【14.出港】

の旅路:ライガクイーンとの会話】

ザザーッ

キムラスカ軍港に波音が響く、時折り船着場からはエンジン修理の音が聞こえる。
は船着場奥に立っていた。

波風がの髪を揺らす。
目に映るのは、夕日が海へと姿を消していく景色。

(アリ『貴方が、ママをそそのかした人!!』)
(私はただ、別の森へ移動しないかと言っただけなのだが・・・)




あれは、一人で旅をしていたときのことだ。
ライガクイーンの住処である森が全焼し、チーグルの森へ行ったという話しをエンゲーブで耳にした。

チーグルの森は、この村の近くだったことを思い出し、夜遅く森の奥へと足を踏み入れた。
無謀ながらも、ライガたちを、なんとか別の場所へ移動できないかと思ったからだ。

幸い、夜に凶暴化する魔物たちは襲ってこなかった。
一定の距離をとり、茂みの中や木の上で様子を伺っているだけ、自分が目線を送ると逃げ出していった。

魔物は、分かっているのだろう・・・・勝てないと。

大きな木の奥へと進むと、洞穴があった。
明らかに、外の空気と違う。

ガガッ

奥へと進み、月明かりに浮かぶライガ・クイーンと目が合った瞬間、雷撃が襲う。
ライガ・クイーンが、あたりの木々と空気が震えんばかりの咆哮をあげる。

殺しにきたわけではないが、通じるはずもない。
しかし、何故か分かったのだ。

ライガ・クイーンの咆哮が何を言っているのか。
自分の耳を疑いつつ、雷撃や鋭い爪を避けながら傾けた。

『餌食』
『子 触れさせぬ』

『人の子』
やはり、自分の耳がおかしくなったわけではなかった。

今まで魔物に遭遇したことはあったが、こんな経験は初めてだった。
もしや、クイーンにも自分の言うことが通じるのではないかと思い、攻撃を避けながら呼びかけた。

「私は餌食になるつもりも、貴方の子に危害も加えるつもりもない。話しを聞いてほしいだけだ」

ライガ・クイーンは、戦闘態勢を維持したまま、動きをとめた。
もクイーンの攻撃が届かない範囲に立つ。

一時(いっとき)の間、クイーンが小さく唸りをあげる
『言う 分かる か弱き人の子』

「全てではない。通じる。と言う感じだ」
『私 お前分かる 少し』

はライガ・クイーンと話す機会を掴み、子が生まれたら、この森をでないかと案を出した。
答えは否。

そもそもの原因は、チーグルがクイーンの住む森を燃やしてしまったことだと聞く。
確かにチーグルが悪いと思った。

しかし、いつか人間が自分たちの保身のために、殺しにくるだろうと言うと。
『子 生まれ 森出る 条件』

まさかこの場で自分を食わせろ、と言われるのではないかと思った。
はっきり言ってごめんだ。

自分は、キムラスカを去ってから、この三年の旅の中で、生きなければならない理由ができた。
『生きる森 見つけよ』

少しだけライガが笑ったように見えたは、気のせいだろうか。
「・・・必ずや、発見致します。クイーン」

はライガ・クイーンの前で、膝をつき頭を下げた。

それから少し話をした。
と言っても、最初は森の条件だった・・・かなり注文が多かった、果たしてそんな森があるのかと少し不安になるくらい。

その後は、人間を育てた経験があり、今は元気にしているかと安否を気にしていた。
自分と同じ尻尾の色の髪をした、少し内気な少女だそうだ。

その安否を心配する姿は魔物というより、母親の姿に見えた。
話しを終えるとはクイーンを後にし、森を出ようとした。

『夜深い 休め』
「早く見つけないと、人間が貴方を殺めに来るかもしれません」

『か弱き人の子 殺されず』
「死は、いつ、どう起きるか、分からないものです」

『・・・』
「これでも私は、普通の人間よりも身体能力はいいほうだ。すぐに見つけて参ります」

は、再び森から出ようと足を進めた。
クイーンは最後に、小さく呻く。

『命落とす時 お前に』

「・・・・」
『情け 子 残す』

「・・もしもの、ときは・・・・」







【一人じゃ寂しいじゃん】

