【gate24:襲撃】

ケセドニアにヴァンがいないと知り、ルークの足取りは、いっそう重くなった。

一昨晩から夜通しで歩き続けているからは、疲れの色は無い。
迫り来る魔物も、容易に倒していく。

ガイとティアは、参戦すると出てくれたものの。
「苦しまずに逝け」

その暇がなかった。
結局、一人で片づけていく。

ガイ「実力の差を感じるな」
ガイは、呆気にとられ。

ティ「私達も、まだまだってことね」
ティアは、実力の差に悩み。

アニ「、すっごーい!!あっガルド回収しなきゃ」
アニスは、賛美する。

ナタ「・・・・・」
なら当然だと自慢したいナタリアだが、未だ最後尾で警戒中。

「アニス、これで全てだと思うのだが・・・」
は砂を払い、アニスにガルドを渡した。

アニ「ありがと〜♪が来てから、ガルドの回収率が上がったような気がする。うふふふふふ」
と気味の悪い含み笑いをしながら、ガルドを数えはじめた。

「回収に専念できるからではないか?」
アニスは膨れっ面になり、口を尖らせる。

アニ「ブーーッ。アニスちゃんだって手伝いたいけど、が、全部倒しちゃうんだもん」
ブーブーと言いながらも、ガルドを数える手は休めない。

「慣れない砂漠では歩くだけで体力を奪う。皆、傷もまだ癒えていない、余計な消費はさせたくない」
ティ「でも、慣れないからと言って、それに甘えるわけにはいかないわ」

「戦場ならば私もそう思うが、今はそうではない。ならば、これは甘んじているのではない。そうではないか?ティア」
ティ「えっ、でも貴方に戦わせてばかりだし・・・」

ジェ「いや〜。楽ですねぇ」
「これぐらいの構えでいてほしい。案ずるな、ケセドニア以降は手伝ってもらう。特にアクゼリュスでは、お前が頼りだ」

ティ「えっえぇ」
ティアは少し照れつつも(それでいいのかしら?)と思いながら、歩いていった。

「助かった。感謝する」
ジェ「おやっ?何のことです?私は本当のことを言ったまでですよ」

「そうか」
ジェ「えぇ」

ガイ(素直じゃないよな〜)


【チャット形式】手袋

「渡し忘れていた」
は手袋を差し出した。

「随分汚れていたし、焼かれてもいた。新しいほうがいいだろう?」
ジェ「・・・」

「?どうした。卸したてだぞ」
ルー「お前のなんか、使いたくねーってよ」

ティ「ルーク!!」
ルー「ふんっ」

ルークは、さっさとその場から立ち去った。

ジェ「受け取っておきましょう」
「無理はするな」

ジェ「・・違いますよ」
は不思議に思いながらも、先に進んでいった。

ガイ「どうしたんだ?旦那にしては、歯切れが悪かったな。まさか本当に嫌」
ジェ「サイズ」

ガイ「ん?」
ジェ「サイズが合いません。型も」

ガイ「・・あっ!」

の手袋:白、普通タイプ
ジェイドの手袋:青緑、長めタイプ



「相手が悪かったな」
魔物を倒し終えたと告げるように、鎌の刃が消えた。

ガイ「そう言えば、も譜術が使えるのか?その鎌の現象って」
「?これは音機関だ。この接続部分が」

ガイ「音機関だって!?
直ぐ様、ガイは飛びついた。1メートル離れた地点だが。

ガイ「!ちょっと貸してくれないか!頼む!!」
ガイは両手を合わせて、頭を下げた。

「あぁ、いいぞ」
は、二つに分かれた棒を腰ベルトから外し、くるりと一回転させて持ち手をガイへと向けて渡した。

宝石にも負けない光をぶつけてくる瞳のガイ。ある意味視線が痛い。
童心に帰ったように、わくわくしながら、二つの棒をくっつけた。

カチ

ガイ「・・・あれっ?おかしいな。出ないぞ?」
ジェイドが、横から眼鏡に手をかけて接続部分を見る。

ジェ「陸軍大将のフォニム振動数に反応するよう出来ているのでしょう」
「あぁ、それを音機関で制御させているのだ。私の音素(フォニム)振動数に反応した接続部分が、鎌の刃を出現させ、鎌の刃に対しては、そのフォニムを蓄積した宝石が反応し、譜術攻撃の役割を果たしている」

