に向かった。
【side】
赤い絨毯が敷かれた長い長い階段を下りていく。
階段下、から見て左側通路から、兵達が出てきた。
先頭には階級が高めの軍人、着ている軍服が周りと違い甲冑も付けていない。
その後から彼の部下達が、物理的にも精神的にも、金魚のフンのように連なっている。
軍人の一人がに気づき、周りに話しかけると、皆こぞって、を見た。
乱れた列を整えることもなく、ただその場で止まりボソボソと耳打ちをし合い、時折、笑い声を漏らす。
は階段を下りきり、執務室へ向かうため左へ曲がろうとして、兵達の存在に気づいた。
腰巾着達はさっと道を開き、先頭にいた男が礼をした。
金髪の波うつ中髪に赤茶の目。鍛えていない体つきとその物腰から、貴族であることがわかる。
??「これはこれは、陸軍大将、お初にお目にかかります。私、第二師団長。サーク・エイズム・キャリー大佐と申します。以後、お見知りおきを」
男は笑みを浮かべているが、どうも気味の悪い笑みだった。
(キャリー右大臣のところか。私のいない間に大佐。憶測に過ぎないが能力でとったというより、成り上がりの可能性が高いな。・・・調べれば分かることか)
「そうか。先を急ぐので失礼する」
はその場を後にし、サークと部下達の横を過ぎ去る。
サー「病に伏せられているとお耳にしましたが、もう・・・よろしいのでしょうか?」
の背に向かって、少し大きな声でサークは言ってきた。
天窓まであるこの移動空間に、その声はよく響いた。
上階渡り廊下の警備兵達が、下の様子を伺うほど。
「見て、分からないか」
は、振り返らず言う。
サー「これは、失礼いたしました」
サークは、が見ていないのをいいことに、頭を下げずに言ったが、声量の関係でにはそれが分かった。
サー「いったい、どのようなご病気だったのでしょう?三年も姿を御見せにならないとは、まさか・・伝染病の類、ではありませんよね?」
サークは、心配そうにわざとらしく言う。
気味の悪い笑みは深みを増していた。
は、首だけ軽く振り返り、サークを見た。
くすくすと笑っていたサークの部下達は、ピタリと笑うのをやめ、サークも一歩後を引いた。
「何が言いたい」
声のトーンが、少し低くなる。
これが、うっとおしいというやつか、とは思った。
サー「いえ・・・ただ再発なされては、と思っただけでございます」
「そうか」
相手にするのもバカバカしいと判断したは、短い返事をして、再び歩き出した。
サークは歩き出したに向って、周りの人間にもよく聞こえるように、ゆっくりと大声で言った。
サー「まさか、狂-犬病ー、ではございませんよねー」
周りにいた部下達は、噴き出し、下品な声をあげて笑いだした。
は、歩み続ける。
それをいいことに、サークの部下達も声を上げて、言いはじめた。
「噛まれぬよう、気をつけなくては」
「水を携帯してはいかがかな?」
「おう、そうだ。それがいい!!」
口々にわざと大声で言いながら、彼らは笑い声を上げ、とは反対の方向へ歩いていった。
アニ「何アレ?超感じ悪ぅ~!キムラスカ人ってあんなんばっか?」
サークがに病状のことを聞いているとき、アニス達は謁見の間を出て、階段上から、さきほどのやりとりを聞いていた。
ルークも、アニスと同意見だった。
あいつらはウザいと思う。
しかしそれよりも、何も言い返さないに対しての怒りのほうが強かった。
ルー(なんでだよ!なんで何も言い返さないんだ!あんたはキムラスカの英雄だろっ?!英雄っていうのは、皆に必要とされる存在じゃねーのかっ!!)
