【4.タルタロス】

タルタロス艦内に連行されたルーク達。
現在、尋問中。

ルー「俺は、ルーク・フォン・ファブレ。お前らが誘拐に失敗した、ルーク様だよ」

(誘拐?!ルーク・フォン・ファブレだと?)
は胸中で驚いた。

何故このような場所に、何故そのような素行の悪い人間に。
そんなことは問題ではない。何故、そんな曇った目を・・・なされているのですか?

(お前は私の・・・・・)
はルークを凝視していた。

ルー「ところで、なんでこいつもいるわけ?」
ティ「そうね。それに、私達よりも扱いが」

アニ「違いますよね〜。何でですか〜?大佐Vv」
は動けないように縄で手と胴を拘束され、余った縄を大佐は持っていた。

言わばちょっとした囚人といったところである。
ジェ「アニスはあの場にいませんでしたが、貴方々は彼女がどのように現れたか覚えていますか?見たところとても身軽な方です。このまま逃げ出されて、イオン様のことを口外なされては正直、困りますからね」

(この程度であれば逃げ出せないこともないが、少しでも抵抗すれば殺します。と示されている気がする。・・・おとなしくしておいたほうが無難だろう)
といいます。ただの民間人です。旅の途中でしたが、導師イオンが、ここにいらっしゃることを知った以上、私は軟禁ということになりました」

ジェ「おやっ、人聞きが悪いですねぇ。まだ軟禁するとは言っていませんよ?」
(まだ、か)



ジェイドとルークが会話を続ける。
ルークはどうやら世界情勢には疎いようだった。本人は、誘拐されてからの記憶がないと言う。

イオンの提案により、ルークの身分を利用してキムラスカ入国への協力という案が出された。
(誘拐・・記憶喪失・・・。私は、何も聞かされていない。一体、いつ誘拐など・・・もしや、あの時か)

心なしか左腕が痛む。
あれは過去のこと。


(『あなたは人間です』)


マルクト前皇帝、好戦的な皇帝だった。

キムラスカとマルクトが交戦中。
はマルクトの捕虜となっていた時があった。

その当時、を人だと真正面から言ってくれたのは、皮肉にもマルクト人だった。
暗い牢獄の中、目隠しをされていて声しか分からない。

けれど、その声がどのような声だったかは、思い出せない。
月日とは残酷なものだ。

(彼は今どうしているだろう。生きているかのか、それとも・・・)

ジェ「ファブレ公爵は恨まれていますからねぇ」
覚えのある言葉が、脳を現実へ引き戻す。

ルー「あーもう、わかったよ!わかったから、詳しいことを話せよ。一体、何でこんなことになってんだ」
ジェイドとイオンはルークの協力を確認した。

ジェ「昨今、マルクトとキムラスカの国境付近で、局地的な小競り合いが反発しています。おそらく、近いうちに大規模な戦争が始まるでしょう。ホド戦争が始まってからまだ十五年しか経っていませんから。そこでピオニー陛下は平和条約結束を提案する親書を贈ることにしたのですよ」

戦争が起きる。あのホド並みの戦争が・・・。
ホド戦争の情景が一瞬、の脳裏を侵し、僅かに眉を寄せた。

(戦争。陛下はいったい何をお考えになられているのだ)
耳に入るのは、大詠師派だの導師派だの、ルークは何も知らないお坊ちゃまという単語。

そんなことは、どうでもいい。
は窓に目をやり、外の景色を見た。

(・・・まだ・・ローテルロー橋も渡っていない。おかしい。陸上装甲艦にしては遅すぎる)

ルークは、協力してほしいのなら、それ相応のことしろよ?とジェイドに促していた。
ジェイドは、すぐに意を察し、片膝をつき頭を下げて大袈裟な手振りで「ルーク様」と請い始めた。

ルー「あんた、プライドってもんがないんだな」
ジェ「生憎と、この程度で腹を立てるような、安っぽいプライドは持ち合わせていないものですから。ルーク《様》」

ルー「あ〜もう、様づけはしなくていいからなっ」
「くそっ」

脳内で考えていればいいものの、突然の戦争という言葉と移動の遅さに焦ってしまったせいか、の口から叱咤が漏れた。
今まで終始無言でいた民間人の突然の言葉に、周りが驚きの目を向ける。

ルークは自分の行いを、叱咤されたのかと思った。
は、ルークの後ろにある窓を突き破ろうと踏み込む。しかし

ビターン!!

