【21.陸路】

【ルークside】

階段を下り、城下の中央広場に着いた時だった。
アニスが手を振り、港行きの天空滑車から走ってくると、ルークの腕に飛びついた。

アニ「逢いたかったですぅ、ルーク様」
ルー「あれっ?イオンは?」

ルークは広場を見渡したが、イオンの姿はなかった。
アニスは、頭をぐりぐりとルークの腕に押し付けながら。

アニ「それが~大変なんですよー。港に行ったら、イオン様がいなくなってて、街の人達に聞いたら、サーカスっぽい人達が、イオン様らしい方と街の外へ出て行ったて・・・・」
サーカスっぽい、といったら。

ルー「あいつらか!!」
ジェ「やられました。多分、漆黒の翼の仕業だ」

「!」
振り返ると、ジェイドが階段の上にいた。

アニ「大佐!どこにいってたんですか~?」
ジェ「港で少々。私のことより、今は」

ガイ「そうだな、追いかけよう。多分、街の外にいるはずだ」
アニ「駄目だよ~。街の出入り口に、六神将のシンクがいて、邪魔するんだもん」

ティ「まずいわ。六神将がいたら、私達が陸路で行くことが、知られてしまう」
ルー「どーすんだよ・・・」

ジェイドは眼鏡に手をかけ、階段に足をかけ下りてくる。
ジェ「ふむ、こうなるとは。やはり陸軍大将殿には、こちらにいらしてくれたほうが、何かと便利でした」

ルー「はぁ!?あいつがいて、何になるんだよ!」
ジェイドは階段からか蔑む視線をやり、ティアは意味を理解したとたん、頭が痛くなってきた。

ジェ「彼女は、この都市、キムラスカ領土を細部に至るまで把握しています。街の出入り口以に、外へ出る方法を知っていても、おかしくはありません。陸軍大将の地位を利用すれば、軍の脱出経路も使えたはずです。実際、港へ行くときも軍用を使っていましたからね」

ルー「そんなの俺が親善大使だって言えば、使えるだろ」
ジェ「貴方は、その場所がどこか、知っておいでですか?」

ルークは、言葉に詰まった。この二か月の間で、やっと外の世界を見れたルークが知るはずもない。
無言だったガイが、ふと顔を上げる。

ガイ「そうだ!あそこなら」


ルー「ふ~ん。こっから外に出られんのか」
目の前には【信玄流】と書かれた看板があった。

振り返ったガイは、頭をかきつつ。
ガイ「いや、その前にちょっと鍛えておいたほうがいいと思ってな・・・」

ルー「・・・おい」





side】

(早く、ケセドニアに着いてくはくれないものか)
出港してから、まだ十分しか経ってない。

は腕を組み、キャツベルトの船首楼甲板に立ち、波風をうけながら、ケセドニア方面を眺めていた。
(まずい・・・。三半規管が・・・おかしい。書には遠くのものを見ていれば酔わないと)

眉間に皺を寄せるものの、はその場から動かなかった。
(外にいたほうが、敵も撹乱できるであろう。囮の船のこともある辛抱せねば・・・)

??「陸軍大将」
後ろから声。

振り返ると、そこに立っていたのは、ヴァンだった。
ヴァ「そんな険しい顔をなされるな。私は、大詠師派ではない」

酔うのを耐えているの顔を見て、ヴァンはそう言った。
「生まれつきだ。気にするな」

は、前を向く。


【チャット形式】確認
「謡将、今年でいくつになる」
ヴァ「貴殿と同じですが、何か問題でも」

「苦労しているようだな。その髭、年齢に不似合いな風貌は、少しでも威厳を出すためか?」
ヴァ「苦労はお互い様かと。陸軍大将」

「・・・・」
ヴァ「因みに、この髭は取り外し可能だ」

(!)
ヴァ「失敬、冗談です」

はっはっはとヴァンは笑う。
(このような人柄だったとは・・・・)



