【13.階級】


がカイツール軍港に入って行くと、ルーク達も歩みを進めた。
軍港に着くと、門や通路、宿舎の壁にあった血の跡が消えていた。

デッキブラシを洗っている整備士が見えたので、彼らが血の跡を消してくれたということが分かった。

今から機械部(エンジン)の修理に当り時間がかかるだろうと、ガイが言う。
ルー「ちぇっ。めんどくせーな」

ルークは、いつものように文句を垂れた。
ヴァ「そう言うな、ルーク」

ぴしっ
不思議と、この声を聞くと背筋を伸ばし姿勢を正さなくては、とルークは思う。

ガイのほうを向いていたルークに緊張が走った。
振り向けばヴァン師匠(せんせい)がいる、しかしその顔立ちが怒っていると思いながら、ルークはおそるおそる振り返った。

ヴァンは優しげな目で、自分にいつも見せてくれる笑顔を浮かべていた。
ルー「・・・・はい、師匠(せんせい)」

ルークの中にあった重たい気持ちが、すっとなくなり、身も心も軽くなった。
ヴァ「イオン様。私はアリエッタの件をアルマンダイン司令官に報告致しました。後程、イオン様からもお願いします」

それはルークに話しかけた声とは違い、重くどこか緊張の走る声だった。
イオ「・・・分かりました」

そう言うと、ヴァンは宿舎へと去っていった。
ガイ「イオンも辛いところだな」

ルー「なんでだよ?」
ガイ「アリエッタはイオンの部下だ。その部下が起こした不祥事をここの他の連中には知らされていないだろうが、アルマンダイン伯爵となれば話が違う。しかも、その犯人を引き渡さないっていうんだから、伯爵は納得いかないはずだ。まぁ、そのあたりは謡将がうまく話すだろうけどな」

ルー「ふーん」
何を言っているのはさっぱり分からなかったが、とにかくヴァン師匠(せんせい)に任せておけばいい。全てがうまくいく、それだけは分かった。

ガイ「けど、今一番注目を集めているのは」
ガイはジェイドに目を向ける。

ガイ「キムラスカ軍港にマルクトの軍人ね」
ジェ「さすがに目立ちますねぇ。いつ《だれそれの仇》と叫ばれて、後ろから刺されるかと気が気でなりません。私もまだまだ長生きしたいですからvV」

そんな物騒な言葉を、爽やかな笑顔で言う。
軽々しく言っているが、ルークはそれだけこの軍人は恨みをかう・・・つまりそれだけキムラスカの人間を殺してきたのかと思うと身の毛がよだった。

早くヴァン師匠(せんせい)のところに行きたい。
今はそれしか頭になかった。

アニ「大佐ってば、いっつもそうやって本当の気持ち隠そうとするんですよね」
ジェ「いえいえ、アニス。そんなつもりでは、ぜーんぜんありませんよ。私は、もともとこういう性格ですから」

ガイ「まぁ、軍人なんて仕事をやっていると、いろいろ素直に表現するのもまずいんだろうな。・・・あぁ、そうじゃない人も、いたな・・・」
ガイは、ふと昔のことを思い出す、そう、ルークが誘拐される前のことだ。

(??『相手が何を思い、どう自分を思っているのか知りたければ、まず自分がどう思っているか素直に言うことだ。・・例え反発するような発言でもだ。でなければいつまもその距離は縮まらないと、私は思う』)
 覚えているのはやっぱり後姿。長い黒髪と紅い軍服。

ジェ「そんな方がいるとしたら、今頃生きているのでしょうかね?それに、注目を浴びているのは私だけではないようですよ」
ジェイドは眼鏡の位置を直しながら、キムラスカ兵を見回した。

ほとんどのキムラスカ兵はジェイドと目を合わせないように、それでも時折ジェイドの方を見ているが、宿舎のほうも気になっている様子であった。
ルー「やっぱ、ヴァン師匠(せんせい)だろ♪」