発動しなかったが、ガイはまじまじと武器を見る。
ガイ「すごいな〜。もしかして、これが作ったのかい?」

「いや、私にそのような技術はない。コンタミネーション譜業兵器は《い組》に、鎌の音素蓄動器は《め組》に作ってもらったのだ。私は、設計と物資調達で、大したことはしてない」
ガイ「め組とい組だって!!、その辺の話を詳しく、だなっ!!」

ガイは、の杖を握り締めながら、キリリと思わずキメ顔になる。
「あぁ、アクゼリュスの件が終わったらな。良ければ、め組とい組の方々とも交えて話そう」

ガイ「〜ひゃっほう♪」
その歓喜の声と共にの武器を、曲芸師にも負けない杖さばきで華麗に回しながら、ガイは飛び上がった。

ナタ「ガイ!!落ち着きなさい!みっともないですわよ!」
はっと我に返ると、面目なさそうに頭をかいて「すまない」と皆に小さく謝った。

少なからず、周りから笑いが漏れた。


【チャット形式】そろそろ
「ガイ、そろそろいいか?」
ガイ「へっ?何がだい???」

「武器」
ガイ「あっ、すまない。つい」

握り締めていたの武器を、ガイは名残惜しそうに
ジェ「ついで許されれば、軍人はいりませんね〜」

渡そうとしたところを、ジェイドに奪われた。
ガイ「っておい!!持って行くなよ、俺だって、もっとな!分解したい気持ちを抑えて」

ジェ「私も興味がありまして」
ガイ「ずるいぞ」

二人は取り合いながら、さっさと先に行く。
「私の、なんだが・・・」



ルー「おいっ」
列の後ろを歩いていたルークは、先頭にいるに歩み寄り話しかけた。

「何だ?」
ルー「(唸り)、用が無かったら、話しかけるかっつーの!」

「そうだな。で何だ?」
ルー「・・・」

魔物との闘いを見て、ルークはを少し見直した。
皆で苦労して戦ってた魔物も、一撃でなぎ倒していく。

ヴァンほどではないが、強いと思ったし、ちょっとは・・カッコイイとも思った。
ルー(ちょっとだかんな!ちょっと!!)

見直したついでに、聞いておきたいことがあった。
一時期は憧れてた存在だったから。

ルー「お前さ。・・初めて、人、斬ったとき、どー思ったんだよ」
口にするのも抵抗があるルークは、目は合わせずに聞いた。

ルー(やっぱ、俺みたいに怖いとか、どうしたらいいか訳分かんなくなったはずだ。初めが同じなら、俺も英雄になれるってことだよな)
(初めて人を・・・)


 あれは、ホド戦争だった。

 初めて人を殺したのは、服装からするに、どこかの屋敷のメイド。
 大鎌を持ち、キムラスカの軍服を身に纏った自分。

 多くの人間が泣き叫び逃げて行くなか、そのメイドだけが自分に向かって走ってきた。左手にはレイピアを握って。
 (元帥「女子供とて、容赦するな!!奴らは譜術を使うぞ!!生きている住人は、全て殺せ!!」)

 ホド全域に響き渡る命令。
 ((女子供、容赦するな。奴らは譜術を使う。生きている住人は、全て・・・))

 命令を自分に言い聞かせ、復唱する。
 メイドが手を伸ばし、

 ((殺せ))

 ドッ

 大鎌の刃が、メイドの体を突き貫けた。
 白い刃が赤く染まる。

 ズル

 刃から床へ落ちた体は、勢いよく血が溢れ出した。
 まるで幾数の赤い花が、咲いては、散っていくように。

 伸ばされた手は。
 赤く焼け爛れた火傷の痕。

 それも赤い花のようだった。

 ぱたりと落ちた。
 死だ。

 潤んだ目から涙が流れ、彼女の中心から赤い血が広がっていく。
 紫の―


ルー「おいっ!おいって! 聞いてんのか?!
(!)