正直、の中でヴァンは警戒網に引っかかる人物であった。
何がそうさせているのかと言えば、勘だ。

根拠も何もないものだが。
ヴァンの瞳の奥に、なんとも危うい感情が見え隠れするときがある。

それは、ルークの教育係をしていたときから、そう思っていた。
理由もなしに、人をどうこう言うのは無礼であり、相手にも悪いと思ったが、ルークには用心するよう一言、言っておいた。

だが、今はどうだろうか。
記憶を失ったとはいえ、用心するよう言っておいた人物は、あの赤毛の少年から絶大な信頼と信用を得ている。

ヴァ「陸軍大将」
「何だ」

それからヴァンは、しばらく無言だった。
不思議に思ったは、後ろにいるヴァンを見た。

「どうした?用件は何だ」
ヴァ「・・・・・」

ヴァンは、北の海を見ていた。
そこには、何もない。

なくなってしまった。
ヴァンは、なにもない海を眺めたまま。

ヴァ「・・・私の、下につく気はないか?」
「愚問だな」

ヴァンは、下を向き笑む。
ヴァ「残念ですな。貴殿がいれば、私の計画も円滑に事が進むのですが・・」

「計画?」
ヴァンは、を見る。

あの危うい感情が見え隠れする瞳で。
は、腰にある棒に手をかけた。

ヴァ「七年前、ルークを誘拐したのは、私だ」
「!何っ!?貴様、自分が何をしでかしたのか、分かっているのか!?」

は戦闘態勢をとる。
ヴァンをこの場で取り押さえる気だった。

ヴァ「正確には、亡命・・と言ったほうがいい。何より、それを望んだのはルーク自身なのだ」
(?)

ヴァ「何故か、知っておいでではないだろう。当然ですな。ルークが、キムラスカから逃げ出したい理由は・・・貴殿だ」
は腰にあった棒を引き抜き、ヴァンを見据える。

ヴァンは、両手剣の柄を握らず、憐れむようにを見ている。
ヴァ「嘘ではない。ルークが記憶を失う前から貴殿がいない間、私がルークをみていたのは知っているはずだ。その時ルーク自身が言ったのだ。命が危ない、貴殿から逃げ出したい、とな。お分かりだろう?今も昔も、ルークは・・・・私を選んだのだ」

ヴァンは深くに語りかけた。
それは、諭すように。

は、鼻で笑った。
「やっと尻尾をみせたようだ。確かに、私の指導は多少厳しかったかもしれんが、あいつは弱音一つ吐かずついてきた。私が少しでも手加減すれば、叱られたものだ。・・・何を企んでいる」

ギラリとの瞳孔が、捕食者のようにヴァンを捕らえる。
ヴァンの両手は、今までずっと背を預けていた。姿勢を整えるためだと思っていたが、事実は手に持っているものを、今まで隠していたせいだった。

ヴァンはそれを、の前に出した。
(!)

「それは・・・」
ヴァンの手には、一本の白百合の花。

ヴァ「ルークが、最後に貴殿に会ったときに渡したものだ。戦場へ行く貴殿に・・」


 (「白い、花が咲くんだ」)
 まだ幼い赤毛の少年が、私に鉢植えごと渡してきたもの。


「何故、お前がそれを知っている」
ヴァ「ルークに聞かれたのだ」

ヴァンは持っていた白百合を、海へと投げた。
自然との目が、それを追う。

ヴァ「死者を弔う花は何だと・・・」

(!)
ヴァ「これでも、私が偽りを述べているとお思いか?」

艦隊が大きく揺れ、止まった。
エンジン部分が不調となり確認のため一時停止する、との放送が響いた。

「・・・・」
ヴァ「・・・・」

ヴァンとは、互いに目を逸らさず。
「貴様の言っていることなど、私は信じない」

ヴァンの目つきが鋭くなった。
ヴァ「残念だ。だが、私が嘘をついているか、ルークを見て察しているのではないか?記憶を失ったとはいえ、ルークは私を信頼し、貴殿に対しては、嫌悪している」

うちつける波。
髪や衣服が、潮風に靡く。

「英雄だかなんだか知らんが、認めんと言われたのは事実だ。だが、それが何だ。嫌悪している?当たり前だ、私は貴様のように甘くはない。優しさと甘さの区別もつかぬ奴に、私は育てた覚えなど無い」
ヴァ「・・・私の下には、つかん。と言うのだな」

