【2.登場】

ここはチーグルの森。
ライガクイーンは、猛々しく咆哮を上げ絶命した。

腰まである朱く毛先は黄色が入り混じり炎を思わせる髪、くすんだ翡翠色の目がやや垂れ気味の少年、ルークは言う。
ルー「何も殺さなくたって」

少年と同じぐらいの長い栗色の髪、つり目気味の少女、ティアは言う。
ティ「貴方って、甘いのね」

肩よりも少しのびた枯葉色の髪をし、メガネをかけた軍人、ジェイドは言う。
ジェ「痴話喧嘩もいいですが、そろそろ行きますよ」

ティアとルークは、赤くなりジェイドを睨んだ。
テ・ル「「誰が、痴話ゲン」」

ズドン!!

ティアとルークの否定を遮ぎる音が、巣の外で響き渡り、地面が振動する。
それは、人が飛び降りてきた音だった。

突然、空から現れた来客は「見つけたぞ」と外から、今は亡きライガクイーンに向けて言う。
長い黒髪が揺らめく。

長いといっても後ろは短く、耳の前の髪が腰ぐらいまである少し変わった髪型だ。
服は上下黒の服を身に纏い、ルークのように後ろに分かれている。

瞳は黒目がちだが、濃い紫が見え隠れする。
来客「少し水場からは遠いのだが、いい感じの森・・・」

来客の言葉が止まった。
ジェイド達が見えていないのか一目も触れず、亡骸のクイーンへ歩みを進めると、そっと光の無い目に手を当て瞼を閉ざした。

来客「だから言っただろう。いつか、自分勝手な人間達に殺されると・・・・どうか、どうか安らかに」
ライガクイーンに、膝を折り頭を垂れ送り出す言葉と姿にルーク達は思わず息を飲み込んでいると、来客はそのまま振り向かずに問いかけてきた。

来客「貴方々が、殺したのですか?」
ルー「ってか、お前、いきなり現れて一体なんだよ?」

来客「・・・質問を質問で返すとは・・すま、いや、すみません。言葉が通じなかったよう、ですね」
ルー「はぁぁあ?!お前」

ジェ「はい、私達が殺しました」
キレそうになったルークを無視して、ジェイドが答えた。

来客は立ち上がり、ジェイドのほうを振り返りると、会釈をした。
来客「そうですか。答えて頂き、感謝します」

顔を上げると、ルークを見て来客は大きく目を見開いた。
来客「あっ貴方様は・・!」

ルー「なっなんだよ」
来客「・・失敬、人違いでした。あの方がご成長なさっていたら、もっと凛々しく聡明で礼儀正しくお育ちになっている・・・あぁ、すみません。こちらの話です」

ルー「ってお前、一体誰と間違えたんだよ。何気に嫌味だし」
ジェ「そんな事より、何故貴方はここへ?察するにバイラスと話しができるとお見受けしました」

ルー「そんな事!?!」
来客「いえ、正確に何を言っているかは流石に分からない、です。感じ取るといったほうがいいかもしれません。先程のは、ライガクイーンの新たな住処になりそうな森を見つけたので、子が生まれたらその森へ移動しないか交渉するところだった、のですが・・・もう意味がなくなりました」

来客は目を伏せながら言うと、再びクイーンを見た。
少し言葉がぎこちないのは、ライガクイーンの死が原因であろうか。

来客「苦しまずに逝けたのか?」
ジェ「私が、苦しむ間もなく殺しましたよ」

来客「・・・そうですか。良かった」
ルー「良かった!?お前何言ってんだよ。殺されたんだぞ?! だいたいあんたがもっと早く来てたら、こいつは死ぬこともなかった!!」

ティ「ルーク、失礼よ」
リョ「あなた方がクイーンとの戦いの最中、私が来たとしたら、私がクイーンを殺していました」

ティ「えっ!」
ルー「はぁ!?」

来客「彼女とは、そういう約束をしました」
ルー「どんな約束だよ!」

来客「貴方には、まったく関係のない話です」

??「大佐−ーーー!!!」
黒茶の濃い髪をツインテールにした少女が、ジェイドに向かって走ってきた。

??「もう大佐っては、ずんずん先に進んじゃうんですから〜」
ジェ「いや〜すみません。全然、気づきませんでした」

??「大佐ったらひどいです〜」
ジェ「ところで、アニース、おつかいを頼んでもいいですか?」

アニ「はーい」
ジェイドはアニスに耳打ちをする。

アニ「ふむふむ、なるほど。はい、分かりました。あっ、でもイオン様が・・・」
ジェ「大丈夫ですよー。イオン様はあの人達が見てくれるそうです」

ジェイドは、ルーク達を指差した。
アニ「えへっ、そうなんですか?じゃあ、よろしくお願いしま〜す」

来客「私は」
手を振りながらアニスは、その場を立ち去った。

ジェ「さーて、では行きましょうか?もちろん、貴方もご一緒に」
ジェイドは、目だけ笑って来客に言った。

来客「あの子が、そのおつかいから帰ってくるまでの間です」
ジェ「はい」

ミュ「その前に、長老にご報告するですの〜」



ライガクイーンがいた巣穴を出て、来客は後ろを振り返った。

ジェ「おや?何か気になることでもおありですか?」
来客「いや、卵は無事だったのかと思いまして」

ティ「貴方もルークと同じで、甘いのね」
ルー「俺は甘くねー!!」

来客「甘い、と思う理由を聞いてもよろしい、ですか?」
来客はルークのように怒るわけでもなく、淡々とした口調でティアに言葉の理由を求めた。

ティ「・・・仮に、卵を残したら、孵化した子ライガはまずチーグル達を襲うわ。その後は、エンゲーブの人たちを襲うことになりかねない。その連鎖を断つために、卵は孵化してはならないのよ」
来客「なるほど。子ライガ程度ならチーグルを食い殺し、エンゲーブに行ったところで警兵の返り討ちに合い、森へ逃げていくと思いましたが・・・確かに私の考えは甘かったよう、です」

関心しているようにも、貴方の考えは浅はかでは、と言われているようにも聞こえた。
何気にチーグルを食い殺すことは当たり前だという言い方に、ティアは少し眉間に皺を寄せる。

ティ「食い殺すだなんて!チーグルは聖獣よ。それに・・母親を殺された復讐から、必ず人を襲うわ」
来客「そもそもの発端はチーグルのせいです。それに復讐とは愚考な」

ティ「何故、そんなことが言えるの?母親を殺されたのよ!」
来客「復讐を優先し生きているのは人間、もしくは下手に知恵をもった魔物ぐらい。もし、ライガクイーンが復讐を優先していたら、すでにチーグル達は食い殺されているはずだ、と思うのです。彼らの中には、純粋に生き抜こうとする意志が最上」

ティアは、その言葉に冷静さを取り戻す。
ティ「・・そう、ね。そうだわ。純粋に生きる意志・・・。私は人間と同じ、復讐という感情が動物達にもあると肯定していたわ。ごめんなさい」

目を伏せ、取り乱してしまったことに、恥ずかしそうに謝った。
来客「・・私も、愚考と言ってしまい、すまない、です。他に言い方があったはずでした」

ティ「気にしないで。私は、そのくらいきっぱり言ってくれたほうがいいわ」
ジェ「ほほぉ、さすが女性同士、すぐに仲良くなりましたか。いい事ですねぇ。では、さっさと行きましょうか」








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