ルークは嬉しそうに言った。
ルー(ヴァン師匠(せんせい)はなんて言ったって、ダアトの首席総長だからなっ)

果たして、キムラスカ兵の注目を集めているのはヴァンなのか。
ルークたちは宿舎へと入っていった。

宿舎に入ると、長机の一番奥にキムラスカの紅い軍服に身を包んだ角刈りの軍人が座っていた。

垂直に位置する場所にヴァンも腰をかけていた。
ルークは迷わずヴァンの隣へと向かった。

ルー(へへっ、ヴァン師匠(せんせい)の隣♪)
順番にティアが、となるはずだったがアニスがティアの前をすり抜け、ルークの隣へと座った。

アニ(ルーク様の隣は、アニスちゃんの席〜VVゆくゆくは玉座も)
ティアはアニスの隣に座り、向かい側を奥から順に、イオン、ガイ、ジェイドと席に着いた。

ガイ(助かったぜ)
両隣が女性ではないことを、密かにほっとしたガイだった。

ガチャリ

全員が席に着いたとほぼ同時に、アルマンダインの右側奥、出入り口とは反対側のドアが開き、が出てきた。
血を洗い流した髪は少し濡れ、肩に白いタオルをかけていた。そのタオルがところどころ赤いのは、洗った時についた血のシミだろう。

服は着替えたらしく、血の痕跡も臭いもしない。
「あぁ、帰ってきたのか。おかえり」

これから重苦しい話になるはずだったにも関わらず、宿舎にはその場の空気にそぐわない言葉が響いた。

アニ「ただいま、♪アニスちゃんの思ったとおりだったね♪」
ティ「た、ただいま。その、怪我は、してない?」

アニスは予想が的中したのか嬉しそうに答える。ティアも返事に迷いながらも答え、ガイも軽く交わした。
ジェイドとイオンに、その余裕はなかったのだろう、無言のままだった。

ルークにいたっては、ヴァンしか見えていない。
「あぁ、とくにない。・・・ティアたちも無事そうだな」

ルー(!?)
ルー「無事だって?!俺はなっ、薄気味悪ぃ城ん中行ったり来たりして、魔物に捕まって、おかしな光浴びて、変な椅子に座った奴になんか言われて、仮面野郎に馬鹿にされて、魔物と戦って、帰りは歩き、これのどこが無事に見えんだよっ!」

ガイ「お前が歩きたいって言ったんだろ。ルーク」
ルー「あっ、そうだった」

ルークは思い出したかのように、頭をかいた。
「そのわりには、元気そうに見えるぞ」

は右手でタオルを持ち、ごそごそと何かしている。
ルー「見てねーじゃん!」

「んっ?あぁ、すまない」
謝罪の言葉は述べているが、目線は右手のタオルに集中している。

ただし、ルークが《変な椅子》と発言した瞬間、僅かにその手の動きが止まったのをジェイドは見逃さなかった。
ジェ(あの馬鹿と面識があるようですね。まぁ、義手を見た時点でおそらくは、と思いましたが・・・当ってほしくありませんでしたよ、まったく)

ジェイドは小さく溜息をついた。
ガイ「どーした?旦那」

ジェ「いえ。席に着かないのかと思っただけです」
ジェイドは話の的をへと戻した。

ティアは自分の前の席が空いていることをに言おうとした。
「いや、私は」

ルー「当たり前だっ!席なんて空いてねーつーのっ!!」
しつこいようだが、ルークはヴァンしか見えていない。

ティ「何言ってるの!大佐の隣が空いてるでしょ?あなた数も数えられないの?!」
ルー「お前人を馬鹿にするものいい加減にしろよ!数えられねーのはお前のほうだろっ!あれは・・ミュウの席、だっ!!」