「返答は同じだ」
ヴァ「そうか。だが、気が変わったら、いつでもくるがいい、私は待っている」

「しつこいぞ」
ヴァ「ふっ、貴殿の気が変わると確信しているからだ」

(?)
ヴァンは、意味深な言葉を残して、甲板を去り艦隊の中へと入っていた。

「・・・・」
は、波間に浮かぶ白百合を、甲板から見た。

波に揺れていた白百合は、海へと沈んでいく。
(ヴァ『死者を弔う花は何だと・・』)

沈み逝く白百合と自分の姿が重なった。
「馬鹿馬鹿しい」

は、静かにその言葉を漏らした。
(私に、白など不似合いだ)

キャツベルトが、がくりと大きく揺れた。
確認が終わったと艦隊に響き、汽笛が鳴った。

キャツベルトが進む。
は、再びケセドニア方面を見た。



(・・・)



(・・・)



(・・・いかん、早々に酔いが)
道のりはまだ、遠い。







【ルークside】:工場跡地

暗く、建物の骨組みだけで作った場所。
所々に鉄は錆び、危うい足元。

オイルの濃く鼻に染みつく匂い。
魔物の声が反響し、コーラル城よりも不気味さを感じる。

錆びた鉄製の手すりから下を覗くと、真っ暗で底が見えなかった。
ルー「で、今度こそ、こっから外に出れんだな」

辺りを見渡していたガイが、振り返る。
ガイ「あぁ、この前、炭坑の話をして思い出したんだ。ここは見ても分かる通り、工場跡地だ。工場があるってことは、坑道も排水施設がある。でも今は使われていないから、その排水場所を利用すれば、外に出れるはずだ」

ジェ「なるほど、その可能性は十分にありますね」
ルー(良く分からなねーけど、とにかく外に出られるということだよな)

アニ「じゃあ、早くここを抜けてイオン様を」
ティ「えぇ」

ルークたちは、跡地の奥へと
??「まぁ、このような場所が、キムラスカに・・・」

振り返る。暗闇から現れたのは・・・。
ルー「ナタリア!?」

ナタリアは、キッと辺りを警戒した。
ナタ「は、おりませんわね?」

ガイ「彼女なら、グランツ謡将と航路に行かれましたよ」
ナタリアは、ほっと息をつくと、両腰に手をあて威風堂々と構えた。

ナタ「がいないのでしたら、安心ですわ。さっ、皆さん、先へ行きますわよ」
ルー「俺を無視すんなっ!お前、何なんだよ!先に行くって、お前は伯父上に行くなって言われてただろーが」

ナタ「ルーク!宿敵同士が和平を結ぼうという大事なときに、王女の私がいなくてどうしろといいますの?」
ルー「どーもしなくていいんだよ!!アホか、お前!外に出れば、魔物と戦わなきゃいけねーし!下手したら・・・人間とだって。お前は、城でおとなしくしてろっつーの!!」

人と戦う。
それは、痛いほどルークが実感したことだったが、ナタリアは鼻で笑い飛ばした。

ナタ「(わたくし)だって、三年前、ケセドニア北部の戦で慰問に行ったことがありますわ。それぐらいの覚悟できていますわ」
だがそれを、今度はアニスが、ナタリアに聞こえるように大げさにため息を吐いた。

アニ「慰問って、単純に言えばお見舞いってことですよねぇ。実際に戦ったてわけじゃないみたいですしぃ。ぶっちゃけ、お姫様は足手まといなんでぇ」
アニスはルークの腕にしがみついた。

アニ「ルーク様の言うとおり、お城でおとなしくしていらした方が、良いと思いま~す」
ティアは深く頷き、ガイもナタリアに、お城に帰るよう言ったが。

ナタ「お黙りなさい!」
工場内に響き渡るほど大きい声で、ナタリアは一喝した。

ナタ「(わたくし)は、ランバルディア弓術の免許皆伝、治療士(ヒーラー)としての学問も修めていますわ!そこの頭の可哀そうな導師護衛役(フォンマスター・ガーディアン)に、無愛想を極めた音律士(クルーナー)より、役に立ちますわ!」
アニ「何よ!この高慢!!」

ナタリアは、勝ち誇ったように口元に手を当てて笑う。
ナタ「浅学・・・失礼致しましたわ、難しい言葉は分かりませんわね。頭の軽さが滲みでていましてよ?」

アニスは、握りこぶしをつくり前へ出たが、それをティアが制す。
ティ「あなたも、呆れたお姫さまね」

ルー(もっ!?)

