【15.軟禁の理由】

【キャツベルト艦内】

ルー「なんだっけ?・・・そうだ、死神、ディストっと、キムラスカの番犬(ケルベロス)に会えたら・・・いい、な・・・・・・」
ルークは昨日の日記を書いていた。

どうやら疲れていたらしい、ベッドに横になるだけでいたが、そのまま寝てしまった。
ジェ「本当に日記を書いていらっしゃるようですね」

ルー「うぉっ!おっさんいつの間に!・・・み、見てねぇーだろーな」
自分の背後にジェイドが居たことに、まったく気がつかなかった。

ソソクサと少し赤くなりながら、日記を手で隠す。
ジェ「見る気はまったくありませんが、声に出して書いているようでは、関係ありませんね」

茶化す。
必ず茶化す。

ルー「一人だと思ったんだよ。だいたい、ノックぐらいしろよなっ!(勝った)」
ジェ「しましたよ。三回」

何も言い返せなくなった。
ルークは、そっぽを向いてジェイドから視線を外した。

ルー「〜で、何か用かよ。おっさん」
ジェイドのことを、こう呼べるのはルークぐらいだろう。

マルクト兵が知ったら、卒倒するかもしれない。
だが、ジェイドはそう呼ばれても、怒る様子も無くいつもの笑みをたたえていたが、ふとその笑みを消して真面目な顔つきになった。

一瞬、さすがに怒らせてしまったのかと、ルークは思った。
ジェ「いつか・・・私を恨む日がくるかもしれません」

ルー「?」
まただ、また分けのわからないこと言い出した。


ついさっき、皆がこの部屋にいたときも・・・。

(ジェ「自分が自分でなかったらどうします?」)
そんなことを聞いてきた。

ルークの訳の分からないという表情をジェイドは読み取り、いつもの笑みに戻った。
ジェ「いずれ、分かるときがきますよ」

そう言って、ドアノブに手をかけ。
ジェ「あぁ、そうでした。≪死神≫ではなく≪鼻たれ≫ですよ」

バタン

そう言って、部屋を後にした。
ルー「・・・」

ルークは日記を開き、死神に二重線を引き。
ルー「鼻たれ、っと」

書き直した。


【同時刻、隣の部屋】
(沈むな、沈むな、大丈夫だ、沈むはずがないではないか)

がいた。
祈るように手を合わせ、キャツベルト乗艦時からこの状態だった。

ルーク達は乗っていることを知らない。
今でも、軍港にいると思っている。


【同時刻、ルークside】
ルークはジェイドのことを思い出していた。
自分を探るように見てきたのは、確かタルタロスで気絶して、捕まった後のことだ。

コーラル城であの装置を見つけてからは、訳のわからないことを言ってくるようになった。
もともと訳の分からないやつだと思ってたから、対して気にしてない。

ルー(暇だな〜外にでも行ってみるか)

ドアを開けると、近くにガイとイオンがいた。
珍しい組み合わせだ。

ルー(そーいやぁ、ガイも、記憶が戻ったかーだの言うようになったよな。屋敷ではそんことあんま言わなかったのに・・・)

イオンと話していたガイは、ルークに気がつき軽く手を挙げた。
ガイ「よう、ルーク、どうした?酔ったか?」

ルー「っつか、船に乗ったの初めてだから、酔ったかどうもか分かんねーよ」
ルークは後頭部をかきつつ、二人に近づく。

ガイは顎に手を当てる。考えたり思い出したりするときは必ずこの仕草を見せる。
ガイ「そうだなぁ。めまいとか、頭痛とか・・・吐き気辺りが当てはまるんじゃないか?そうなったら、早く言えよ」

【その頃
(いかん。酔った)

【ルークside】
ルー「〜子供扱いすんなって。そーゆーんなら、俺よりもイオンのほうがアブなそうだけどな」

イオンは穏やかな笑みをみせる。
イオ「心配してくださるのですか、ルーク。ありがとうございます」

ルー「なっ、そんなんじゃねーよ。ただ、お前に何かあったら大変だろ。で、・・・大丈夫なのかよ?」
イオ「はい、僕も船はタルタロスが初めてでしたが、大丈夫です。ルークは優しい方ですね」