全員「・・・・・・」
「だそうだ」

ミュ「さん、ミュウの席に一緒に座るですのっ!余ってるですのっ!」
ミュウもミュウでちゃっかり座っていたようである。

ヴァ「部外者とも言えぬだろう。いきなり私に襲いかかったほどだ」
ルー「なっ!!」

ルークは椅子を鳴らして、立ち上がった。
はヴァンは見下す。

「貴様に襲いかかったのではない。貴様の抱えていたやつを殺そうとしただけだ」

アル「うぉほん」
アルマンダインは咳払いをした。

アル「今からその者について話をするところであったなヴァン謡将。そちらの方もよろしかったら席について頂きたい」

「はい」
は反論することなく席に移動し、ミュウ抱えながら机の上へ移動させた。

ミュ「皆さんが良く見えるですのっ。さん、ありがとうですの」
ティ(羨ましい)




【アルマンダイン伯爵】
キムラスカの大将を勤める言わば軍の司令官である。
ルークの父、元帥の次に偉い軍人。

その風貌と雰囲気は、ルークの父と同様、または凌ぐほどであった。
ただ座っているだけでも、その存在感は重厚に見える。

キムラスカのとても質のいい生地を使用している紅い軍服を身に纏い、両肩には大将の印と胸の辺りに勲章があった。
角刈りの少し白髪交じりの髪、口元の髭からも厳格さがにじみ出ている。

アルマンダインはルークを見ると目元の皺を深くして笑った。
アル「改めてルーク様、おひさしぶりでございます」

ルークは無言でアルマンダインを見ていた。
アル「覚えておられませんか?幼い頃一度バチカルのお屋敷でお目にかかった、アルマンダインでございます」

ルー「覚えてねぇや・・・」
アル「ルーク様はまだお小さかったですから仕方ありません。・・・ですが娘のことは覚えていらっしゃいますでしょう。何せルーク様が幼い頃、数年ではありますが教育係を」

ヴァ「アルマンダイン伯爵、今は」
ヴァンが止めに入った。ルークが記憶喪失であることは話していないのだろう。

下手に知られてしまえば、後々めんどうになる。
アル「うむ。そうであったな。ルーク様、お会いする機会があればまたいずれお話できれば光栄です。何せ何度も生死の境をさ迷われたとお父上から話を伺っておりましたので、私も心配しておりました」

は少なからず遠い目をして、冷や汗をかいていた。
(出来れば本人の目の前で言うべき内容ではないと思うのだが・・・)

リョーカの様子が一瞬おかしくなったものの、目線は右手のタオルにそそがれ、皆アルマンダインを見ているので、誰もその様子に気がつかなかった。

ルークはルークで大きく目を見開いていた。
ルー(生死の境って・・・おっ俺、もしかしてそれが原因で記憶喪失になったんじゃ)

ヴァ「イオン様。アルマンダイン伯爵にはアリエッタの件をお話しておきました」
イオンは頷くと席を立ち、アルマンダイン伯爵に向かい、頭を下げた。

イオ「伯爵・・・我が僕(しもべ)の不手際、どうかお許しください」
アル「ダアトからの誠意ある対応を期待しておりますぞ」

彼の口調は先ほどの穏やかなもの違う。
固く、腹の奥底では怒りを押し殺したように感じられた。

ヴァ「貴公も納得して頂けただろうか?」
ヴァンがのほうを向いた。

は右手に添えられた目線だけを、ヴァンのほうに向けた。
首を下に向けていたせいで、ものすごい勢いで睨んでいるように見える。

「何故、私に聞くのだ」
ヴァ「我が部下を見るなりいきなり切りかかってきたであろう。キムラスカ兵達の復讐ではなかったのか?」

ヴァンもいつもより低く、ルークが聞いたことがないような声でに言った。
は視線を右手のタオルに戻す。なるべく深く詮索されないよう、自分のことで一杯一杯という素振りを見せる。

「あの者が私を仇と言ったのでな。いつ殺されるか分かったのもではない。だから殺される前に殺そうとしただけだ。それに復讐は・・・何も生み出してはくれない」

は最後の言葉は少し覇気がおち、まるで自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
ガイはそのの最後の言葉を、ある人に言われたことを思い出した。

