【第一章:四の卷 〜気づけ己が本心(後編)〜】


蛟のことは、常闇(大型の手裏剣の別名だと思っていください)を手にしてから、里長から聞いた。
迷信じみてて、正直どうでも良かった。

ただ、蛟に選ばれちゃった人は運がないなーて思った。
それから、甲斐のとこでお仕事してたら、かすがが里を抜けた。

・・・・で、後に続くようにも里抜けた。
抜けたっていうより、迷信の生贄って感じかな。

瀕死のときに里長に報告したーなんて言ったけど、ホントはしてない。
なんとなーく・・・しないほうがいいと思った。

長年の勘、ってやつだね。
と直接話がしたかったから、こっそり奥州に行こうとしたら、旦那が。

(幸村「佐助っ!伊達政宗殿のもとへ行くぞ!!」)

ナーイスタイミング♪
旦那ってば最高。

明日には奥州に到着するときだった。
里長から文が届いたのは。

【かすが暗殺を懇願せし忍を向かわし。否、蛟を奪う策略にすぎず。里、半数死に絶え蛟を奪われし。その忍里を抜け、姿を暗ます。ここに暗殺を命ずる。里長】

かすがの暗殺懇願して、蛟が奪われて、里が半滅して里抜けだってさ。
笑っちゃうよね。

俺様が気付かないとでも思うの。
がかすがの暗殺懇願するはずないじゃない、蛟は・・奪われたっていうより・・・。

とりあえず、が蛟に選ばれちゃったから、殺してほしいんでしょ?
下手に抜け忍への情が起きない様に、書いたみたいだけどさぁ・・・バレバレだよ、里長。

どうやら、奥州にいることは知らないらしい。
文には、探し出せっとも書いてあった。

奥州で会ったら、暗殺の任は言わないでおこうと思った。
もしかしたら、行くところがなくて、仕方なく奥州に身を潜めているのかもしれない。

そしたら俺様の部下ってことにして、甲斐に引き連れちゃって、里長には伏せておけばいい。
どうせ、もうすぐ・・・・。


「里長の文が嘘だって知ってて・・・なんであの時、信じきったようにしたんですか?」
佐助「今更どーだっていいじゃない、そんなこと」


なんだろうねぇ。
あぁ、そうそう。

龍の門くぐって潜入させてた忍から、独眼竜が六爪持ってないって聞いた時だ。
里長のこと信じたふりして、暗殺のこと言おうと思ったのは・・・。


「だったら、伊達様を殺めるようとしたのは何故です。里の問題とは別です!」
佐助「あんたには関係ないでしょ」


六爪がないって、それってさ・・・に渡したんでしょ?
武将が自分の刀を渡すってさ・・・自分の命渡してるのと同じじゃない?

それだけ、を信じちゃってるってことだよね?
それまで、旦那の宿敵ってぐらいしか思ってなかったけど、嫌いになった。

俺様が嫌いっていうのは・・・・。
消しちゃおっか・・・。


「蛟のことだって知ってて、何故・・・・」
佐助「そこまで、言わなきゃいけない?」


壊そうと思ったんだ。
せっかく築いた、独眼竜の信頼ってやつをね。

一カ月程度しかいなかったくせに、六爪渡して背まで預け合ちゃってさ。
で、俺様の分身殺すのに、躊躇(ためら)いもしないし。


「なんで・・・いつも、肝心なことは言ってくれないんですか・・」
佐助「教える必要がないからだ」

教えられるわけないでしょ?

なんで、に六爪を渡したくらいで独眼竜を嫌いになったのか。
なんで、独眼竜を守ったていう、主従の立場なら当たり前のことをしたを、不快だと感じたのか。

俺様にだって、分からないのに。

でも今は、久々に動いたからかな。
なんか、どーでもいいって感じがする。

「・・・分からないことが増えました」
佐助「じゃぁ、頑張ったご褒美に、あんたが知らなかったこと教えてあげるよ」

「ご褒美って・・・私と貴方は、殺すか殺さ」
佐助「かすがの暗殺はあんたの暗殺の隠し網、って思ってるみたいだけど、そーでもない。かすがの暗殺が成功すれば、流星(かすがの持ってるクナイのこと)は戻ってきて、手負いのあんたは簡単に殺せて、蛟の使い手を死んで、里はばんばんざーい」