素直に感謝されるのは慣れていないくて、どうしたらいいか分からない。
ルー「だから、いちいち言うなって。さ、さーて、外の空気でも吸ってこようなかなー」

かなり棒読みだ。
ルークはぎこちなく、階段を上っていった。

ガイ「気にしないでくれ、照れてるんだ」
イオ「はい」



【キャツベルト:ブリッジ】
ルー(おぉ、すっげー。何処見ても海ばっかだ。そーいやー何だかんだで、こーやって海を見るのも初めてだったなー、俺)

ルークは、キャツベルトのブリッジの柵によりかかり下を覗いた。
タタル渓谷から見えた海は青かったが、近くて見るとすこし緑がかっているように見える。

アニ「ルーク様〜♪」

ルークは首だけをだるそうに振り返る。
ルー「んっ?なんだよ、お前。イオンのところにいなくていのかよ?」

アニスは後ろで手を組んで左右に揺れる。
アニ「今は、ガイがいますから〜近くにいたら悪いかなぁ〜なんて」

アニスなりに気を使っているらしい。
この歳にして、自分よりもずいぶんしっかりしている面を見せられるときがあってたまに驚く。

ルー「ふ〜ん。で、俺になんか用かよ?」
ルークは手すりに体重をかけて、海のほうに向き直って溜息を

アニ「ルーク様はぁ〜、ぶっちゃけティアのこと、どう思ってますか〜?」
ルー「ぶはぁっ」

吹いた。
いきなり何を聞いてくるんだ。

ジェイドとは別の意味で、アニスも訳の分からないことを聞いてくる。
たまに独り言を言ってるときもあって、実は少し変な奴だとも思ってる。

アニ「その反応は、まさかルーク様、ティアのこと」
ルー「ウゼーとしか思ってねぇーよ!あんなウルセー女」

アニスはほっと胸を撫で下ろした。
アニ「なーんだ。てっきり気があるのかと思ってましたぁ〜♪」

アニスはルークの腕にしがみついた。
ルー「あーもー聞きたいことが終わったんなら、あっち行ってくれ。一人になりたいんだよ」

ルークは振り払うと、アニスに向かって追い払うように手を振った。
アニ「は〜い。ルーク様ぁ。ご気分が悪くなったら、いつでもアニスちゃんのことを呼んでくださいね」

アニスはキャツベルト内に入っていった。
ルー「はぁ〜〜」

ルークは手すりにうな垂れるように体重をかけた。

ティ「ルーク」
ルー「うおぉっ!」

一難去って、また一難。
ルークはびくりと起き上がり、慌ててティアの声がしたほうを振り返った。

ルー(やっべ、さっきの聞こえ)
ティ「あの・・・私、あなたの記憶障害のこと軽く考えていたみたいで、今まで、その・・・ごめんなさい」

どうやら聞こえていなかったようだ。
むしろ謝るのは俺なんじゃないかと思いながら、突然素直に謝られるとどうしていいか分からないルークは狼狽えた。

ルー「ど、どうしたんだよ。いきなり、お前らしくねーじゃん。・・あ、あんま気にすんなって」
ティ「本当に、ごめんなさい」

言うだけ言って、去ってった。
ルー(変な奴)

ティアの様子が変わったのは、皆で艦内にいた時だ。
第七音素(セブンスフォニム)や、セルパーティクルの常識ともいえる知識を知らないのかと飽きられていたときに。

(ルー「他に覚えることがあったんだよ。・・・親の顔とか、親って何なのかー、とか」)
その時のティアの表情は、驚いているようにも悲しんでいるようにも見えた。

その後から、第七音素(セブンスフォニム)のことを教えてくれた。
俺とティアがあんな場所に飛んだのも、二人が第七音素譜術士(セブンスフォニマー)同士で超振動ってのが起きて、それが原因だと言ってた。

ルー(結構貴重な譜術士で、ジェイドは使えないって、言ってたっけなぁ)
海風がルークの髪を揺らす。

ルー(それにしても、海ばっかで飽きたなぁ。・・・ってイッテー)
ルークは頭を押さえた。

頭痛がルークを襲う。
ルー(いつもの偏頭痛か?それとも、酔ったのか?どっちなんだよ、ったく、紛らわしーな)