ガイ(やっぱりどこかで・・・)
ヴァ「たしかに、復讐は何も生み出しはしない。しかし、気づかせるものはある」

ルー(ヴァン師匠(せんせい)?)
ルークは初めて見るヴァンの表情や言葉に少し戸惑うが、これがバチカルの屋敷ではないせいだと思った。

ティ(兄さん・・・やっぱり)
ティアは目を伏せる。

ルークは、バチカルの屋敷を思い出したこともあり、何気なくアルマンダインに言った。
ルー「あっそうだ。アルマンダイン伯爵。伯爵から父上に伝令って出せないか?」

アル「ご伝言ですか?伝書鳩ならバチカルご到着前にお伝えできるかと思いますが」
ルー「それでいい。これから導師イオンと、マルクト軍のジェイド・カーティス大佐を連れて行くって・・」

ガタンッ

ジェイドと言葉を出したとたん、伯爵の顔色が一気に青くなり、固まった。
もともとあった静かな覇気も、落ち着いた表情も一切無くなった。

ルークはアルマンダインの豹変ぶりに、分けが分からなくなり言葉をなくした。
自分の向かい側右奥に座っていたジェイドが、盛大な溜息をはいた。

ジェ「ルーク、あなたは思慮がなさすぎますね」
ルー「な、なんだよ・・・」

ルークはまだ分からないようである。
アルマンダインは、自分の中で揺れ動く感情を殺し、ジェイドに聞く。

アル「まさか・・・・死霊使い(ネクロマンサー)、ジェイドか?」
ジェイドは眼鏡の位置を直し、にっこりと微笑んだ。

ジェ「そのとおり。ご挨拶もせず、大変失礼いたしました。マルクト帝国皇帝ピオニー九世陛下の名代として、和平の親書を預かっております」

アル「・・・随分、貧相な使節団ですな」
アルマンダインは、静かに怒気をはらんで言い放った。

「タルタロスを率いた軍人約100名も、そこの主席総長の部下に殺られたのです」
ジェ「貴方は余計なことを言わないでください。数多の妨害工作がありましたので、お許しいただければ、と思います」

アル「その情報はキムラスカ側にとっても必要な内容かと。それとも知られたくない理由があるのかね」
ジェ「いいえ。ただお伝えしたところで、言い訳になると判断致しました」

アル「情報開示も和平の使節団の務めでは?そこのキムラスカ人の弁明に謝罪と感謝を」
ジェイドはに向くと膝を折り頭を下げた。タルタロスでルークにした時のように。

ジェ「先程は大変失礼致しました。弁明して頂き誠に有難うございます」
「私も出過ぎた真似をした。気を付ける」

は再び右手に集中した。
思わず口を出してしまった。自分はなるべく関わらないでいるべきだというに。

(難しいものだな)
は小さく溜息をつき、下を向いたまま、少し態度が変わった司令官の様子を伺った。

ルー「なぁ、こいつら俺を助けてくれたんだ。なんとかいいように頼む」
ルークがそう言うと、アルマンダインは深く目を伏せた。

普段のアルマンダインならば、きちんと話し相手の目を見ているはずだが・・・。
アル「・・・わかりました。取り急ぎ本国に鳩を飛ばしてみせましょう。明日には船も出港できますゆえ、本日はこの港でお休みください」