「一体、どやってそれを・・・」
佐助「調べた。旦那が、見極めるーっていうからね」

(幸村「どちらの言い分も信じ、某は某の目で見極める」)
とりあえず里長のことも信じて、里に戻って調べた。

ちょっ〜と五忍をつついたら、聞いてないことまで勝手に、べらべらしゃべってくれた。
海月の手首にクナイ刺したって聞いたときは、その忍の手首、ふっ飛ばしちゃったけ。

結局、が言ってたことが、本当だった。
佐助「それで、俺様なりに見極めた」

「見極める?話が見えま」
佐助「奥州に行かない。・・それが俺様の出した答えだ」

奥州に行かない。
そうすればにも会わないし、会わなければ・・・暗殺もしなくていい。

お仕事で奥州に行くことがあっても、暗殺よりお仕事優先しちゃえば、それでいい話。
なのに・・・・。

佐助「なのに、あんたからこっちに来るから、俺様の計画丸潰れ。かすがみたいに感情が先に走ってくれれば、わざわざ、こーんな風に戦わずに済んだ・・」

ぽたりとの額の傷から血が落ち、佐助の頬にあたった。
佐助「・・・・傷、作らない様にしたはずだけど、ダメだったみたい」

(!)
佐助はを引き寄せ、の額の傷を舐めとった。

佐助「ごめーんね」

「傷つけないって・・本気じゃなかったってことですか!?」
佐助「本気だったよ。ただ、あんたを攻撃するときは・・何でかな、気付いたら体術使ってたっていうか・・・」

「本気じゃない、じゃないですか!!」
佐助「あれっ?怒ってるの」

「当たり前です!!分からないこと言い出して、勝手に自分で話進めて、挙句の果てに覚悟を決めてきたのに本気じゃなかったって!!・・・・・」

は立ち上り蛟を引き抜いて、佐助に背を向け、歩き出した。
佐助「いいの?殺さなくて。あんたは抜け忍、俺様はあんたの追い忍」

は、蹴り飛ばされた蛟に足を進める。
佐助は、倒れたまま起きようとしない。

は蛟を手に取った。
「そう。貴方は追い忍、私は・・・」

上田城の周りの石壁は崩れ、堀にある露草が風に揺れている。
いつしか逃げ出した鳥たちが、木々に集まりだしていた。

これで終わりかな・・・佐助はそう思った。
「貴方が、羨ましかった」

佐助(?)
は、背を向けて言い続けた。

「忍の才能もあって、かすがや里の人たちとも仲が良くて・・尊敬されてて、私の修行の邪魔ばっかりして・・・・優しくしてほしくないときに優しくして・・・」
佐助「・・・?」

「瀕死で、自分は死ぬんだって思ったとき・・・・・最後に思い出したのは、かすがと貴方だった」
強い風が吹き、の藍色の髪が波のように流れた。

佐助は、を驚いて見ていた。
「私は・・・貴方が好き」

佐助(!)
佐助は起き上がり


「だった」
佐助(あら〜〜?)


倒れた。
は佐助に振り返る。

「それに、好きは好きでも・・・異性でなく、かすがと同じ好きだったと気づきました」

異性の好き?
かすがと同じ好き?

好きは、好きはでしょ?
何が違うっていうのさ。

「かすがに会って分かったんです。異性にたいするのが、どんなものか・・・」
佐助「俺様も、かすがのことは好きだ」

は、少し悲しそうに笑った。
さやさやと小さく風が吹く。

「・・・いなくなればいい」
佐助「?」

「かすがを信頼してる上杉様に、そう思ってませんか?それに、上杉様の傍にいるかすがもかすがで、少し気に食わなかったり・・・」
佐助(・・・・・・・・あれ?それって)

「かすがに会いに行ったとき、似たようなことをかすがが言ってたんです。上杉様と外からいらっしゃた友人の方が、親しげに話してただけですよ?」
似たようなことを、自分は思わなかったか?