ジェイドによってしっかりと握られた綱が、踏み込みを阻止する。
手も拘束され顔から落ち寸でのところで受身はとったが、そのまま床に這い蹲る形となった。

「・・・」
ジェ「いやぁ、まさか本当に逃げ出そうとするとは思いませんでした。それも私の虚を狙って。あなどれませんね」

そんな台詞を言いながらも、優雅な笑みが消えないところをみると、余裕というやつだろうか。
(こんなことを、している、場合、ではない)

ゾクッ

瞬間、部屋一帯に悪寒が走った。
は顔面を床に擦り付けていた状態から、ゆっくりと顔を上げルークの先にある窓を見たが、ルークからはと面と向かい合ってる状態だった。

ガタッ

離れようと椅子から立ち上がったが、恐怖からそれ以上動けなかった。
ルー(なっなんだよ。こいつ。何つぅ目、してんだよ)

(拘束されているのは胴と両腕か)
(幸い、足は空いている)

ズッ

は足を・・

ミュ「・・・みゅっ」
ミュウは、恐ろしさに声をあげてしまった。

はふと我に返った。
悪寒もなくなり、全体の気が元に戻る。

(だめだ。これでは状況を悪化させている。今の状況から最善の方法を)
「マルクトの軍人、何点か聞きたいことがある」

ジェ「はい。答えられる範囲でどうぞ」
は這いつくばったままの体勢で尋ねた。

先ほどの悪寒はないものの、その顔つき目つき態度はまるで・・・軍人。
ルークは、ジェイドのあの紅い目に自分の思っていること全てが見られているようで、いたたまれなかったことを思い出した。

しかし、このという闇色の目は、まるで目の前にいる自分など写していない。
自分の見えるものしか見ていないようだ。

そう、まるで自分という存在がいないというふうに見られ、別の意味でいたたまれなかった。

「このタルタロスは二年ほど前に、製造された最新型だと判断したが、性能的には速さと陸海共同で使えるという特徴がある。なのに何故こんなにも遅い。窓の景色からしてまだローテルロー橋も渡っていないのは何故だ」
ジェ「はい、たしかにこのタルタロスは最新、陸海共々使用できます。元来の速度より遅いのはその速度に見合った譜力が足りない、といったところでしょう。ローテルロー橋は漆黒の翼に破壊されてしまい、現在は使えませんので迂回ルートを進んでいます」

「そして、階級は大佐と言ったが、本当に大佐であろうな」
ジェ「心外ですね。私が嘘をついているとでも?」

「質問を質問で返すとは・・いやそのようなことより。そうだ。何故、こんなにも小規模な組み合わせにした?この艦隊の総動員数は最高で400。全体を見たわけではないが、艦内に居た兵の数と比率、最低限必要な譜力、人数と警備警戒人数を合わせ、この艦隊にはさしずめ150人弱程度と見る。マルクトの大佐という地位が指揮する譜兵連隊ならば2160名。譜力が足りないというのなら、見合った分の譜兵連隊を連れて行けばいいものの、この人数。他に兵力を与えていたとしても、これではせいぜい少佐といったところだ」

ルークにはが何を言っているのかさっぱりだった。とにかく人が少ないということしか分からなかった。
ティアも他国の知識がないというわけではないが、正確な人数やこの艦隊がいつ作られたというのは分からなかった。

アニスとイオンは、先ほどの悪寒がまだ残っているのだろうか、少し震えながら隅のによって聞いているといったぐらいだ。
ジェ「国家機密並みの重要さと急なことでしたので、何分十分な準備もできず、今回このような小規模な組み合わせにしました。別に戦争に行くわけでもありませんでしたので。しかし、そうですね。私にも落ち度があったようです。以後気をつけましょう。それより・・・随分と軍の知識がおありのようですね。貴方、本当に民間人ですか?」

ジェイドは、笑みをたたえて答える。
最後の質問だけは、中指をメガネに押し当て、少し低い声で問いただした。

「・・昔、軍人になろうと思っていた時期がありまして」
ジェ「・・・まぁ、そういうことにしておきましょう」

真に受けたわけでないという返事を返す。








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