イオ「お世話になります」
アル「いえ、こちらこそ。大したおもてなしもできず。申し訳ございません」

非礼を述べるが、アルマンダインは用意した言葉をただ読むだけの心無い言い方だった。
目は伏せたままだが、意識は、ジェイドを睨みつづけていた。





【階級】

ルーク達は宿舎を後にした。
ヴァンはまだアルマンダイン伯爵と話しがあり、アリエッタの監視もあるといい宿舎へと残った。

ルークはヴァン師匠がアルマンダインのことを司令官と呼んでいたことを思い出した。
ルー「なぁ、アルマンダインって伯爵なのに、なんで司令って呼ばれてたんだ?」

ルークはガイに振ると、ガイはうーんと手を顎に当てた。
ガイ「伯爵って地位もあるし、司令っていうのは階級で言うなら大将を指すんだよ」

ルークはますます分からなくなる。
ルー「んっ?大将って、キムラスカの英雄も陸軍大将だよな?どう違うんだよ?」

ガイは少し悩むとふとジェイドに目線を送った。
ジェイドはその視線に気づくと、にっこりと笑い

ジェ「そういうのは、そこの方が詳しいじゃないんですか」
に目線を流す。

一番後ろにいたは、やっと本当に爪のなかに入った血をタオルで落としている最中だったが、ジェイドの声が自分を指したこと察し、顔を上げた。
「ん?キムラスカの階級についてか?」

ルー「あっあぁ。大将とか陸軍大将とかなんか分けわかんなくてさ」
ルークは恥ずかしそうに言う、馬鹿にされるだろうと思ったからだ。

「そうか。ふむ、それなら簡単な説明だけで事足りるな」
は別にそうは思わず、少し考えるしぐさを見せる。

「まず一番上が元帥だというのは分かるな?」
ルー「まぁ、俺の父上がそうだし」

「その次が順に大将、少将となる」
ルー「おう」

「大将と少将の間にある階級が、陸軍大将と海軍大将だ」
ルー「なんで間にいるんだよ。別に、いらなくね?」

ルークの疑問が次々と生まれてきた。

「ふむ。キムラスカには八師団あるのは知っているか?」
ルー「・・・知らねー」

ルークは、そんなことも知らないのか?と言われるだろうと思い、しぶしぶ答えた。
「そうか。再び階級の話に戻るぞ」

ルー「あっあぁ」
「大佐、少佐、大尉、少尉と順に階級が下がり、階級が高くなると、そこから従える兵の数が大雑把に平均すると約3倍になる。ここまでで疑問は何かあるか?」

ルー「いや」
ルークは軽く首を横にふった。

「では、今言った階級をまとめるのが、少将だ。それが一師団となる」
ルー「ってことは・・・キムラスカには少将が八人いるってことだよな?」

は少し目を細め
「そうだ。その少将の中で海軍を勤めるのが第一から第三師団、陸軍を勤めるものが第四から第八師団」

ルー「分かった!で、その三師団をまとめるのが海軍大将で、五師団は陸軍大将、んで陸軍大将と海軍大将をまとめるのが、大将ってことだよな!!」

「あぁ。海軍より陸軍のほうが師団数が多いのは、陸のほうが今は重要視されているせいだ。そのほかにも作戦決めをする参謀部などがあり、この辺りの人間は前線にはでない」
ルー「へぇ〜」               

ジェ「いや〜、勉強になりましたね〜♪」
ガイ「ってあんたは、知ってんだろ」

ジェ「えぇ、敵国のことですからね。おっと失礼、元、になる予定でしたね」

相変わらずその笑みの真意を掴むことはできない。
は説明が終了すると、右手の爪を見て溜息をついた。

爪の中に入ってしまった血を、タオルで拭おうとしていたが、何度挑戦しても一向にとれる気配がない。
(もう、ほっとくか)

ジェイドはのほうへ行き、不機嫌そうな顔をしてタオルを取り。
ジェ「血がとれないのなら早くそう言ってください」

そういうとの右手を引き、血を拭き取っていった。
ジェ「手ぐらい貸してあげますよ。貴方は左手が使えなんですから」

(同じようなことを前にも言われたな・・・)
??『貴方は右手しかないんです。と・く・べ・つ・にこの美しくも深慮深い私が、この私が!手を貸してあげますから何かあったら遠慮せず呼びなさい。いいですね?!』