そう思っていると、勝手に体が動き出した。
両手を海に向け、頭の中で声が聞こえた。

??『ようやく捉えた・・・。我と同じ力を、見せてみよ・・・・・・』
ルー(偏頭痛の、ほうか・・・幻聴じゃ、ねぇー、クソッ、体が、勝手に)

大気が振るえ、ルークの手の中から丸い光る玉のようなものが出現した。
それはどんどん大きくなっていく。

訳が分からない、自分が自分でなくなった感覚にルークは恐怖した。
自分の意思は無視され、目の前の光は大きくなっていく。

ルー「な、何なんだよ、これっ!・・・い、嫌だ!やめろっ!!」
ルークの顔は引き攣り、声は強張る。

ヴァ「ルーク!落ち着け」
ヴァンが、ルークを後ろから抱きとめ、両手を押さえた。

ルー(せ、師匠(せんせい))
背中からヴァン師匠(せんせい)の体温を感じる。

ヴァ「落ち着いて深呼吸をするんだ」
泣きそうになった。

自分がいつも助けて欲しいときにヴァン師匠(せんせい)は助けてくれる。
いつだってそうだった。

ルー(ヴァン師匠(せんせい)の言うとおりにしないと)
ルークはゆっくりと深呼吸を始めた。

ヴァ「・・・そうだ。そのまま指先に意識を集中するんだ。私の声に耳を傾けろ。ゆっくりだ」
ルークはヴァンに言われたとおり、指先に意識を集中した。

恐怖や焦りはない。
ヴァン師匠(せんせい)がいてくれるから安心できる。

ぴくり

指先が動いた。
その瞬間、ドッと力が抜けた。

ヴァ「おっと、大丈夫か?ルーク?」
ヴァンは自分に押しかかってきたルークを支える。

ルークはよろけながらヴァンのほうを向く。
ルー「お、俺・・・・・・一体」

ヴァンは支えるようにルークの肩に手を置き、近づく。
ヴァ「超振動が発動したんだ」

ルー「超振動って、あのバチカルでティアと起こした」
ヴァ「確かに、それも超振動だが・・・・・・」

ヴァンはそこで、言葉を止めた。
ルークに不安が押しかかってきた、あのヴァン師匠(せんせい)が、険しい顔になっているからだ。

ヴァンは溜息をつき、ルークの顔の位置まで体勢を落とすと、耳打ちするかのような小さな声になった。
ヴァ「ルーク。お前が七年前にマルクト帝国に誘拐されてから今まで、軟禁されてきたことに、疑問を持ったことはないか?」

超振動と軟禁生活、なんの関係があるのかルークには分からなかった。
今まで、俺が軟禁生活を強いられていたのは・・・。

ルー「それは、父上たちが心配・・・」
ヴァ「違う」

ヴァンは頑な声で断言した。
ルークはビクリと肩を震わせた。

ヴァ「お前が軟禁されていた理由、それは世界でただ一人、単独で超振動を起こせるからだ。キムラスカはそのお前を飼い殺すために」
ルー「ちょっ、待ってくれよ。師匠(せんせい)」

ルー(飼い殺すって、俺は、俺はペットじゃねーぞ)
ルー「だいたい、超振動って、どっか飛ばされるだけじゃないんですか!?」

ヴァンは、ルークの肩から手を離し腕を組む。
ヴァ「超振動というのは、第七音素譜術士(セブンスフォニマー)が二人いて成立するもの、お前が知っているのは不完全なものだ。本来は、あらゆる物質の破壊、再構築を可能とする」

ルー「それを・・・俺は、一人で起こせる・・・ってことですか?」
ヴァ「そうだ。訓練すれば自在に操れるようになるだろう。様々な兵器にも応用が利く。そうなれば、キムラスカの譜業技術の結集しだいでどんなものができるか・・・・・・お前の父も国王もそれを知っている。だから、マルクトもお前を欲したのだ。放って置けば自分たちを滅ぼす人間兵器が《また》育つ可能性がある。だがうまくすれば自分たちの兵器として使うことができると思ったのかもしれない」