かすがに対してじゃない、あれは・・・・。
佐助(俺様・・・)

「私は、かすがと貴方が一緒に話していても、そう思ったことありませんでした。・・・貴方はかすがのことが好きで」
佐助(のこと・・・)

「私のことは嫌いなんです」
佐助(!)

嫌い・・・・?
「だから、覚悟を決めた私に対して本気にならない・・・何に対しても、私と正面から向き合わない」

俺様、のことが嫌い。
佐助(違う)

「貴方とは抜け忍と追い忍ではなく。互いに仕える方同士の・・・真田様が私を殺せとご命令でもしない限り、本気で向き合えないようです」
は、上田城の入口付近で気絶している真田幸村を見る。

「真田様には、無礼をお許しをと伝えてください。伊達様や片倉様のご命令があれば別ですが、私から貴方のところに来ることは、もうありません」
佐助「・・・」

「貴方は奥州に来ないと言いました。それなら、気を張り詰める日々を送ることも・・・伊達様にご迷惑をおかけすることもありません」
その瞬間、ぱんっと氷の礫が飛び散り、の姿が消えた。


佐助「・・・・」


なんで・・・に六爪を渡したくらいで、独眼竜を嫌いになったのか。
かすがんとこ上杉謙信って人が同じようにかすがに自分の刀を渡しても、嫌いって思わない。

現に今だって、上杉に対して嫌いだと思ってない。

なんで・・独眼竜を守ったていう、主従の立場なら当たり前のことをしたに、不快になったのか。
かすがが、俺様から上杉謙信を守ったことがあったけど「頑張ってね、かすが」って、応援したぐらいだし。

余裕だ。


佐助(そっか・・・俺様・・)
佐助は、今まで自分でもおかしいと思っていた行動や感情が、何だったのか分かった。

それは、氷が溶けるように・・・・。

本気だったのに、無意識に体術使ってたのは。
佐助(これ以上、俺様のせいで傷跡・・つけたくなかった)

里長の文のこと言って、を奥州から追い出そうとしたのは。
佐助(俺様んとこに、来てほしかったんだ)

が、俺様の分身殺して、独眼竜を守ったのに、苛立ったのは。
佐助(俺様より・・・独眼竜のほうが、大切ってことだよね・・・?)


ゆっくりと、佐助の中で解けていった。
佐助(俺様・・・・)



分かってしまえば、なんてことはない。






佐助(独眼竜のことが、好きだったんだ)






【その頃の伊達政宗】
政宗(Chills(寒気)!?)

小十「政宗様?」
政宗「いや、なんでもねぇ」


注意:夢小説である。



【同時刻 佐助】
佐助(なーんてねっ。俺様、男娼っ気なんてないし)

あっては、困る。
佐助(ことが、俺様。・・・これが、ねぇ)


歪んでいる。
佐助はそう思った。

かすがが上杉謙信を好きだとしても、そんなとこも引っ括めて、かすがのことは好きなのに・・・。
のことは、独眼竜と・・・・なーんて想像しただけで、殺気立つ。

けど、そんなに、自分の感情や行動が左右されるなんて、気に入らない。

かすがのように、素直に好きだと思えない。
佐助(それに、俺様、かすがのことも好きなんだよねぇ)

異性の好きが、分かったなんては言っていたけど、分かってない。
佐助(好きって、それだけじゃないよ)







佐助は大の字になり、空を仰いだ。
五月晴れに相応しい空、長細く霞んだ雲が視界の端から端へと流れる。

空と霞む雲は、の左目を連想させた。
思えば・・・空を眺めては、を思い出していなかっただろうか。

憎らしいほど、晴々した空色だ。
空は、月はかすがを・・・。

佐助(あ〜あぁ、どーして俺様が好きになる相手は、里抜けするかねぇ)
二兎を追う者は一兎を得ず。

佐助は声に出さず、苦笑する。
を好きだと気付いたことは、別にいい。

ただ困ったことがある。
自分は、暗殺の任がある以上、それに逆らうことはできない。

仕事だからだ。
かといって、今の雇い主も、この場所も気入ってるので、離れる気は毛頭ない。

抜け忍になると、追い忍の相手をするのは面倒だ。
佐助(さぁて、どうしたもんか)