あのモースとかっていうやつも、あいつがケルベロスだって知った時は、英雄じゃなくて犬みたいな扱いだった。
同じ軍人、しかも階級も下の人間にあんなことを言われても何も言い返さない。
ルー(俺が憧れてた英雄はこんなんじゃねー。こんなんじゃねーんだ。英雄は、皆に尊敬されて褒められて・・・)
ルークはうつむき、拳を強く握った。
アニス達はすでに階段を下りている。
ティ「ルーク?」
ティアに名前を呼ばれて、はっと我に返った。
ルー「なんでもねーよ」
ルークは荒々しく階段を下り、が去ったほうを見た。
彼女の姿はない。
本人がいるわけではない、それでも・・・・ルークの気持ちは晴れなかった。
ルー(俺の英雄は、あんなんじゃねー)
振り切るように、ルークは城を出た。
【チャット形式】マジでイテー
ルー「つーかよ~。横腹、マジでイテーんだけど」
ティ「ごめんなさい。が私達といたことは知られたくないみたいだったから、つい」
ルー「ついってなんだよ!!ついって!!だいたい、俺達があいつと会って何か問題でもあんのかよ!」
ジェ「はぁー。今の状況をまったく理解していませんね」
ルー「はぁっ?!」
ジェ「彼女がマルクト領土にいたなどと知られれば、モースは、キムラスカがケルベロスを刺客を送ったとピオニー陛下に謁見し、今度はマルクトに戦争を促すでしょう。貴方の発言が、その証拠となってしまいます」
ルー「んっ・・・」
ルークはピクリと眉を寄せ、小さく呟いた。
ルー「~。そんなの・・・あいつが悪りぃんだろ」
ティ「ルーク、あなた」
ジェ「間違っていませんね」
ティ「大佐!?」
ジェ「このような状況下で、マルクト領土にいた彼女にも問題があります」
【チャット形式】がっかりだ
ルー「はぁ~~~。あいつがキムラスカの英雄だったなんて・・・・がっかりだぜ」
【ルークの屋敷前】
ルークは、屋敷のドアノブに手をかけた。
記憶を失って物心がつくようになってから、俺は何度この扉を開けようとしただろう。
まさか、こんな形でこの扉を開けるとは思わなかった。
初めて開けるのが屋敷の中からじゃなくて、外からってんだから、おかしな話だ。
ルークは、少し緊張した面持ちで、扉を開けた。
「おかえりなさいませ、ルーク様」
左右対称三人ずつ、焦げ茶に赤紫の服を着たメイドたちが頭を下げた。
全員が通るまで、そのきっちりと腰まで下ろされた体勢を崩さない。
ルー(そうだ。英雄っていうのはこんな風に、周りから頭を下げられるようなスゴイ奴なんだ!あいつは、下の奴らに笑われて、嫌み言われて・・・・)
ルークは何も言わずに、ズカズカと自分の足元を見ながら進んでいった。
そのまま行けば、もれなく柱に激突するところを、ある人物に呼び止められ回避された。
??「ルーク」
ルー(!)
ルークは、ぴたりと歩みを止めた。
目の前には白い柱、見上げると青く透明な刃の剣が飾られている。
屋敷に足を踏み入れると、その部屋には大砲や剣など、武器がいくつか飾られている。
ちょうど目の前にある剣は、父上がある戦争から持ち帰ったものだと、執事から聞いたことがある。
捨て置くにはもったいないほど、見事な剣らしい。
ガイはこの剣を、よく眺めていた。
俺に気がつくと良い剣だよな、と笑って言うけど、音機関とかっていうのを目の前にしたときと全然違って、いつも思い詰めたように見ていた。
飾られているのが、高い位置にあるせいだよな。
??「ルーク。帰ってきたのか。アルマンダインの伝書と、先ほどゴールドバークより報告を受けたので、そろそろ来る頃だろうと思っていた。無事で何よりだ」
ルー「父上・・・。はい、ただいま帰りました」
??「ガイも、ご苦労であった」
ガイ「・・・はっ」
??「使者の方々もご一緒か。どうぞ、ごゆるりと」
アニスの目が、今までにないくらい輝きを出し、その人物を見つめる。
【クリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレ】
キムラスカの元帥。
ルークよりも濃い真紅の髪をオールバックにし、体系はアルマンダイン伯爵に近い。
突然いなくなってしまった実の息子が、約二ヵ月経ち帰ってきたにしては、親としてもっと喜ぶものではないか。
キムラスカの軍人、元帥ともなると、客人の前で取り乱してはいけないと、判断したわけではない。
ルークの父はいつもそうだった。
ルークが我儘言ったり、悪いことしても叱ったり怒鳴ったり、母のように心配したりしない。
会話と言う会話も、あまりない。