ルー「また、またって・・・」
ヴァ「前に話したことだ、ルーク。キムラスカの英雄、キムラスカの番犬(ケルベロス)もまた、人間兵器と呼ばれている。だが、個の能力が高いだけでお前のように超振動を使えるわけではない。キムラスカはお前のその力を、守っているに過ぎない」

ルークの胸に深い痛みが走った。
俺を守るためではなく、俺の力を守るために今まで軟禁されていた。

ルー「そんな、そんなの嘘だ・・・」
ヴァ「嘘ではない。神託(オラクル)の盾騎士団の総長たる私が、長くファブレ家に通っていたのは真実を知るため。そして、今の話が真実だ」

ルー「俺はっ!俺は、兵器にされるために軟禁されつづけていたってのか!?まさか・・・このまま一生・・・。あっ!ナタリア、ナタリアと結婚すれば!」
ヴァンは首を横に振った。

ヴァ「同じことだ。おまえが二十歳になると同時に、姫と結婚させ、どこにも行けぬよう、国王はお考えになられている。軟禁場所が屋敷から城になるだけだ」
ルー「そんな・・・そんなのごめんだ!確かに外には面倒くさいことが多い過ぎるけど、ずっと閉じ込められて、戦争になったら働けだなんて・・・」

ルークは頭を抱え込みうつむいた。
両肩にそっと、ヴァンの手が置かれる。

ヴァ「落ち着きなさい、ルーク。まずは戦争を回避するのだ。そうすれば、平和を守った英雄として、お前の地位は確立され、少なくとも理不尽な軟禁からは開放されよう。国王がそれを阻んでも、民がそれを許さぬ」

ヴァンの一言一言がルークの内に響き、そうなると思えてきた。
ルー「そう・・・かな?」

ルークは確かめるように目線だけを見上げ、ヴァンを見た。
ヴァンは優しく笑う。

ヴァ「大丈夫だ。自信を持て、ルーク。キムラスカの番犬(ケルベロス)も英雄として称えられ、他の軍人よりも優遇を受けている」
ルー「えっ、でも・・・今は病気で」

ヴァンはルークに近づき、声を潜めた。
ヴァ「それは噂に過ぎない。今は自由に旅しているそうだ。近々、戻ると私の耳に入っている。旅をしているがその地位は変わらない。それが可能なのも・・英雄だからだ」

ルー「英雄、だから・・・自由」
ヴァ「そうだ、自由だ。おまえは選ばれたのだ。このような状況に追い込んだ超振動という力も、使いこなせばおまえを英雄にしてくれる」

ルー「英雄・・・俺が、英雄に」
ヴァ「ルーク、キムラスカの番犬(ケルベロス)のような英雄に、お前もなれるのだ」

ヴァンはルークに耳打ちをする。
ヴァ「英雄の行動は、何人であろうと阻むことはできん」

ルー(俺が英雄・・・英雄になればキムラスカの番犬(ケルベロス)のように自由に、阻む人もいない)
ルークの脳にヴァンの言葉が浸透していく。

ルー「俺が、英雄になったら・・・キムラスカの英雄も、褒めたり、してくれるかな?」
まだ会ったことがない、幼い頃から憧れていた英雄。

ヴァ「褒めてくれるだろう。自分よりも素晴らしい英雄だと」
ルークはその場面を想像したのか、少し照れくさそうに笑い赤くなった。

憧れている人に褒められる。
少しくすぐったい。

side】
「くしゅっ」

【ルークside】
ヴァンはルークの肩を軽く叩く。

ヴァ「ルーク。疲れているだろう。休みなさい。まだ、到着はしないようだ。私は、部下たちがキャツベルトを襲撃しないか、見張りを続けるとしよう」

行き先を見ると、青い海、遠くに陸地が広がっていた。
ルー「はい」

ルークは素直に返事をすると、艦内へ足を向けた。
ヴァ「ルーク」

ルークはヴァンのほうを振り返る。
ヴァ「今の話、皆(みな)には秘密だ。ケルベロスのことも・・・。いいな?」

ルー「はいっ、師匠(せんせい)」
ルークはしっかりと、嬉しそうに頷き、艦内へ入っていった。

ヴァ(ルーク、素直に育ってくれた。ケルベロス・・・番犬とも、話す機会をつくらねば)