優しい風が吹く。
額宛がないせいで、前髪が額をくすぐる。

体力がなく脱力しきっているため、起き上がる気にもなれないまま、普段あまり目にすることのない前髪をぼーっと、佐助は眺めていた。
ふと首を横に向けると、破壊された石垣から露草が見えた。

その露草の辺りを、ひらひらと優雅に揚羽蝶が飛んでいる。
佐助(あぁ、そうだね。あそこは、もう未練・・・もいないし、そろそろ、やりますか)

佐助「蛟の言い伝えも・・・満更じゃないねぇ」
佐助は、楽しそうに口元を緩め、目元を細めた。






【それから数日後】
奥州にいる

帰ってきて早々、片倉小十郎に呼ばれ、伊達政宗の部屋に行き・・・今は、暗い廊下を歩いて、自室に帰るところだった。



(怖かったです・・・)
は、政宗の部屋のことを思い出す。



静まりかえった室内。
風も吹かず、木々の音も聞こえず、遠くで人の声も聞こえない。

重く・・・・見えない重圧が、に圧しかかっていた。
は頭を下げ、視界は畳と己の藍色の髪。

鈍く深い金色の隻眼は、じっとを見ていた。
その鋭い視線が自分を射抜くよう、針で刺された虫が如く、身動きができず。

姿を見ずとも、伊達政宗が憤っていることが、片倉に重々伝わり、緊張の汗が流れ落ちる。
政宗から発せられる、無言の威圧・・怒気のせいだ。

殺気のように、貫くような鋭さもなく、死を直感させるようなものない。

されど、この空気。
沈黙が増すごとに重くなり、恐怖という感情が生まれる。

一体・・・どれほど、この沈黙が流れただろう。
この息苦しく、逃げてしまいたい衝動に駆られる。

は、政宗がなぜお怒りになっているのかを、考えていた。
今まで、御咎めがなかった分けではない。

それはもう、しっかり、ばっちりと政宗直々にお叱りをうけたことは、何度もあった。
その度に、軽く頭を殴られたり、背中を叩かれたり、耳を引っ張られたり・・・・・。

政宗本人、軽くやっているつもりだったが、にとってはかなり痛いものだった。
しかしそれでも・・・。

「次は、ちゃんとやれよ」
「What's?フザケタことぬかすんじゃねー」
「そんなこったぁ、自分で決着(けり)つけるもんだ」

まだ、後押しするような優しさがあった。
今は、そんな柔らかな雰囲気は、無い。


は、佐助を討ちに行くと、その理由も添え、置き文を残していった。
数日前から、政宗や片倉、その家臣の方々に、用事や仕事はないか確認をとり、数日、外へ出る許可も頂いていた。

(・・・・・)
外へ出る許可を貰ってはいたが、敵陣に向かうことは言わなかった。

お怒りの理由は、それしか考えられない。

政宗から何か事を始めぬ限り、自分は正坐をし頭を下げたままの体勢を崩してはいけない。
誰に言われた訳でもないが、無言の怒気が、そうせざるおえなかった。


じっとを見ていた政宗は、深いため息吐き、隻眼を閉ざし、自分の額に強く手を宛てる。
政宗「・・・あの猿回しは、やってきたのか?」

小十(!?)
「・・・かっ甲斐の忍びは、討ち、仕損じ、ました。も、申し訳ございません」
木造りの機械の動作するように、固くぎこちない言い方だった。

政宗「そうかい・・・。悪いな、碌に休ませもしねーで、急に呼び出しちまって。明日でいいからよ、上田城について色々聞きてぇことがある・・今日は、休め」
それだけ言って、政宗はを下がらせた。

とぼとぼと廊下を歩く
(もっと、何かお言いになると・・・)

その場で首を切られても、おかしくない雰囲気だった。
は深い溜息を吐き、自室へと向かう。


【伊達政宗は・・・】
政宗「HA〜〜〜〜(溜息)」
同様、深い溜息を吐いていた。

小十「・・・・・政宗様。に、もっと他に言うことが、あったのではございませんか」
政宗「まぁな・・・。でもよ、なんだかビビらせちまったみてーだし。そんな状態で言っても、意味ねぇからな・・・」