ルークが横でどなり声を上げ、は過去の脳裏に残っていた赤い記憶から、突然白い砂漠へと戻った。
ルー「こ・わ・い・とかなかったのかって聞いてんだよ!」

(あの時、私は・・・)

「綺麗だと、思った・・」
ルー「はっ?」

「綺麗だと思った」
唖然として立ち止まったルークを置いて、は歩きだした。

思い返せば、何故、あのメイドは泣いていたのだろう。
皆、恐怖に顔を引きつらせ逃げまどい。

死体も恨み憎々しく顔を歪ませたもの。
全ての顔のパーツが飛び出るほど、目を剥き出し歯を見せ皮膚を引き攣らせたもの。

誰か庇うように、死んだもの。
だが、あのメイドは悲しそうだった。

(・・・・自分の死を嘆いたのか、それとも、誰かを思い出し)
答えは知る由もない、そのメイドは自分が殺した。

ルー「綺麗だ・・ってあいつ、何考えてんだよ」
ルークは理解できなかった。

剣が、人の体に入る独特の弾力と抵抗は軽さにかわり、斬ったと自覚させた。
手についた血の、水とは違うどろりとした感触、体温より少し低いと思えば、すぐに冷たくなって固い皮膚のように張付いた。

睨みつける虚ろな目と合って、全身から力が抜けて、震えが止まらなくて。
の言ったことが、まるで理解できなかった。

あいつは、おかしい。

ルークはそう思った。
そして、怖いと。

ルー「わけ、わかんねー」
ルークの口から自然とこぼれおちる。

ガイ「ルーク。彼女も軍人だし色々あるんだ。あんまり深く考えるなよ」
ガイはルークの肩に、ぽんと手を置いた。

ジェ「えぇ、もしかしたら絶世の美女、という単純な理由かもしれませんよ」
ジェイドが、ルークの横を去り際に言った。

ルー「んっなわけねーだろっ!!」
ジェ「さぁ、本人に聞けばわかることです」

聞く気は無い。
またおかしなことを、言うに決まってる。

ティ「母親が子供をかばった、そういうことかもしれないわ」
ティアが、真面目な発言をする。

アニ「でもでもぉ、そういうのって、綺麗っていうかなぁ?」
イオンは悲しそうに、顔を伏せている。

ガイの後ろにいたナタリアも、悲しそうな顔をしていた。
毅然とした態度のナタリアが、そんな顔をしているなんて、めずらしいとルークは思った。

ルー「んだよ。気分でも悪いのか?」
ナタリアは、俯き加減になり片手を頬にあてる。

ナタ「(わたくし)、貴方よりもの近くにいながら、のこと、何も知りませんでしたわ」
コーラル城でガイの過去を知った時の自分と同じだ、とルークは思った。

何も知らなかったことに、驚いて情けなくなった。
ルー「そんなに」

ナタ「自分の部下のことですのに」
「気にすんなよ」と言おうとして、やめた。

ルークは、ガイを部下だとか、使用人だと思ってないからだ。
少し上がった右手を、無理やり下ろして、大股になって歩きだした。

ルー「おい、ちんたらすんなって!ヴァン師匠(せんせい)に追いつかなくなるだろっ!」

と、先に進もうとしたが、ガイの背中に顔面をぶつけた。
ルー「イッテーー。何だよ。さっさと」

ガイ「ルーク、下がってろ」
ティ「そうね、そこにいたほうがいいわ」

ルー「なっ」
ジェ「貴方の場合は、目を瞑っていたほうがいいかもしれませんねぇ」

ルー「何なんだよ!?」
ルークは、ガイの前に出た。

ルー(!?)
が闘っていた。

それは魔物ではなく。
人間。

格好からするに、盗賊だ。
それぞれ湾曲した剣と斧を持った男が二人、後ろのほうには杖を持った女。

ザン

ドッ

ルー「っ」
ルークの顔が歪む。

は湾曲した剣を持った奴の首を刎ねると、そいつの衣服を掴んで、斧を持った奴の攻撃の盾にし、絶命した胴体ごと斧を持った盗賊の心臓を貫いた。
そのまま、空に投げ出すように鎌を大きくはらうと、刃に刺さった二つの肉塊が宙を舞い、砂漠に落ちた。