目的地とは別の方向の、なにもない海をヴァンは見る。
まるで、そこに陸地があるかのように。




【数時間後】
ルーク達は艦内の一室に集まっていた。

ルークは椅子を逆に座りうな垂れている。
ルー「まだかよ〜。いい加減飽きたってーの」

ガイ「もうすぐだよ」
ルー「その台詞も聞き飽き」

ブォーーーーーッ

全員(!)
キャツベルトの汽笛が鳴った。

ルー「やっとかよ、ったく」

バターン

全員(!?)
ドドドドドドドドッ

ルークの悪態が言い終わる前に、隣の部屋から荒々しくドアを開けた音が響き、走り去るような足音が耳に入ってきた。

ルー「なっなんだよ。俺たちの他にも誰かいたのかよ」
ガイ「ヴァン謡将は、別の部屋だし・・・キムラスカ兵か、船の人じゃないか?」

ジェ「いえ、専用の部屋が別に用意されていますから、それはないでしょう」
ティ「じゃあ、一体誰が・・・」

アニ「だったりして〜ってなーんて♪・・・あれっ?」
全員がアニスを見て、近くのものと目線を合わせあう。

全員「・・・・・・」

バターン!

ルークを先頭に皆が部屋から出て、走り
ヴァ「どうした、ルーク?そんなに慌てて」

止まった。
ルー「あっあれ?師匠(せんせい)・・・そうだ、師匠(せんせい)!今、人が走ってきませんでしたか?」

ヴァンはアリエッタを抱きかかえ、少女の顔や手足には、包帯が巻かれ、痛々しく見えた。
アリエッタは眠っているのか、意識がないのか分からないが起きてはいないようだ。

ヴァ「いいや。誰も来なかったぞ」
ルー「・・・そうですか」




side】

到着した場所は、流通拠点ケセドニア。
世界中の人と物資が集まる場所。

雨が降ることのない、乾燥地帯。
足が踏みしめるは、砂漠の砂。

キムラスカ、マルクトのどちらにも属さない自治区。
アスター率いる商人ギルドとダアト教団により、マルクトとキムラスカの間で輸出入を可能とする唯一の場所。

そのため、輸出入の記録を見れば何が不足し何を必要としているか知ることができる。
もちろん正攻法のルートだけではなく、中には裏ルートを使用して物資を輸出入している商人たちもいる。

(やっと着いたか・・・)

キャツベルトからものすごい勢いで出てきたのは、だった。
いま、マルクト前の領事館を過ぎ去った。

(まずはキムラスカの領事館へ行かねば・・・)
足元はふらつき気味で、顔色も悪い。

眉間の皺もいつもよりも深くなっていた。
(あぁ、また乗るのか・・・)

は店並みを過ぎ去る最中、物陰から様子を伺う影があった。
??「ノワールの姉さん、次の獲物はあいつなんかどうですかい?」

片目にアイパッチをした背の高い痩せ気味の男が、露出度の高い赤紫色の服を着た色っぽい女性に話しかけた。
女性と男は海賊のような帽子を被っている。

男の帽子には鼠が動かずに、おとなしく座っていた。
ノワ「馬鹿だね、ヨーク。隙がまったくないじゃないかい。だいたい向こうはあたし達に気づいているよ。下手に動けばこっちが捕まっちまうよ」

細く白い手で男の頭を軽く叩(はた)く。
ヨー「あてて。そんな風には見えないですけどねぇ。ウルシー分かるか?」

ヨークと呼ばれたやせ気味の男は、自分の半分ほどの背丈でギザギザの髭を生やした太り気味の男に話しかけた。
ウル「分からねーでげす」

ノワールは軽く頭を抱える。
ノワ「まったくあんた達は、とにかくあれはダメだよ。・・・仕方がないねぇ。隙だらけで、マヌケな人間がどんな奴か、あたいが教えてやるよっ」



ルー「あーっ!財布が、ねぇーっ!!」
隙だらけでマヌケな人間に選ばれたルークだった。





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