あぁそうだ。義手を通じて、人に頼るということを教えてもらったのだ。
まさか、他からそれを言われるとは思っていなかった。

(そう言えば、あの者も六神将だったな。コーラル城で会ったようだが、一体、何をしていたのだろう?)
は、銀髪で丸眼鏡をかけ、常日頃『実験です!』と叫んでいた学者のことを思い出していた。

ジェ「これでいいでしょう」
爪の中の血は綺麗に取れていた。

その代わり、ジェイドの手袋に血がうっすらとついてしまった。
「手袋が汚れてしまったな」

ジェ「・・他に言うことがありませんかね。大丈夫ですよ、替えがありますから」
ばさりとタオルをの右手に置くと、さっさと先へと行ってしまった。



【チャット形式】中間管理職が一番大変
ルー「そういえばよ。大佐ってあんまり偉くないんだな」
ルークは階級の話を思い出しジェイドに話しかける。

ジェ「そうですねぇ。大したことないですよ」
ジェイドはさらりと答えた。

ルー「ふ〜ん。やっぱキムラスカの英雄ってすげーんだなぁ。軍で三番目に偉いしなぁ♪」
ルー(俺と同じ、継承者三位ってのとかぶるな〜♪)

憧れの存在に少しでも自分と共通点あると、単純で些細なことでも嬉しく感じる。
「そうでもないぞ」

ルークとジェイドの間にが、入ってきた。
ルー「おぉっ!!お前、いきなり出てくんなよ」

「ゆっくり出てきたら、会話に入れぬではないか」
ガイ(そーゆー意味じゃないと思うぞ)

ルー「だってそうだろ?そんなに上のほうじゃねーじゃん、下ってわけでもねーけどよ」
「少佐の下にも階級は四つほどある。それに大佐というのは、だな・・・別名中間管理職とも言って、上の無理な都合と責任を課せられ、下の勝手な行動による不手際を改善し、言い分を聞き、板ばさみになる・・・言わば一番大変な階級、と言ってもいいだろう」

は至極うんざりしたように言う。
普段から無表情だが、その目は遠い。

ジェ「はっはっは。まるで経験したことがあるような言い方ですねぇ」
「いや、想像しただけだ」

ジェイドは眼鏡に手をかける。
ジェ「部下には困ったことはありませんよ。あえて言うなら上、ですかね」

「上か・・・」
(どこも変わらんのだな)

ルー「そっか、ジェイドも大変なんだな」
ジェ「おやおや、貴方に気を使われるとは。明日は雨、いえ六神将かもしれませんね」

ルー「なっ、どいう意味だよ!?」
ジェ「そのままの意味ですよ」

ジェイドはスタスタと、向かい側の宿舎へと行ってしまった。
ルークはチラリとを見る、目の高さが同じせいかすぐにには気づいた。

「ありえぬ人からありえぬ事を言われたので、絶っっ対にありえない事が起こる。と言いたかったのだろう」
はルークが何も言わなくても察し、ぽつりと答えた。

ルー「なん・・・。ちっ、もう二度と言うかっつーの」
「案ずるな。雨はありえるが、六神将が降ってくるわけがない」

ルー「それ、フォローになってねーだろ!!」



ジェイドは、先に本日泊まる宿舎へと入っていった。
そのままルーク達もつづいていくが、は素通りしていった。

イオ「、入らないのですか?」
イオンがに話しかけた。

は船着場の先に向かおうとして、振りかえった。
「私はしばらくしたら入る。導師イオン、海風は体に良くない、早く宿舎で休まれたほうがいい」

イオ「分かりました。・・・
「何でしょう?」

イオ「いえ、すみません。何でもありません」
イオンは目を下へと下げた。

「そうですか。ですが、物事を言いかけてやめるのは威厳に欠けます故、お気をつけください」
イオ「はい。ありがとうございます」

「お礼を言われることではありません。節介というやつです」
イオ「いえ、僕も貴方を見習わなくてはなりません」

イオンはそう言って、宿舎のドアを丁寧に閉めた。 






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