ルー「腹減ったぁ。たく、待たせんなっつーの」
宿舎の一室、長方形型の木のテーブルに、食事が並ぶ。

食事からは湯気が立ち込め、作られたばかりだということを告げていた。
ルークは適当に席に着くと、すぐさま口に放り込んだ。

ガイ「ルーク、まずは、いただきますだろ?せめて手ぐらい合わせろって」
ガイは宿舎の奥の部屋から現れ、後から他の皆も出てきた。

ルー「もう食っちまったんだから、今更やっても意味、ねーだろっ」
そう言って、また一口放り込む。

全員から、少なからず脱力の雰囲気が漂った。
ルー「なんだよ?食わねーのか?」

ガイ「いや、食うよ」
ガタガタと簡素な木造の椅子を鳴らし、皆席に着く。

ガタリ

アニスも一度は席に着いたが、無言で立ち上がると、宿舎を出ようとした。
イオ「アニス、どうしました?」

イオンはアニスの後を追う。
アニスは宿舎のドアの前でくるりと振り返る。

アニ「を呼びにいこうかなぁ〜って。ですから、イオン様や皆は先に食べててください。では」

バタン

アニスは片手を挙げ、キメポーズをとると、宿舎を出て行った。
ルークは、屋敷のシェフの料理を思い出していた。

ルー(やっぱ、シェフって料理、うまいんだな)
ルー「はぁ。早く帰りてぇ〜」







side】
ザーッ
漣の音。

は静かに目を開けた。
夕日は、半分ほどその姿を海に隠し、青い海を夕焼け色に覆いつくしてゆく。

空も雲も、夕日に近いものは鮮やかに夕に染まり、遠くなるにつれて紫から夜の色となる。

(森は、見つけたものの間に合わなかった。卵も割られ、子も守れなかった。私がもっと早く・・・)
は軽く首をふった。

(いや、思ってしまってはあとが尽きない)
「アニス、押すのはなしだ」

は夕日を見たまま、自分の数歩後ろにいるアニスに話かけた。
アニ「あれっ?なんでバレちゃったのかな?」

アニスは考えるしぐさをした、ツインテールが揺れる。
「気配で分かる。何か用か?」

アニ「夕飯ができたから行こーって、言いに来ただけ」

「あぁ、もうそんな時間か・・アニス、すまないが、この夕日が沈むまで私はここにいる。だから」
アニスはウサギ飛びで、の横にいくと、膝を抱えて座りこんだ。

アニ「じゃー、アニスちゃんもそうしよーって、迷惑かな?」
アニスは首をすぼめ、を見上げた。

は少し驚きつつ片眉をあげて、アニスを一瞥すると、目を伏せた。
「いや、迷惑ではない」

ザァ、ザッザアァァッ 
不規則な波の音。

あと少しばかりで、夕日が沈みきろうとしたときだった。
アニ「あのね、

アニスが、いつもよりも小さな声で言う。
「なんだ?」

はアニスのほうを見た。
アニスはを見ずに、膝の上に顎を乗せ、自分の足元を見ていた。

アニ「あの時、軍港の門辺りにいたとき、・・・泣いてた?」
「・・・そうか、もうその時には近くにいたのか」

アニ「うん」
「泣いてなどいない、血が目に入っただけだ。泣いてなどいない」

いつもの覇気ある声だったが、アニスには自分に言い聞かせているように聞こえた。
アニ「ほんと?」

「本当だ。私は泣かない。私は、ぐ 

ぐきゅうぅ〜〜〜〜〜 きゅる♪
アニ「あ“っ」

の言葉を空腹音が遮った。
アニスは、わたわたと手を振ったかと思えば、小さくまるまってしまった。

耳が赤い。
「・・・・・・。夕日が沈むまで、と言ったが宿舎に戻るとしよう」

アニスは、素早く立ち上がると、がっくりと上半身を項垂れた。
アニ「はぁ、ルーク様がいなくて良かったぁ。・・、今の、内緒だよ」

は、ゆっくり宿舎へと歩いていた。
「あぁ、誰にも言うつもりはない。・・・しかし、夕食は冷めきって、皆も食べ終わっているころだろう。私は別に構わんが、アニスは良かっ」

アニスはの右腕を引っ張っりだした。
からは、アニスの背中と揺れるツインテール、彼女がいまどんな表情をしているかは分からないが、おそらくまだ頬は赤いままだろう。

アニ「冷めてたら温めなおせばすむけど、一人で食べるのって寂しいーじゃん」
(寂しい?)