そのため、ルークはそんな父に対して、ショックは受けなかった。
というより、城での出来事のほうが、ショックで仕方なかった。
ルークの父は、ティアに近づき訝しげに見る。
クリ「ティア・グランツ。・・・ヴァン謡将の妹だと聞いた」
ティ「はい。このたびは、ご子息を巻き込んでしまい。お許し・・・」
ティアは、即座に謝ろうと言葉を紡ぐが。
クリ「共謀だとも聞いている」
ティ「共謀?あの、今回のことは、私、個人が行動したことです。兄は、関係ありません」
ルークの父は探るようにティアを見て、何も言わず目を伏せため息をつき、ルークのほうを振り返った。
クリ「まぁ、よかろう。アルマンダインよりヴァン謡将のことも聞いたが、今はダアト向かっている、間違いないか?ルーク」
ルー「はい。ケセドニアで一旦、別れました」
クリ「そうか。シュザンヌに早く顔を見せてやれ。私は、今から登城する。客人方、我が無作法、お許しを」
そう言うなり、ルークの父は玄関口へと向かったが、ぴたりと足を止め、顔を歪ませた。
ジェイドは、元帥の前か、いつもの笑みはなく、優雅な物腰で頭を下げた。
ジェ「キムラスカの元帥に、再びお目にかかれるとは光栄です。その節は、大変お世話になりました」
ルークの父の顔つきは変わらず、目線は横へと外す。
視界にも入れたくないらしい。
クリ「和平の使節団の中に、マルクト皇帝陛下の名代がいると聞いたが、やはり貴公であったか。できることなら、二度と見たくない顔であった」
頭を下げたままのジェイドの横を足早に過ぎ去り、扉が閉まった。
ジェイドは顔を上げ、眼鏡の位置を直す。
アニ「大佐、もしかしなくても、ルーク様のお父様にお会いしたことあるんですか?」
ちゃっかりお父様呼ばわりをするアニスの脳内では、バージンロードが描かれていた。
ガイ「あんたが、旦那様と戦場以外に会うことなんて、あるのかい?なんだか、様子も変だったな」
ガイは顎に手をあて、登城しにいったルークの父を追うよう扉を見つめていた。
ジェ「ありますよ。と言いましても、私も、あれが最初で最後でしたし、滅多に起きるようなことでもありませんからね」
とくに隠すようなそぶりもなく、ジェイドはすんなり答えた。
イオ「ジェイド。それは・・・」
??「ルーク?!帰ってきましたのね?私心配しておりましたのよ!?お怪我はございませんの?」
ジェイドに向けられていた目は、流れるように声がした方に向けられた。
声の持ち主は、腰に手を当て、少し大きな歩幅で歩き、ルークに近づいてきた。
ガイよりも濃い金色の波打つ髪は肩元まであり、頭上辺りに髪留めを当てていた。
シーグリーンの両肩を出した上品なワンピースの服の端々には、白いフリルが可愛らしさを演出する。
ルークの前に立つと、その少女は腕を組むが、その様さえ気品があった。
少し怒っているせいか目にきつい印象があるが、ティアのような猫目とはまた違う。
??「ルーク!!聞いておりますの?」
ルー「あっあぁ、ナタリア・・・。そうだ、ナタリア。母上は!?母上は大丈夫なのか?」
ルークは、母のいる部屋を見た。
窓からは中庭しか見えず、直接部屋は見えるわけではないが、それでもルークの視線はナタリアに戻ることはなかった。
ナタリアと呼ばれた少女は、つんと口を尖らせる。
ナタ「私の質問に、答えておりませんわ。私だって、貴方がいなくなったと聞いてから、毎日心配しておりましたのに・・・。だいたい、貴方は、いつも私のおっしゃていることを聞いておりませんわ!!昔は、きちんと聞いてくれましたのに・・・」
ルークは、うんざりした顔になる。
また、始まった。
昔は、昔は、昔は。
会えば必ずお決まりの台詞ように、言ってくる。
言わなかった日なんて、あっただろうか。
ない。
そして・・・自分もお決まりの台詞を言い返す。
ルー「仕方ねーだろ。記憶喪失なんだからよ、覚えてねーっつーの」
ルークは後頭部をかいて、めんどくさそうに答えた。
次にくる言葉も決まっている。
ナタ「早く、思い出してくださいまし」
恨めしそうに、ナタリアがルークを見て言う。
ほらな。
つまねー会話、ルークはそう思った。
ナタ「ルーク・・・我・・は・・い・・・」
吹っ飛ばされた時はときは、野宿で地面に寝たり、食事も嫌いなもんばっかでて、ありえねぇことばっかり起きて、大変だったけど、もっと色んなことしゃべったり、見たりしたよな。
ナタ「ルーク?」
分けわかんねーこと多かったけど、なんか・・・。
ナタ「ルーク!」
ちょっとは、楽しかったつーか・・・・・。
ナタ「ルーク!!!」
ルー(!?)