ジェイドは、耐えられなくなったのか、噴出した。
ジェ「面白くなってきましたねぇ」

ルー(冗談じゃねー)
ルー「おいっ!とにかくお前はついてくんなよ!」

ナタ「まぁ!軟禁状態でした貴方より、ずっと役に立ちますわ」
全員「・・・・」

無言。

ルー(何か言えよ!!)
ナタ「それに、あのこと。お父様に言いますわよ?」

ルー「あのこと?ってー、何だよ?」
ナタ「言ってもよろしいのなら、いいますわ。(わたくし)、聞いてしまいましたの、お城の地下牢で」

ルークから、冷や汗と油汗が、ドッと出た。

ナタ「貴方とヴァ」
ルー「ヴァーーーーっ!!!わーーーっ!!ちょっ、ナタリア、ちょっと、こっち来い!!」

ルークはナタリアの手首を無理やり掴んで、皆と離れた場所へ行ってしまった。


【チャット形式】がいれば・・・

アニ「奥に行っちゃいましたよぉ。こっちは早く進みたいのにぃ。イオン様~」
ティ「でも、彼女。を警戒していたみたいだったけれど、何故かしら?」

ガイ「それは・・・あれだよ。なら、強行手段を取ってでも、ナタリア殿下を城へ引き戻すからさ」
アニ「強行手段?」

ガイ「気絶させてってとこだな」
アニ「えぇっ!?お姫様に手ー上げちゃっていいんですかぁ?」

ジェ「優先順位の問題ですね。姫君より、国命のほうが上ですから」

アニ「がいてくれたら・・・」
アニ(あのお邪魔虫はいなくなって、晴れてアニスちゃんはルーク様と)

ティ「そうね、がいてくれたら・・・」
ティ(今頃、城の外に出て、こんなことにはならなかったかもしれないわ)

ガイ「そうだな、がいれば・・・」
ガイ(義手について色々、話したいことが・・・)

ジェ「陸軍大将殿がいたらですか?」
ジェイドは笑みを浮かべ、アニス、ティア、ガイは溜息をついた。


ルークはナタリアを連れてくると、なるべく小声で話した。
ルー「おっお前、どこまで聞いたんだよ!!

ナタ「貴方とヴァンが、亡命がどうとかおっしゃているのをですわ」
ルー「ちっ」

やっぱり師匠(せんせい)との話を聞かれていた。
ただ誘拐したことは聞かれていないと分かり、ルークは少しほっとした。

そんなことがばれたら、師匠(せんせい)は、またあの牢屋に閉じ込められしまう。
ルー(下手したら、死罪・・だったけ?冗談じゃねー!)

ナタ「(わたくし)も一緒に連れて行ってくだされば、誰にも言いませんわ」
亡命しようがどうしようが、ナタリアにとってそれは重大なことではなかった。

一緒にいてくれれば、プロポーズの言葉を思い出してくれれば、どこにいようとも・・・。

ルークはしかたなく、ナタリアを連れて行くことにした。
指きりをすると、ナタリアは顔をきょとんとさせた。

ナタ「ルーク・・・指きり、お嫌いではなかったの?」
ルークは何も言わず、皆のところへ行く。

どうせまた『いつもの会話』がはじまるからだ。



カンカンと、金属の上を歩く音が近づいてきた。
面白くなさそうなルークと、自信に満ちたナタリアだったが、薄暗い炭坑ではその様を確認することも出来ず、こちらが結果を聞く前にルークが、面倒くさそうに答えた。