軍人になってから、食事は一人だった。
誰かと食事をしたのは、数えるほどの記憶しかない。

だから一人で食事をすることは普通のことだと、寂しいなどと思ったことはなかった。
なかったが・・小さな少女の背中が、大きく見えたのは何故だろう。

アニ「誰かと一緒に食べたほうがおいしいって。だから、はアニスちゃんと一緒に食べるのです♪」
の心臓が大きく脈を打つ。

(まただ。これはなんという感情だろうか・・・)

がちゃ

アニスが、宿舎のドアノブに手をかけ、扉を開けた。
ガイ「おぉ、遅かったじゃないか。待ってたんだぜ」

ガイはテーブルの横に立ち、ウェイトレスが持つように料理皿を両手で支えていた。
だいぶ時間は経っていたはずだが、皿からはほのかに湯気が立ち込めていた。

ジェ「そろそろ呼びに行こうと、思っていたところですよ」
にっこりと笑うジェイドは、手を組み座っていた。立つ様子は、皆無だ。

ガイは首だけジェイドのほうを向け
ガイ「あんた、俺に行かせる気だったろ?」

ジェ「おやっ、私は別にあなたにとは言っていませんよ?」
ティ「これで最後の、あらっ?アニス、も、ちょうど良かったわ。空いている席について、これで最後だから」

ティアが奥の部屋から、最後の料理皿を持って、現れた。
ジェイドとはまったく違った優しげな笑みで、アニスとを迎え入れる。

アニ「あれれ?もしかしなくても、待っててくれたんですかぁ?」
イオ「はい。アニス、、一緒に食べましょう」

イオンは座ったまま振り返り、アニスとに笑む。
アニ「はい、イオン様。えへっ、お待たせしちゃってすみません。、行こ♪」

「・・・」
はアニスに引っ張られ席に向かった。

何故だろう。
待たせてしまい詫びなければならないのに、礼を言いそうになった。

おそらく、この不可解な感情のせいだ。
だが、この感情がなんなのか分からない。






【カイツール軍港 夜】
夕食も終え、皆は床に着き、寝静まる夜更け。
は外にいた。

アニスが呼びに来たときと同じ場所に立って。
譜石による明かりが軍港を点々と照らし、夜でも辺りの様子がうっすらと分かる。

軍港の門前やアルマンダインとヴァン謡将がいる宿舎周辺には、数人のキムラスカ兵が警備にあたっている。
エンジンの修復をしていた整備士達も作業を終え、今はもう床に付いている。

同じ色をした空と海。
夕時よりも静かな、眠りを誘い込む波音。

は、夕食のことを思い出していた。

あの時、空席があった。
(ガイ『ルークにも、一緒に待とうっていったんだけどな・・』)

(ルー「はぁ?そんなの、時間にいねぇ奴がワリーんじゃん。俺には関係ねーし」)
(ガイ『って言うなり、先に食っちまって。悪いな、』)

そう言って、目線を寝床へと向けた。
おそらくルークは今、日記を書いているか、すでにもう寝ているといったところだ。

今までのルークの言動や行動を、は振り返った。
(ルー『座る席なんかねーっつーの』)

(ルー『下賎な奴には分からねぇーだろーな』)
(ルー『げっ、気持ちわりぃ』)

(ルー『ルーク・フォン・ファブレ様だっ!』)
は閉じていた瞳を開き、暗い波間を眺める。

(変わられた。誘拐され記憶を失ったとは初めて知ったが・・あれは本当にそうなのか。私の記憶にある【聖なる焔】の断片が見えない。それに・・・脳が記憶しなくとも体が覚えているはずだ・・・)
ほんの数年、教育係をした。

そのとき、食の好き嫌いは、ほぼ克服させたはずだった。
だが、旅路を共にして、そんなことはなかったと告げるように、好き嫌いが元の状態に戻っていた。

剣技を教える段階までいかなったが、受身や防御のタイミングに関しては、あの当時、少なからず習得していたはずだ。
それも、まるでなっていない。

【あれは違う】

の勘がそう言った。
女性の勘と言うより、長年戦場で生き延びてきた野生の勘というやつだ。

「・・・・・・」

(ルー『誰も味方がいねぇーつーなら・・俺がなってやる』)

だが、ただの記憶喪失だという、自分もいた。

ジェ「夜更かしは、お肌に悪いですよ」
(!)