ナタ「聞いておりまして?」
まったく聞いてなかった。
ルー(やべっ)
こうなると、もっと面倒な事になる。
ガイ「ナタリア殿下、ルーク様でしたら、どこもお怪我はございませんよ」
ルー(サンキュー、ガイ!)
ルークは、ガイに目で礼を伝えた。
気にすんなって、とガイはウィンクを返した。
今の発言によって、ナタリアの標的がルークからガイへと変わり、腕組をしながら、ずんずんとガイへと歩み寄る。
ナタ「ガイ!!貴方も貴方ですわっ!ルークを探しに行くときは、私のところに来なさいと、おっしゃいましてよ?忘れておりましたの!?」
ガイ「ナーーーータリア殿下っっ、これっ以上、近づかないでください!!俺の体質、知っておられますでしょう!!!!」
必死だ。
そして、いつものごとくものすごい体勢だ。
維持しているだけでも、身体能力の高さが伺える。
ナタリアは、呆れたようにガイを少し離れた位置で見る。
ナタ「いい加減、私には慣れたらどうですの?私とルークが夫婦になりましたら、お前も私の使用人になりますよの?分かっておりまして?」
アニ(!!!)
アニスが素早く手を上げて、ガイとナタリアの間を割って入ってきた。
アニ「あっあの!!今、夫婦って・・・」
ナタリアは今、気づいたのかアニスを見ると、ジェイド達を見た。
ナタ「まぁ、私としたことが、挨拶もなしに、会話など進めてしまって、失礼致しましたわ。私、ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディア。ルークの婚約者ですわ。以後、お見知りおきを」
と慣れた動作で、軽く膝を折り会釈をする。
アニ「ア、アニス・タトリン、です」
アニ(こっ婚約者!?でっでもでも、ルーク様は気があるようじゃないし、まだ、アニスちゃんにだって、チャンスは・・・)
イオ「導師イオンです。初めまして」
ジェ「マルクトのジェイド・カーティスです」
ティ「神託の盾(オラクル)騎士団のティア・グランツです」
ナタリアはティアの名前を聞いて、まぁと驚きの声をあげて口元に手を添えた。
ナタ「貴方が、ルークの誘拐をお企てなったグランツ謡将の妹君ですのね?」
全員(!?)
ルークはナタリアの肩を掴み、自分のほうを向かせた。
ルー「おっおい、それ、どーいうことだよ!!師匠(せんせい)が、俺を誘拐って!!」
ティ「何かの間違いです。今回のことは、私個人が起こした行動から、起きてしまったこと。兄は関係ありません!!」
ナタリアはグリーンの目を大きく見開き、ルークとティアを交互に見た。
ナタ「私、貴方のお父上から聞きましたのよ。そのことを、お父様に伝えるために登城しているはずですわ。聞いて・・おりませんの?」
ジェ「それは、まずいことになりましたねぇ」
ルークは、今までにないくらい早く反応した。
ルー「何がまずいんだよっ!!」
ジェ「王位継承者の誘拐を企てた犯人ともなれば、グランツ謡将は捕まりしだい、死罪になります」
ティ(!)