小十「ですが。お怒りの原因はに・・。そうではありませぬか?政宗様」
政宗は、ちらと片倉を見て、誰も居ない正面を見る。

自分の膝の上で、人差し指を上下に動かす。
政宗「そいつはNoだ。は関係ねぇ。俺が・・勝手にイラついてるだけだ」


そして、政宗は短く溜息を吐く。
政宗(そうだ、が悪いわけじゃねー)

政宗は怒りの原因はではないと言ったが、片倉は、嘘だと思った。
政宗にの置き文を渡し、目を御通しなられてからだ。

さきほどまであった、息が詰まるような怒気を孕(はら)んでいらっしゃったのは・・・。
今は、落ち着こうとしているのか、何度も溜息をついている。

政宗自身、片倉の思っているよう、落ち着こうとしていた。
政宗(・・・・)

政宗は文を読み。
の心意気を誉めるより、安否を気にするよりも先に、あの甲斐の忍びのところに行ったことに。

憤った。

いつ殺しに来るか分からねー日々なら、こっちから嗾(しむ)ける。
怯え腐った毎日を送るくらいなら、自分もそうするだろう。

自分が納得する理由、同じ考え・・・。
それでも、憤りはおさまらなかった。

小十郎に名前を呼ばれ。
気がつけば、文を握りつぶしていた。

奇襲に来たとき・・・に対するあいつの態度は、散々なもんだったが、
真田幸村を抱えて去るときの、あの忍び猿の言葉もよりも、目が気になった。

(佐助『騙されちゃ駄目だよ・・・・俺様みたいに、さ』)
あれは敵に向けるような目じゃねぇ。

苦を、押し殺すときの目だ。
そん時、感づいた。

あの猿回しは、を・・・・。
もおそらく・・・。

ダメだ。
また苛立ちそうなる。


政宗(俺も、まだまだ餓鬼だな)
政宗は、深く溜息をついた。





【廊下を歩く
(・・・・・)


は、足音を立てずに歩く。
(もしかして、お叱りの言葉をかける気も起きないほど、幻滅させてしまったのかもしれない・・・)


なんだか、泣きそうになってきた。
(勝手な行動をとった、自分が悪いんです。自業自得です・・けど)

幻滅させてしまったかと思うと、悲しくなった。
は、深いため息を吐きながら、自室の障子を開けた。

佐助「はいはーい。そーんな落ち込んじゃってるに、イイお知らせが二つ、悪いお知らせが二つ」
「・・・・・」

ここは奥州、伊達政宗の屋敷の一室。
「・・・・・」

佐助「あれっ?もしかして、俺様に会えて嬉しすぎて声もでないの?
「・・・ここ、奥州ですよね?」

佐助「うん、そーだねぇ」
幻覚ではないようだ。

(佐助「奥州には行かない。それが、俺様の出した答えだ」)
あんた、そー言ってたじゃないか。

だいたい、落ち込んでる相手に、悪いお知らせはいらない。
そうじゃない、そうじゃない。

は首を横に振り、蛟を握り構える。
「気が変わって、私を暗殺しに来」

佐助「いいお知らせ、一つ目ー」
佐助は目を閉じ、すらりと人差し指を一本立てた。

佐助「俺様のあんたの暗殺のお仕事は、なっくなりましたー」
(!)

は目が大きく開き、佐助を凝視する。
一度与えられた任が解かれるなど、ありえないからだ。

ただし依頼人から取り消しがあった場合は別だが・・里長直々の里が与えた命(めい)だ、無くなる筈がない。
「油断させる気ですか!?いくら私が騙されやすいからって、そんな嘘に」

佐助「いいお知らせ二つ目ー」
佐助は人差し指を立たせたまま、中指を立てた。

ピースをきめて、笑っているように見える。
の言葉は、無視決定だ。

佐助「里が滅んじゃいましたー」
(!)