いつの間にかジェイドがの背後に立っていた。
(さすがは名高き軍人、気配を消すのは造作もない様子だ。しかし、私も私だ・・・感覚が鈍っているようだな)

は軽く腕を組んだ。
「それはお前のことか?」

ジェ「・・・・・いつまた、他の六神将が襲撃してくるとも分かりません。それにここは敵地です。おちおち安心して寝てもいられませんからね。別段、数日ぐらいきちんと眠れずとも、任務に支障はきたしませんよ」
否定はしなかった。

ジェイドも、六神将の襲撃にあってから、浅い眠りにしかついていない、キムラスカ領に入ってからは尚更のことだった。
しかし、そんなことを感じさせず、余裕の表情を崩さずにいる。

「そのわりには穏やかだ。敵地であるキムラスカに来ても、臆する様子もない」
ジェ「あなたはずっと、気を張り詰めていますね。敵地であるマルクトより、キムラスカのほうがその印象が強く感じられます。まるでキムラスカが敵地かのような」

ジェイドは軽く目線をのほうへ向ける。
「・・・。そのようにしているつもりはなかったが、側(はた)から見ると、そう見えるのだな」

は目線を落とし、自嘲気味な表情になった。
ジェイドは、の隣に歩み寄った。

少しキムラスカ兵の視線を感じはしたが、警備に集中し直したのだろう。
すぐにその感じは失せた。

「何名、亡くなったのだ」
チラとジェイドはを見て、目を閉じた。

ジェ「昨日亡くなったキムラスカ兵の約10倍、といったところでしょう」
「140か・・腹立たしい限りだな」

殺めた張本人は、自分達のすぐ背後にある宿舎で、今もなお生きている。
そしてまた、親の敵討ちとして狙われ、昨日のキムラスカ兵のようにまったく関係のない人々の命が失われてゆくかもしれない。

そうなると分かっている上で見過ごすのは、果たして殺めた者だけの責任と言えようか。
見過ごした者にも、同等の罪が科せられる。

例えどんな理由や言い訳があったところで、遺族から見れば関係のない話だ。
死んでしまったことに変わりはない。

ジェ「そうですね。ですが、貴方のように、悲しんだり、涙を流すことは、私にはできません」
「・・アニスにも同じようなことを言われたが、私は泣いてなどいない」

ジェ「おやっ、てっきり泣いているかと思われましたが、私の思い違いのようでしたね。すみません」
相変わらず感情の見えない言い方、悪びれている様子には聞こえない。しかし、自分に非があったと思っていることが、は分かった。

うわべだけの言葉と態度がどんなものか、幼い頃から経験していたせいだろう。
「謝ることではない。私の紛らわしい行動にも原因があった」

冷たい夜風が吹く。
ジェイドとの髪が揺れ、体温を奪う。

は全身に黒い服を身に纏っているせいか、闇に溶け込んでいるように見えた。
ジェイドは軽く首を下げ、眼鏡の位置を直した。

ジェ「明日、っと言っても日付では今日ですが、アルマンダイン司令官にことの事情を伝えて、貴方をここに置いていきます。先ほども言いましたが、いつまた他の六神将が襲ってくるか分かりません。これ以上、民間人、である貴方を巻き込む訳にもいきませんしね」

「分かった。・・・アルマンダイン司令官には私から話していおこう。そのほうが手間も省ける」
ジェイドはのほうを向いた。

ジェ「それは助かりますね。あちらも私とは話したくないでしょうから・・・。さて、私はそろそろ宿舎に戻ります。貴方も眠っては如何ですか?軍人ならともかく、民間人、なんですから」