ルー「なんだって!!」
ルークはナタリアの両肩を強く掴んだ。
ルー「ナタリア、伯父上に師匠(せんせい)は何にも悪くねーって言ってくれよ。師匠(せんせい)は、関係ないんだ!頼む、ナタリア!!」
ナタ「分かりましたわ」
ナタリアは、頬をピンク色に染め、ちらと自分の肩に置かれている手を、嬉しそうに見る。
ルークはヴァンのことで頭がいっぱいだった。
ナタ「ただし、例の約束、早く思い出してくださいまし」
またそれか、ルークの目が宙を泳いだ。
ルー「ガキん頃のプロポーズなんて、覚えてねーっつーのっ」
アニ(プ・・プロ、ポーズ!?!?ア、アニスちゃんの、夢が・・・・・)
アニスのなかで、ルークとのバージンロードが音を立てて崩れていき、めまいが襲った。
立つこともままならないアニスを、イオンが受け止める。
導師を守るべきフォンマスター・ガーディアンとして、立場が逆だ。
ナタ「あら、でも一番最初に思い出すのが、あの言葉でしたら、素敵ではありませんこと?」
ルー「だーから、今まで何にも思い出せてねーのに、今更思い出すわけねーっつーの。いい加減諦めろよな。だいたい七歳ん頃じゃ、最初に思い出すはずねーよ」
ナタリアは哀しそうに瞼を落とし、溜息をはく。
言い過ぎたかと思ったが、本当にそうなんだから仕方がない。
この七年、どんな些細なことも思い出せていない。
いっそ、このまま思い出せなくてもいいと思ってるくらいだった。
過去に縛られて、なんの意味がある。
ナタ「はぁ。貴方のお父上には止められておりましたが、やはり、一度に合わせておくべきですわ。もしかしたら、何か思い出すきっかけになるかもしれませんし・・。次にお会いした時に相・・・」
全員(!!)
ルー「おっおい、今、何つった!!?」
ナタ「に会えば、何か思い出すかもと」
ナタリアは、きょとんとルークを見る。
何をそんなに驚いておりますの?と言って、小首をかしげた。
ルー「何で、あいつが出てくるんだよ!!俺とあいつ、何の関係が」
ナタ「ルーク!!に会いましたのね!?今、今どこにおりますの!?」
ナタリアはルークよりもすごい剣幕でルークに掴みかかり、体を揺さぶる。
ルークの首がガクガクと揺れ、天井とナタリアの顔が交互する。
これでは答えられない。
ジェ「その方でしたら、お城にいらっしゃいますよ。詳しい場所までは知りませんが」
ナタリアはジェイドへと、足早に近づき会釈をした。
ナタ「教えてくださって、感謝しますわ」
ルー「おいっ待てって、ナタリア!!俺とあいつは」
ナタ「あとは、ガイからお聞きになってくださいまし。お会いになったのでしたら、隠す必要もありませんわ。私は、お父様のところへ参ります。それでは、皆様、ご機嫌よう」
嵐のように現れ、嵐のように去って行ったナタリア。
ルークの片手は、宙を掴む。
ルー「・・・・・」
ルークはガイを睨み付ける。
皆も自然とガイに注目した。
ガイは、しまったなーというように苦笑した。
ルー「ガイッ!ガイも知ってたのか、あいつと俺が何か関係してるって!!父上が口止めって何なんだよ!分けわかんねぇ。何か知ってたんなら、教えてくれたって良かっただろ!!」
ルークはガイに、食ってかかった。
あいつと俺、何かあったなんて、初めて知った。
キムラスカの英雄について、ヴァン師匠(せんせい)に教えてもらったことしか、知らなかった。
ガイに英雄の話した時は、少し驚いた顔して「そうか」としか言わなかった。
ナタリアが隠してたことはいい、けどガイまで、父上が口止めしたからって、教えてくれなかったことが悔しくて、ムカついた。
俺より、父上をとったんだ。
ルークはガイに怒鳴るように、名前を叫んだ。
ガイは、困ったように頭を掻く。
ガイ「悪い、ルーク。確かに、旦那様には止められてたんだけどな。お前の・・世話しているうちに、すっかり忘れてたんだ。それにな、ルーク。俺だって、彼女がケルベロス(キムラスカの番犬)だって知ったのは、お前と同じ城で会ってからなんだ」
ルー「だから、俺とあいつは何なんだよ!!」