驚きよりも、何を言ってるんだこいつは・・・そう表情に出てしまうほどの表情が歪む。
「里が滅ぶなんて、そんなはずないです。伊賀の里は、伊賀の忍にしか場所も侵入経路も分からない。だいたい、それのどこが良い知らせだと言うんですか!?」

佐助「イイお知らせでしょーが。里が滅んだおかげで、俺様の暗殺のお仕事はなくなったんだし・・・ねっ?」
佐助は小首を傾げ、にこっと笑った。

は、納得していないようだ。
言葉に出さなくても、表情一つで何を思っているのか駄々漏れである。

あの殺気を迸(ほとばし)っていた彼女と、今目の前に入る彼女は同一人物だったのかと、疑うほどだ。
まるでカラクリ人形のように表情を変えず、次の攻撃を先読みするのに苦労したぐらいなのに・・・。

本人は無自覚らしいが、それだけでも敵を油断させるには十分だ。
佐助「ホントーだってぇ、織田んとこが里を滅ぼしちゃったんだよ」

「里が・・・織田に」
の視線は、どこか空虚を見ていた。

佐助「ほらほらー、話しはまだ終わってないでしょーよ。悪いお知らせ一つ目〜」

佐助は二本伸ばしていた指のうち、中指を下げた。
佐助「実は、俺様とかすがは甲賀側の忍者でしたぁ〜」

(甲賀・・・?)
は、混乱した。

甲賀と言えば、自分が抜けた伊賀と敵対する側の忍。
佐助もかすがも、小さい頃から、伊賀の里に一緒にいた。

佐助「幼い俺様たちの、はじめてのお仕事が」
【伊賀の秘宝を奪い、里を滅ぼせ】

佐助「ってわけ。でも秘宝は、使える人が限られちゃうし、かすがは途中で任務放棄して、ほんっとに里抜けしちゃうし・・・あれには、俺様も困っちゃてるんだよね〜」
「じゃぁ・・・伊賀の里で、一緒に・・・いたのは?里の人と、仲良くしてたのも・・・全部、嘘だったんですか。全部、任務の・・・。私と、仲良くしてくれたのも・・任務のため・・・ですか?」

佐助は、少し困った顔になった。
佐助「最初は、そうだった。お仕事のためってね。でも、やっぱりずっといせいかな?滅ぼしちゃうのはな〜って、さすがの俺様も思ってたら、織田んとこの旦那が、やっちゃてくれたってわけ」

「・・・・」
の目から、一筋の涙が零れた。

あまりに突然、色々なことを聞かされたせいだろうか。
頭がついていけない、素直に受け止めたくないのかもしれない。

今まで私は、嘘に取り巻かれ生きてきた。
・・・・今は。

の脳裏に、伊達政宗の姿が過(よ)ぎる。
(伊達様・・・)

佐助「悪いお知らせはまだあるよ?海月。悪いお知らせ二つ目」
(!)

佐助は言い終わると同時に姿を消し、の背後に姿を現し、拘束。
の両手首を背中へ回し、の首を掴む。

の首に佐助の指が食い込み、は身動きが出来ない。
佐助「俺様は、このまま甲斐の・・旦那のところにいるよ。つまり、あんたの敵ってことには変わりなし」

佐助「だから・・・」
佐助は前屈みになり、の耳元に自分の口を近づける。

口元には笑みを浮かべて。

佐助「俺様以外に、殺されちゃ駄目だよ。・・
(!?)

ギンッ

佐助「おっと」
誰かが佐助の背後を襲い、佐助はから手を離し飛躍した。

??「Shit」

「伊達様」
佐助に攻撃したのは、伊達政宗だった。

佐助は、一本の木の上に立つ。
佐助「今のは、ちょ〜と危なかったかな」

政宗「What’s?どーした猿回し、そんなとこいねぇーで、降りてこいよ」
政宗は六爪を、佐助に向ける。

佐助「ん〜今日の俺様はそんな気分じゃないっていうか、に言いたいことがあって来ただけだし」
政宗「Escapeすんのか?まぁ、猿にはお似合いだな」

佐助「・・・・」
政宗「・・・・」

佐助の殺気と、政宗の覇気がぶつかる。

佐助「ねぇ、
「はい」

名を呼ばれれば、無意識に返事をしてしまう。
習慣とは、恐ろしいものだ。

佐助は、伊達政宗を横目で見て、に言う。
佐助「前は、俺様のこと好きって言ってたけど・・」

政宗の怒りが増し、六爪からパリパリと雷が放電した。
佐助「今は俺様のこと、どー思ってるの?好き?それとも、嫌いになった?」

「それは」
佐助「俺様は、嫌い」

佐助は、満面の笑みで答えた。
(質問されたのは、私ですよね)

佐助「ちなみに、あんたは」
佐助は、伊達政宗を指さす。

佐助「大っ嫌い」
政宗「俺も猿は嫌ぇーだ」

佐助「で、は嫌いは嫌いでも」
(?)