動かなくなったソレは、砂塵でどんどん砂に埋もれていく。
甲高い悲鳴。

ルー(!)
ルークは、反射的に顔を上げた。

杖を投げ出し、自分達に助けを求める女盗賊が、こっちに走ってくる。

全員が構える。
ルー「まっ待てよ!!」

ルークは、皆の前に出た。無防備にも女盗賊に背を向けて。
ジェ「貴方は、また、同じ事を繰り返すつもりですか?」

槍を出して、ジェイドがそう言った。
ルー(!?)

アリエッタのことが、頭によぎった。
でも、コレとアリエッタと、どこが同じなんだよ!?

金属が無理矢理捻じ切られたような金切り声。

ルー(!)
ルークは、振り返る。

盗賊は・・・・

全員(!!)
ルー(!?)

生きていた。

ただし、うつ伏せされ、動けないよう肩口にはの鎌の柄が貫通していた。
容赦なく押し込まれた矢じり状の先端は、肩甲骨を砕き、その痛みから女盗賊は悲鳴をあげたのだった。

は、そのままルークを真っ直ぐ見ていた。
ルー「お前・・・」

「待てと言われました・・」
ジェ(?)

「何だ?」
ルー「そっそいつ、殺す必要なんてねーだろ。もう、俺達襲うわけでも、なんでもねーんだし・・・」

「ここで逃がせば、次はアジトにいる仲間を引きつれ、私達を襲いにくる。殺すべきだ」
は柄を引き抜き、鎌の刃が盗賊の頭上で振り下ろされ

ルー「殺すなっ!!

ずに、止まった。
「・・・・・」

少し離れた砂煙のなかで、見上げたと目が合った。その目はどこか遠い。
ルークは生唾を飲み込む。

「分かりました」
そう言い、鎌の柄の中央にある音機関部分を捻ると、鎌の刃は消え二本の杖になり

ドッ
杖の棒にあたるところを、女盗賊の頸椎めがけて振り下ろした。

気絶したことを確認するとは、そのまま盗賊を放って歩き出した。
ジェ「・・・・」




【夜】
女性陣と男性陣と分かれ、テントを張り、先ほどまで灯っていた明かりが消えた。
ルークとガイは寝転がり雑談、イオンはすでに寝息をたてている。

ガイは、この調子なら、明日の昼頃にはケセドニアに着くと言う。
ルークは「やっとかよ」

と盛大な溜息をついて、テントの上を眺める。

ルー「あれ?ところで、おっさんは?」
テントの中にジェイドの姿はなかった。

ジェ「貴方の下にいますよ」
ルー「い“ぃ”!?」

ルークは飛び上がって、シートの下を見た。
ジェ「嘘です」

テントの出入り口の布があがり、ジェイドが顔を出した。
ルー「おっ脅かすんじゃねーよっ!!」

ジェ「現実で考えてみてください。嘘かそうでないかくらい、分かると思いますが?」
ガイ「あんたの場合、何かありえそうなんだよな。ところで、どうしたんだ?何かあったのか?」

ジェ「いえ、ただ暇だったので、ちょっと様子を見に来ただけです。いい夢が見れるといいですねぇ」
そう言って、ジェイドはテントの布を下ろした。

ルー「んとに、性格悪いよな」
ガイ「そー言ってると、今度は本当に下から出てくるかもしれないぞ。さっもう寝とけって、まだ砂漠は越えたわけじゃないからな」

ルー「わーってるよ」
ルークは、薄手の毛布を被った。

ルー(はぁ〜。早くベットで寝てー。・・師匠(せんせい)、どうしてる、か・・な・・・)
ヴァンの事を思い出しているうちに、ルークは眠りについた。



・・・・・・




・・・・・・




・・・・・・




ドオォン!!



ルー(!?)







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