ガイは少し眉間に皺を寄せながら、悩むしぐさをするとルークをじっと見た。
ガイ「・・・ルーク、怒らないで聞いてくれよ」
すでに怒っている。
ルー「だから何なんだよ!!」
ガイ「彼女はな、お前が誘拐される前までお前の・・教育係をしてたんだ」
ルー「教育、係?」
ガイ「まぁ・・今でいう、ヴァン謡将みたいなもんだ。屋敷に来て、学術とか剣術とか、外で何が起きてるとか、教え・・・」
ガイ(あれは、教えていたっていうより・・・・)
ジェ「ほほぉ、そうなると、アルマンダイン司令官がおしゃっていた、自分の娘が・・という話しと結びつきますね。彼女は司令官の養女ですか。なるほど、貴族の養女ということは、嘘ではなかったようですね」
ジェイドは、過去にが言っていたことと、今までのことを結びつけていく。
とりあえず彼女は、全て嘘を言っていなかったことが、判明する。
ルー「そんなこと、どーでもいい!!あいつが、俺の教育係って、なんで口止めされなきゃいけねーんだよ!誘拐される前までって!!なんで、その後は来ねーんだよ!記憶がなくなったから、また・・・教えんのがめんどうだってことかよ!・・・・くそっ」
記憶を失った俺は、あいつに認めてもらえない、ということだ。
ルー(俺だって、あいつが英雄だなんて認めねー。絶対に認めねー)
ガイ「あのな、ルーク。多分、なんだが。旦那様は、記憶障害になったお前に会わすには、あまり良い影響はしないだろうと、お考えになってのことだと思うんだ。結構、傍から見ても、彼女の教育はハードだったからな・・・。誘拐された後、なんで彼女が来なかったのか、そいつは、本人に聞くし」
ルー「もういい」
ルークは首を下げ、朱の前髪が顔を隠していた。
口元は、への字に曲がっており、不機嫌であることは確かだ。
ルー「俺、母上んとこ行ってくる」
ルークは、母のいる寝室へと向かって、歩き出した。
ティ「それじゃぁ、私はここで」
ふいとルークは首を上げてティアを見た。
ティ「無事に、貴方をお屋敷まで届けたし・・・」
ルー「?なんだよ、母上に会って言っとけよ。そっちのほうが、お前もいいんじゃねーの?」
ティ「えっいいのかしら?私がお会いして、その・・悪化したり、しないかしら・・」
ティアは、その場から動こうとせず、しろどもどろになる。
ルー「大丈夫だろ?母上だって、ちゃんと言えば分かってくれるし。ほら」
ルークは顎でティアを促した。
ガイ「シュザンヌ様に会うのは、ティアだけでいいだろ?大勢だと、逆にお疲れになってしまうだろうからな。皆は俺が案内しとくぜ」
ルー「分かった。行こうぜ」
ティ「えっ、えぇ」
ルークはティアを引き連れて、シュザンヌの部屋へと向かい、奥の扉が閉まった。
ガイ「さてと。案内するなんて、大きなこと言ったけど、使用人の俺が案内できるっていったら、この広間と、隣の応接室と中庭ぐらいなんだが・・・」
くるりとガイは、アニス達に振り返る。
そこには、イオンに支えられ、絶望の淵に立たされたアニスが、暗い雰囲気を漂わせていた。
どうりで、静かだったわけだ。
ガイ「・・・二人が帰ってくるまで、応接室で待つか?お茶ぐらいなら、俺でも出せるし・・・。というより、そのほうがいいと思うんだけど」
ガイはアニスを見ながら言う。
イオ「はい、僕はそれでかまいません。アニスも・・休ませてあげたいですし」
ジェ「私も、それでかまいませんよ。窓から見る限り、屋敷の構成は把握できましたから」
侮れない。
確か、彼女もここに来た時、そんなことを言っていたような気がする。
軍人は、皆こうなのかと思いながら、ガイは皆を応接室へと案内した。
【ルークの屋敷:応接室】
確か三年だ。
彼女が、記憶を無くす前のルークの教育係をしていたのは・・・。
思い起こせば、七歳にしては本当にハードな教育体制だった気がする。
それに、その頃のルークは、政治のことや軍のことを意識するようになった。
彼女の影響もあってのことだろう・・・。
そう・・・。
そんな、あいつを見て、薄れていた俺の・・・。
ジェ「ガイ、お尋ねしたいことがあります」
ガイ(!)