佐助「好き過ぎて、嫌い」
闇に溶け込むように、姿を消した。

(本当に、言いにきただけ!?)



バチッと大きな音と、辺りが一瞬明るくなった。
(!?)

音のしたほうを見ると、政宗の六爪から発せられる雷がバチバチと異様な音を立てていた。
近づきたいが、感電しまいかねないので、近づけない。

「・・・・伊達様」
政宗「・・・・」

「・・・・」

しかも、あの無言の威圧・・怒気が、感じられる。
金色の炯眼は、佐助のいた場所を無言で睨みつけていた。

話しかけるような雰囲気ではなく、はその場で立ち尽くしてた。
月明かりが淡く光を下ろし、伊達政宗と庭の情景を映し出している。

閉ざしていた口を、政宗は開いた。

政宗「・・・」
その声は、醸し出す怒気とは裏腹に、優しく響いた。

「はい」
政宗「どう思ってんだ。・・・・あいつのこと」

あいつ・・・とは、佐助のことだろうか。
「それは・・・その」

政宗「like・・いや、loveか」
政宗は、吐き捨てるように言った。

「・・・あっあの」
は言葉を濁すと、伊達政宗はのほうを振り向き、笑みを見せていた。

残念だ・・・そんな感じの笑みだった。
政宗「loveって、ことか・・・」


分かってたはずだ。
わざわざ、聞かなくても。

俺がおめぇの命、救っちまったもんだから、その恩ってことで、ここにいるだけ。
本当なら、あの猿回しんとこに行きたかったはずだ。

打ちし損じたんじゃねぇよ、
おめぇは、討てなかったんだ・・・・好いた奴をよ。

あいつが、横から割ってきたと思ってた。
だが、こいつや猿回しから見れば、横割してきた邪魔者は自分だったって話だ。

「あっあの・・・」
は伊達政宗の言っていることに、きちんと答えたいが、答えることができない。

loveって何ですか?

(って、聞けるような雰囲気じゃない・・・)
政宗「行ってもいいぜ。・・・猿回しんとこによ」

(!)
は一瞬、伊達政宗が何を言っているのか理解できなかった。
佐助のところに、自分が・・・?

(伊達様・・・一体、何を・・・)

暗い夜に、月よりも深い金色が、の姿を映し出し、二人は時が止まってしまったように動かなかった。
ゆっくりと、の視界が涙で霞んでいきそうになったとき、伊達政宗はに背を向けた。


これ以上、を見ていると、言った先で「行くな」と言いそうになった。

そう言ってしまえば、あいつはここに残るだろう。
それじゃぁ、意味がねぇんだ。

政宗は苦痛に耐えるような面持ちで、喉の置くから声を出す。
政宗「見逃してやれんのは、今だけだ」

そう言うと、庭の奥へと歩き出し、から徐々に離れ、夜の闇へと溶け込んでいった。
「伊達様・・・」

歩みを止まらず。
砂利の音が、遠ざかる。

政宗は、爪が掌に食い込むほど強く、拳を握り締めた。
本当なら、この手でが逃げ出せないくらい、強く抱き締めてしまいたかった。

あいつが、猿回しを好きだとしても。
「お前は、俺のものだ。誰にも渡さねぇ」

そう言ってしまいたかった。

ダメだ・・・。
無理矢理手に入れても、自分がほしいあいつは手に入らねぇ。

主従の命令とか救った恩とかじゃねー、あいつが、どうしたいのか、それが知りてーんだ。
生き方ぐれぇ、自分で決めさせ・・・・。

政宗は、強く歯を噛締めた。

だが、何度も譲れるほど、許せるほど、自分はお人よしでも、大人でもない。
あいつが、これで猿回しんとこに行かなかったら・・・。

俺の命令で無理矢理ここにいると分かっていても、本当はあいつを好いていたとしても。
二度と、おめぇが俺に・・・・。



パキイィン
政宗(!?)