ルー「ナタリアにも、来てもらうことにした」
ナタ「皆さん、今後(わたくし)に敬語はおやめなさい。名前も呼び捨てること。王女とばれてしまうかもしれませんわ」

無言の視線がルークに集まる。
ルー「何だよ!?俺は、親善大使だぞ!?責任者は俺だ!俺の言うことは絶対だ!いいな!!」

ルークは、言うだけ言って、ずんずんと大股で先に行ってしまった。
ナタ「お待ちになって、ルーク」

全員「・・・・」
脱力した三つ溜息が、炭坑に響いた。


土地が崩れ落ちた合間から、陽の光が薄っすらと縦線状に射す。
巨大なドラム缶の中に、十年もほったらかしにした異様な廃油の匂いが息を詰まらせる。

機械はまだ操作する事ができ、システムが停止していなくて良かったと思うが、安堵はない。
外の気配はなく、野宿する羽目にまでなった。


【チャット形式】ナタリアの料理1
ルー「うおぇ」
ガイ「ルーク、失礼だぞ!」

ルー「だってこれやベーだろ、食いもんじゃねーーって」
ガイ「ルーク!食材の無駄使いにならないためだ、死ぬ気で食え!!」

ナタ「聞こえておりますわよ」







side】:ケセドニア

ヴァ「私は騎士団に声をかけてくる」

「何?お前はここに残り使節団と共にアクゼリュスに行くはずであろう。勝手な行動は慎んでもらおう」
ヴァ「私の代わりに貴殿が残ればよいのだ。人手が多いほうが救済措置も早い。それに、陸艦も欲しいところでは?」

痛いところをつかれた。の目線が、僅かに下がる。
「・・・おいっ!」

その隙に、ヴァンは行ってしまった。
ここで合流するはずだった謡将がいなければ、皆、何かと懸念するだろう。

アクゼリュスまでの戦力のことも考えると・・・は、使節団を待つことにした。
状況が変わったことを、すぐに陛下へ報告しなくては。

??「おーーーい、だろ、お前」
背後から声。

振り返ると、そこには四十代ぐらいの白衣を着た男が、大きな茶色い紙袋をかかえて立っていた。
ガイぐらいの短い黒髪を立たせて、顎には無精ひげがあった。

は、険しい顔になる。
「医者の前で死にそうな顔すんな」

「申し訳ない。急用があるので、失礼する」
は、領事館へ急いだ。

男は止めようとしたが、すぐに諦めて診療所へ帰っていった。
(この地にいるとは知っていたが、まさか声をかけられるとは・・・。いや、私事を挟んでいる場合ではないか)


領事館へ着くと、インゴベルト陛下へ伝書鳩を飛ばした。
鳩を追う目は、砂漠へと移る。

熱でゆらゆらと波のように揺れる空気、風で舞い立つ白い砂は濁流の滝のようだ。
(・・・順調に行けば早くて明日の朝、遅くとも明後日には着くだろう。今はオアシスを越えた砂漠当たり、といったところか)