ガイ「あっあぁ、なんだい?そうだった、俺もあんたに聞きたいことがあるんだ」
ジェ「質問によりますね。お先にどうぞ」
ジェイド達は、応接室の椅子に腰掛け、メイドたちとガイが用意した紅茶や茶菓子を嗜んでいた。
アニスは少し立ち直ったのか、すでに二つ目の茶菓子を手に伸ばす。
イオンは、そのアニスに、喉をつまらせないかと心配する。
ガイ「とっ言っても、さっきの話しの続きみたいなもんだ。旦那様とは、いつ会ったんだ?俺も結構長くここに仕えてるけど、そんな話しや噂、聞いたことなかったんでね」
ジェイドは、優雅に紅茶の入ったカップを揺らしながら、その色と香りを楽しむ。
ジェ「お会いしたのは交戦時代です。七年ほど前になりますね。・・・次は、私の番です。彼が誘拐されたのは七年前と聞きましたが、詳しい月日まで覚えておいでですか?」
紅茶に注がれていたジェイドの視線が、ガイへと移る。
ガイ「交戦時代って・・・」
ジェ「今は、私の番ですよ。誘拐され発見された日を覚えていますか?ガイ」
ガイとジェイドの間に挟まれたイオンとアニスは、二人の様子を交互に見る。
アニスは、茶菓子のスコーンを口に加えたままだった。
ガイ「あれはたしか、ナタリア殿下の生誕祭を祝ってすぐだったから・・・シルフの3日だ。発見されたのは・・・シフルの・・・・えぇっと」
ジェ「9日、ではありませんか?」
全員(!!)
ガイ「あぁ・・・9日だ、ルークをコーラル城で見つけたのは。・・・なんで・・・あんたがそれを知ってるんだ。まさか、本当にマルクトが誘拐してたのか?」
一瞬、ジェイドの深紅の瞳が細まり、それを隠すかのように笑みを浮かべた。
ジェ「言ってみただけですよ。ちょうどその日に、私はキムラスカの元帥とお会いしました。あの当時、誘拐の犯人はマルクトだと本人は言っていましたが、何かの間違いでしょう。そのときのマルクトに、そんな余裕、ありませんでしたからね。誘拐の後、他に変わったことはありませんでしたか?」
ジェイドは、紅茶を音を立てずに飲んだ。
まるで、午後の一時を楽しむ、他愛もない会話をしているようにジェイドは振舞っていたが、イオン、アニス、ガイから言わせると、驚きの連続だった。
ガイ「発見された日に会ったって・・・。あっそうか、誘拐の後かい?ルークが記憶喪失になったってことぐらいしか、いや、待てよ。そういえば・・炭鉱の作業が閉鎖されたような・・」
ガイは顎に手を当てて、記憶を手繰り寄せた。
ジェ「その作業していていた人たちが誰だが知っていますか?キムラスカ軍に捕まったマルクトの捕虜です。ですから丁度その日は、マルクトとキムラスカの捕虜交換が行われた日なんですよ」
ガタリとアンティーク調の椅子が音をたて、ガイは思わず立ち上がった。
ガイ「ちょっと待ってくれよ。捕虜交換があったって、仮にも旦那様は元帥だ。こういっちゃーなんだか、そのときのあんたが大佐だったとしても、マルクトの代表として役不足だろ!?」
驚くガイを尻目に、ジェイドは怒りもせず、優雅な笑みを崩さないでいた。
ジェ「確かにそうかもしれません。ですが、キムラスカ軍を捕虜として捕らえた人物、だとしたらどうでしょう?役不足として、とらえますかね?」
にっこりとガイに向かってジェイドは笑いかけた。
中庭にいる鳥の鳴き声と、草木を整えるペールのハサミが交差する音。
立ち上がったまま呆然としているガイに、座ったらどうですか?とジェイドは促し、ガイは、改めるようにジェイドを見つつ、全体重を預け、ドッと腰掛けた。
ガイ「あんたが・・キムラスカの、番犬を捕まえた軍人だったのか・・・・」
ジェ「向こうも捕まった、などという汚点は隠したかったのでしょう。捕虜交換は行われましたが、詳しいことは外部に漏れないよう、努力したようですね」
アニ「あっあの、大佐~?」
ジェ「はい、何ですか?アニス」
アニ「キムラスカの番犬、って・・のことですよね?もしかして大佐は、最初から気付いてたんですか?その、のこと・・・」
ジェ「えぇ。ですが、当の本人は全く気付いていませんでしたね。まぁ、当然といえば当然でしょう。何せ、捕虜として捕まっていた彼女や他のキムラスカ兵たちは、拘束され、目隠しもされていましたしね」
ガイ(?)
ガイ「それじゃー、あんただって分からないだろ?目隠ししてたんなら、顔なんて見れないじゃないか」
ジェイドは、一つ間をおいて口を開いた。
ジェ「・・・・それは、彼女とは捕虜以前に」
バタン
ルー「なんだよ。もう案内し終わったのか?」
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