政宗の歩みが止まった。
というより、動かない。

政宗は自分の足元を見ると、氷が張り巡らされていた。
「待ってください!!」

というより、動けない。
は、ガシャガシャと氷の上を走り、政宗の近くに駆け寄った。

「私は、佐助のことは忍として尊敬してはいます!たしかに、まだ・・・」
政宗は眉を寄せ、の口を塞ぎたい衝動に駆られた。

「嫌いになりきれてません。かすがと同じ、友とした思い出が残っています。でも、佐助のところに行きたいと思ったことはありません!!何故ですか!?伊達様、何故、佐助のとこへ行けと言うのですか?私は、伊達様と一緒にいたいです!」
政宗「・・・・」

「私が、ご迷惑なら・・・必要ない、というのでしたら・・そう言ってください。佐助のもとにと・・言わないでください。私の居場所は伊達様・・・伊達様だけなんです」

足元の氷は、溶けていた。
政宗はのほうを振り返ると、は俯き、肩を震わせていた。


政宗「・・・・」

俺は・・・少し、早まっちまったようだ。
いや・・・ちゃんと、こいつのこと、分かってなかったのか・・・。

伊達政宗は、ゆっくりと歩み、の目の前で止まる。

情けねぇ・・・。
自分に自信が、なかったのかもしれねぇ。

それに、こいつのことになると、どうも調子が狂う。

の中に、あの猿回しのことは、まだ残っている。
なら・・・そんな場所も与えねぇくらい、俺で埋めればイイ話しじゃねーか。

そう思った瞬間。
政宗の中にあった苛立ちが、薄まっていった。




政宗「・・・。おめぇ、前に・・・俺に命やるって言ったよな」

は、その言葉に胸が締め付けられた。
自分の不始末に決着をつけるため、佐助と闘いのとき・・・。

(私は・・・自分のために死を覚悟した。伊達様ではなく、自分のために)
『この命、貴方様の為に捧げます』)

は知れず、守っていなかったことに気づいた。
「私は、伊達様のために、命を捧げると言いました。ですが、私はそれを痛あぁっ!!」

政宗はの額を強く小突き、は額を押さえて政宗を見上げる。
政宗「やっぱりな。おめぇのこっだから、刺し違えてもってとこだろ?」

「・・・申し訳ございません」
は再び下を向き、か細い声で言った。

政宗「・・・・俺のところで、いいんだな?」
「当たり前です!」

政宗「だったらもう、自分のために死ぬな。・・俺のために死ね」
「はい・・」

政宗「おめぇの居場所が俺なら、おめぇの死に場所も俺だ。それ以外はねぇ」
政宗は、海月の頭にぽんと手を置く。

政宗「それでもいいんだな?
「・・はい・・・・・」

は小さく、声を漏らした。
政宗「無理な返事は、聞きたくねぇんだがな」

「違います!私は・・私は、伊達様にお会いできて、幸せ・・者、だと・・・思っ」
政宗「泣くんじゃねーって。そこの池に放り投げっぞ」

(!)
注意:凍っています。

「泣いておりません!」
いえ、泣いています。

政宗「そうかい。じゃぁ、こりゃ何だろーな?」
政宗は、下を向いたままのの頬から涙を拭いとる。

「汗です!」
違います。

政宗「・・・顔上げな」
(そー言うこと、言いますか!?)

は、これ以上涙が流れない様に、目に力を入れて、伊達政宗を見上げる。
政宗「・・Happyだって思うんなら、笑うもんだぜ?」

政宗は苦笑して、の両頬を引っ張った。
「いっ、痛っ、痛いです。伊達様、もっとソフトにいぃぃぃぃぃぃ」

政宗「おっ?こいつはぁ、笑ってるになるな」
そう言って、政宗はの頬から手を離し、は真っ赤になった両頬を擦る。

(痛い・・・・)
政宗「Sorry、

「そんな、お謝りになることなど」
政宗「猿回しんとこ行け、なんて言ってよ」

「・・・・」
政宗「二度と言わねぇよ」






【第一章 完結】





第二章 序の卷 〜武田家の依頼〜
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【秋音より】
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