先ほどから、やたらとジェイドは民間人という言葉を強調して言っているように聞こえた。
それを流すかのように、の目線は海を見る。

「もうしばらくここにいる」
ジェ「そうですか。では、先に失礼します」

ジェイドはをその場に置き、宿舎へと向かって行った。
夜の軍港に、ジェイドの規則正しい足音が響く。

「世話になった。チーグルの森から約一ヶ月半」
は振り返らず言った。ジェイドは、ぴたりと歩みを止めた。

ジェ「おかしな質問をします。貴方は・・民間人、ですか?」
「そうだ」

背中を向け合う会話、二人とも振り返らない。
ジェイドは目線を下げた、暗闇でその表情を見るものはいない。

「・・・今は、そうだ」
ジェ「・・・・・」

ジェイドは振り返り、いつものアルカニックスマイルをに向ける。

ジェ「分かりました。では・・・いずれまた」
そう言って、静かにドアの閉まる音が聞こえた。

(そう、今は)
しばらくして、は宿舎へと戻っていった。

ベットには行かず、近くの椅子に腰掛け足を組み浅い眠りにつく。
三、四時間後、宿舎の窓から日が差し込み、カイツール軍港の夜が明けた。

そこに、の姿はない。






【カイツール軍港出港】

カモメが鳴く。
足元は揺れ、波飛沫が跳ねる。

ルーク達は今、キャツベルトに乗っていた。
早朝、ルーク達のいる宿舎にアルマンダインが訪れ、キャツベルトの準備が整ったと告げた。

その時はまだ、朝食の際中だった。
追い出されるかのように、ルーク達はキャツベルトに乗り込み、カイツール軍港を出た。

アルマンダインから、長居は無用という態度が伺えた。
キャツベルトにの姿はない。

朝にはもう、宿舎にいなかった。
ジェイドから話しを聞いたときは、アルマンダインのところに行ったかと思ったが・・・。

見送りに来た人の中にも、の姿はなかった。
ルークはサッサとキャツベルトの中に入っていき、他の皆も自由行動をとりはじめた。

ジェイドは、軍港から目を離さなかった。
ガイ「あんた、なんだかんだ言って、彼女に気があったんじゃないのか?」

冷やかしているような台詞に聞こえるが、ガイが言うと、そう聞こえない。
邪気がないせいだろう。

ジェ「いえ、散々足を引っ張っておいて、お礼の一言もなかっと思っていただけです。まぁ、肩の荷が一つ降りて、清々しました」
にっこりとガイにお決まりの笑顔を見せると、キャツベルトの中へと入っていった。

ガイは軽く汗をかき、苦笑いをする。
ガイ(キツイなぁ。そんなに足引っ張ったようには感じなかったけどな)

ガイは軍港を見ると、そこにはまだ、アルマンダインが立っていた。
ガイ(?追い出すようにしてたわりには、ずいぶんと長い見送りだな・・・)

大きな波がぶつかり、キャツベルトを揺らす。
ガイ(おっと、さて、俺も中に入るか)

ガイは、キャツベルト内に入っていった。



アルマンダインは、キャツベルトが見えなくなると、宿舎に入り他の兵を下がらせた。
全体重を椅子に預けるように腰掛け、両手の指と指を交差して合わせ、肘を机の上に置く。

アル(・・・・)

あれは昨日のこと。
ダアトの主席総長と入れ違いに入ってきた・・・我が娘。

三年前に一通の手紙だけ残し、姿をくらました。
手紙の内容は短いものだった。

【手紙を残し、突然居なくなる御無礼、お許しください。
 身勝手ではございますが、戦い亡き今、私は司令官にとって必要のない存在となりました。
 この気に、縁をお切りになってください。
 このことは、陛下にもお伝えしております。】

娘としてではなく、軍人として書かれたことが悲しかった。

ただ、三年の歳月を経て目の前にいる娘は、記憶にあるものより、成長したように見えた。
見た目ではない、纏う雰囲気が、あの頃よりずっと落ち着いていた。

「お久しぶりです。・・・司令官」
アリマンダインは、寂しそうに目を伏せる。

アル「父と、呼んではくれないのか?血は繋がってはおらんが、今でもお前は、私の娘だ」
は、一瞬眉を寄せる。

「私はもう・・・」
アル「縁は切ってはない、切る必要がないからだ。・・・陛下も、階級の剥奪はなさってはいない。お前が帰ってくると、今でもお待ちになっておられる」

娘は無言だったが、内では驚いていることが伝わった。

三年もの間行方をくらませ、職務も放棄した身勝手な者に対する扱いではないと考えている。
たしかに、功績を残してきたとはいえ甘すぎる優遇だと、アルマンダインも思った。

だが、陛下が決めたこと、何が言えようか。
戻って来るまでの間、アルマンダインが地位を預かっていた。

アル「戦いだけが軍人の、自分の存在価値ではない。民を守ることこそ、軍人としての務め。・・そう気付き、戻ってきたのだな」

アルマンダインは、諭すように言った。
血は、繋がっていない。それでも、娘の姿を見てきたからこそ、何を感じ、何を思っていたか分かった。

「何も言わなくても・・・分かってしまわれる、ものですね」
アル「私は、お前の父だ」

「・・・・・」


その後は、軍港で起きたこと、ルーク様とご一緒にいられること、現在の素性を聞き、血を洗い流すよう奥へと向かわせた。

私とは、初対面ということした。
そして今朝、娘は開口一番にこう言った。

「これより、単独でキムラスカに参ります」

少し目を伏せ、軽く眉を潜めた。
「・・・あの方々に、私がキャツベルトに同乗していることは、伏せておいてください」

悲しそうに見えた。初めて見る、表情だった。
そしてキャツベルトへ乗艦しにいった。





キャツベルトを見送った私は、今、宿舎の椅子に腰掛けている。

アルマンダインは目を閉じる。
静かに深くため息吐きながら、組み合わせた手に額をおく。

ここで娘と会うこと。
娘がキムラスカに戻ること。

アル(全て預言(スコア)通りになった)

そしてこの先・・・。
アルマンダインは目を開く、その瞳は、決意を示していた。


アル「これも・・・・キムラスカ繁栄のため」








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