残念。






【ルークside】:キムラスカ工場跡地

進んでいるはずだが、先の見えない不安と小さな不満が少しずつ積みあがっていく。

ナタ「ガイ、まだ出口ではありませんの?」
ガイ「そうだなぁ。俺もここに入ったのは初めてだから、何とも言えないよ」

ナタ「はぁ・・。ほこりっぽいし、そのくせ油の臭いはしてますし、嫌なところですわね」
ルー「嫌なら、帰れよ」

ナタ「そうやって、追い返すつもり?ダメですわ!」
アニ「やっぱりー、お姫様には無理なんで~帰ったほうがいいと思いまーす」

ティ「同感だわ。これから先、砂漠も越えなければならないのに、今から弱音をはくなら帰ったほうがいいわ」
ガイ「陛下も心配されていますよ」

ナタ「まぁ!?厄介払いなさるおつもりですの!?」
ティアが、鉄扉が封鎖されていることに気が付き、仕掛けがないかと辺りを見回す。

皆も自然と足を止めた。
アニ「厄介って分かってんなら、帰ればいいのに・・・」

ナタ「何か仰いまして?」
アニ「あぁ~ん。ルーク様~、ナタリアが睨むよ~」

ナタリアから逃げるように、アニスはルークに抱きついた。
ナタ「ルークは、(わたくし)の婚約者ですのよ!」

アニ「ルーク様は、もっとずーーーっと若くてぴちぴちした子がいいですよねっ♪婚約なんていつでも破棄できますし」
アニスはナタリアに、ちろっと舌を見せた。

ナタ「まぁ!!下品が顔から出ていましてよ」
アニ「なにさ、老け顔」

ナタ「なっなんとおっしゃいましてっ!?ルーク!いつまで、そのような頭の悪い者とくっついておりますのっ。もっと頭が悪くなってしまいますわ!」
ルー「俺は、別に好きでって、もっとって何だよ!?俺がもとから頭悪ぃみてーじゃん」
アニ「ひどいですよねっ、ルーク様♪」

ティ「あなた達・・・少し、黙っててくれないかしら」

この装置・・・間違って操作すれば、来た道を戻り、最初からやり直すことになる。
そんな時間はない。操作する前に、慎重に手順を・・・

ナタ「貴方も、まさかルークを!?」
アニ「えーっ、嘘でしょ!?」
ルー「俺はっ、関係ねーだろっ!!」

バアァン!!!

ティ「だ・ま・り・な・さ・いっ!!

アニ「・・・」
ルー「・・・」
ナタ「・・・」

扉が開いた。

ティアは無言で歩き出し、ルーク達も静かにあとにつづく、ガイは
ガイ「・・・旦那。行くぞ」

ジェ「えぇ」
少し離れた場所で、笑っていたジェイドを呼び、二人も歩き出す。

進んで行くと、オイルの臭いも一層強くなった。

ルー「なんかやたら臭うな」
アニ「油くさいよー」

ガイ「そうだな。炭坑の名残にしては・・・」
ティ「待って!音が聞こえる・・・」

ティアは警戒し立ち止まり、皆も身構えた。
ナタ「まぁ、何も聞こえませんわ。皆さん、行きますわよ」

ナタリアは、きょろきょろと辺りを見回しながら、ティアの横を過ぎ去る。
ナタリアの足元の影が、大きくなっていく。

ティ「危ない!!」
ティアはナタリアを突き飛ばした。

ナタ「きゃっ」

ドブンッ

上からオイルと融合した巨大な魔物が、ナタリアのいた場所に落ちてきた。
ルークたちは、その魔物をなんとか倒すと、ぱっくり割れた腹の辺りから禍々しい剣が出てきた。

周りの反対を押しきって、ルークはその剣を袋の中に入れた。

ナタ「・・・あっあの、ティア」
ティ「何?」

ナタ「ありがとう。助かりましたわ・・貴方も皆にも迷惑をかけてしまいましたわね」
ナタリアは反省し、俯く。

ティ「!・・いいのよ。それより」
ルー「よくねぇーよ。足ひっぱんなよな!」

ティアは呆れてルークを見る。
当の本人は、言ったことなど何も気にせず、奥にある通路を見ると

ルー「!」
ルークは、走り出した。






【通り雨】

光が見えた穴をルークは飛び降りると、坑道を走る。
冷たくオイル臭くない空気を吸い、走り続けると雨の音が聞こえた。

濡れるのは嫌だったが、オイルの臭いを少しでも洗い流したくて、ルークは外へ出た。
見覚えがある陸艦が、少し先に停艦していた。

陸艦に乗り込もうとする人たち。
そこには・・・。

ルー「イオン!!」
ルークは、イオンに向かって走り出した。

バシャバシャと、水音を鳴らしながら、ルークは雨の中を走る。
イオンは、振り返り手を伸ばすが、傍にいた紅い長髪の人物が剣を抜き、制した。

舌打ちと同時に、ルークも鞘から剣を引き抜く。
ルークは叫び声をあげ、剣を振り下ろした。

ガッ!!

振り向き様に、その人物はルークの剣筋を軽々と止めた。
ルー(!!?)

ルークは目を見開き、止まった。
ルー(こっこいつ、俺と・・・!?)

紅い髪の青年はルークと同じ、顔だった。
降りしきる雨で、普段はオールバックにしている青年の前髪が、今はルークのようになり、同じ顔という印象を強くした。

青年は、ルークを弾き飛ばした。
ばしゃりと濡れた地面に尻餅をつくルークは、構え直しもせず、ただただ呆然と・・その青年の顔を見ていた。

遅れてジェイドたちが工場施設から出てきた。
ナタリアとガイが、遠目ながらも、その真紅の髪をした青年を驚いて見る。


イオンを連れ、陸艦のハッチにいたシンクが叫ぶ。
シン「アッシュ!!今はイオンが優先だ」

アッ「分かってる!・・いいご身分だな、ちゃらちゃら女を引き連れやがって」
アッシュとシンクは、イオンを連れ陸艦に乗り込み、行ってしまった。

頭の整理がおいつかないルークは、動けなかった。
今見たものが信じられない、ルークは頭を抱え込む。

ルー(・・・あっあいつ、俺と、同じ・・顔?・・・)
ガイ「ルーク!大丈夫か!?」

ガイはルークにかけより、顔を覗き込む。
ルー「あっあぁ・・・」

ジェ「ところで・・・イオン様が連れて行かれましたね」
アニ「あーーっ、イオン様」

ジェイドは遠くなっていく陸艦を見ていた。
逃がしたのは自分のせいだと、ルークには聞こえた。

ルー「おっお前らが、ちんたらしてなかったら、イオンだって助けられたはずだったんだよ」
俺一人で、あんな奴ら相手にできるわけねーし。

アニ「そっそうですよね、ルーク様。でも、イオン様を探しに行きませんか?」
ティ「そうね。イオン様を探しにいきましょう。イオン様が命を落とせば、和平に影響が出る可能性はゼロではないわ」

しとしとと降る雨は、全員の気持ちを沈ませ停止させる。
ジェイドは軽く息をつき眼鏡の位置を直すと、バチカルにつづく道を向く。

ジェ「六神将に見られてしまっては、囮作戦も失敗です。港へ戻るのも」
ナタ「無駄ですわ。お父様はまだマルクトを信じておりませんのよ。船が出港したのでしたら、海からの侵略に備えて港を封鎖してるはずですわ」

ガイ「でも、航路から行って、六神将を先回りするってのも手だぞ」
ジェイドは顎に手を当てて、ルークにふる。

ジェ「どうしますか?イオン様を探しながら陸路へ行くか。ナタリアを陛下に引渡す代わりに、航路を使わせてもらうか」
ナタ「いっいけませんわ!!ルーク、そんなことをすれば!!」

ルー「だーーーっ!!っるせーなっ!!何で俺に聞くんだよ!!」
俺は、あのアッシュってやつのことで、頭がこんがらがってるってゆーのに、ごちゃごちゃ言った挙句に俺にどうしろっていうんだよ。

ジェイドは、軽く眉をあげる。
ジェ「この使節団の責任者は、貴方なのでは?親善大使殿」

ルー「陸路!!」
嫌な奴!!


【チャット形式】英雄は自由
ジェ(結局、これも無駄になってしまいました)
ジェイドは、ポケットからカフスを出した。

ナタ「!!それはのものではありませんこと」
ジェ「えぇ、陸軍大将が「何に使ってよい、責任は全て私がとる」と言って、貸してくださいました」

ナタ「まぁっ!!ときたら、軽んじた行動は控えてほしいですわ!まったく、よろしいですこと?それは、特別な技法でできたものですのよ。お父様の王冠も、それと同じ素材ですわ」
アニ「えぇー!!は王族ってこと!?」

ナタ「違いますわ。ですがお父様が、戦争の邪魔とはいえ、校章をつけないことを不憫に思い、譲渡なさいましたの」
ガイ「不憫っていったって、そいつを一介の将軍に渡すってのは、凄いことだぞ」

ナタ「はぁ、お父様は、に甘いですわ。三年も職務を放棄して、咎めもなしにしておりますし」
ルー(英雄だから、何やっても許されるんだ。叔父上だって、英雄の前じゃ甘いんだな・・・)

ルークは、ぐっとヴァンが教えてくれたことを、噛み締めた。
障気さえ中和すれば、自由だ。

叔父上だって、英雄には逆らえない。








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