【帰還、そして・・・】


【日も高く昇った頃のこと】
佐助「ー。お腹空いたーー」

(誰のせいで、準備ができなかったと思ってるんですか!!)
と、怒鳴りたいだったが、怪我に響くと思い、耐えた。

昨日見つけたときは、三途の川に片足を入っているような状態の佐助。
だが今どうだろう?いつもの飄々とした笑顔に戻っていた。

あえていうなら、包帯や傷が痛々しい。
は、背負ってきた荷物をごそごそと引っ掻き回すと、それを持って歩き出した。

佐助「!?もしかして、こんな俺様を置いて行く気!?」
「ち・が・い・ます。近くの川に行くだけです」

佐助「じゃぁ、俺様も行く」
「おとなしく待っていてください」






佐助を見つけた場所から、少し歩くと川に出た。
清流は、陽の光を浴び輝いていた。

魚は、岩陰に身を潜めている。

「飲み水としても、十分使えそうです」
は、川岸辺まできた。

佐助「ホントだね〜」
佐助を背負って。


あの後、佐助がの背に乗りかかり、振り回しても脅しても離さなかったせいである。
(疲れた・・・)

は、このままここで佐助を置きざりにしたいのを振り切り、荷を広げ、食の準備などをし始めた。
持ってきた保存食と森で見つけた山菜、川で採った魚を焼き、食べ終え、最後に嫌がる佐助に、薬と兵糧丸を無理矢理服用させ、終了。

飲み薬の苦さに文句を言いまくる佐助を他所に、は濡れた布に真新しい包帯、塗り薬の入った容器を佐助に渡す。
「傷も洗っておきましょう。肩の傷は、自分でやってください。背や届かないところは、私がやりますから」

佐助「はいはいっと」
流れ作業のように傷口を洗い薬を塗って、包帯で巻き、食事の間に洗って乾かしておいた衣服を、佐助に渡した。

「終わっ!?」
佐助はの手首を引っ掴んだ。

佐助「ってないよ、
「やり残したとこがありましたか?すみません、どこですか?」

佐助「こーこっ」
佐助は、の十字型の衣服を引っ張り、右肩を露にした。

の首から肩のラインにかけて、佐助の噛んだ跡が、歯形までくっきりと残っていた。
「あっこれなら大丈でっ!!」

佐助は強引にを引き寄せ、自分の噛んだ跡に沿うように、舌を這わせた。
「だっ大丈夫ですから、離してくーだーさーいーって!!」

は佐助を押し退けようとするが、びくとも動かない。
(!)

舌は噛傷を過ぎ、の首筋へと徐々に上がってきた。
「さっ佐助、そこに傷は・・・・・っ」

の右腕が、びくりと動いた。
佐助「あれっ?もしかして感じちゃったの?

「ちっ違います、そうじゃなくて」
佐助は、の目の前まで近づき、薄っすらと笑みを浮かべた。

佐助「・・・人ってさ、三つの欲があるじゃない?二つの欲は・・・が満たしてくれた。・・だから、俺様ね。三つめも・・・・で満たされたいな」
「殴ります」











ぼかぁっ!!!


佐助「いったーーいっ!!殴ることないでしょー。俺様、怪我人だよ!?」
佐助は頭を押さえ、涙目になる。

「事前に言ったじゃないですか!それに、何、勘違いしてるんですか!!私は、二の腕捕まれて、声を上げたんです!」
佐助「えっ!?何?って二の腕で感じちゃうわけ!?」

何故、助けてしまったのだろう。
は、深く後悔した。

昨日、佐助に二の腕を強く捕まれたせいで、くっきりと指跡が残るほどの青痣ができてしまい、そこを捕まれたので、痛くて声を上げた。
が、そんなこと説明する気力もない。

「もう・・変なことも言うのもするのも、やめてください」
は、げんなりして答えると、佐助は涙目になりならが、にっと面白そうに笑った。

佐助「へぇ〜。それってどんなこと?」
「どっどんなことって・・それは、あのっ・・・人には・・・欲、が・・あって・・・・・」

の顔が赤くなっていく。
佐助「やっだなぁ〜。ってば、助平なんだから〜♪」

「スッ・・スケベッ!?」







【甲斐:上田城の庭】
信玄「幸村ぁぁぁぁぁぁっ!」

幸村「お館方さむぁぁぁっ!」
信玄「幸村ぁぁぁぁぁぁっ!」

ことの発端は、真田幸村の一言だった。
(幸村「・・・お館方様。殿から何の伝えもありませぬ。もしや、佐助はもう・・」)

(信玄「幸村あぁぁぁぁぁ!!」)
というわけである。

政宗「あいつは、猿連れて帰ってくる。なっ、小十郎?」
小十「政宗様。の行い・・・お怒りになられてたのでは?」

幸村「お館方さむあぁぁぁっ!!」
伊達政宗は縁側で胡坐をかき、片倉小十郎はその傍に立って、二人の殴り合いを眺めていた。

政宗「An?今もそうに決まってっだろ」
小十「政宗様、にはこの小十郎からしっかりと言い」

政宗は、ひらひらと手を左右に振る。
政宗「そんなことでイラついてんじゃねー。あいつ、おめぇからの仕事が終わって、すぐ探しに行きやがったんだ」

小十「?それに、支障があるようには思いませんが」
信玄「幸村あぁぁぁぁぁぁっ!!」

政宗「碌に休みもしてねー。猿回し探して、自分がDownしちまったら意味がねーだろ。ったく、だいたい、おめぇもも働きすぎなんだよ。もーちっと・・・自分に、気ぃ・・使えって・・・・」
小十「政宗様・・・・」

幸村「お館方さむあぁぁぁぁ!!」
小十郎は深く胸を打たれ政宗を見るが、政宗は自分の頬が赤くなっているかもしれないと思い、そっぽを向いた。

小十郎「政宗様。それも皆、政宗様のためにございます」
政宗「Thankx。・・・小十郎」

小十「にも同じことを言ってやってくだせぇ」
政宗「・・あぁ、そうだな」



ザッ


4人(!!)
突然、庭園より、佐助は闇の中から、は幾数の氷礫が舞う中から、姿を現した。

幸村「佐助えぇぇぇぇっ!!無事でござったかあぁぁぁぁっ」
佐助「あっ旦那〜。ただいまぁ」

佐助は駆け寄ってくる幸村に、にっこり笑って手を振る。
信玄「うむ・・・」

信玄はその場で腕を組んだまま立ち、佐助と目を交した。
「伊達様、片倉様・・・。申し訳ございまっ!!」


ドッシャーーッ


佐助とは、地面に崩れた。
幸村「佐助えええぇぇぇぇぇぇっ!!佐助、すまぬ、某が不甲斐無いばかりに!!殿っ!!良くぞ・・良くぞ、佐助を・・・!!」

幸村が、佐助に飛びつくように抱きついてきたせいだ。
今は、佐助との背の上にいる。

佐助「だっ旦那、お願いだから、ちょーっとどいてくれない?俺様・・怪我人・・・」
「・・・・真田様。佐助に肩を貸してさしあげて・・ください」

幸村「うむっ」
幸村は佐助に肩を貸そうとしたが、佐助は「大丈夫」と笑って一人で立ち上がった。

は、出鼻をくじかれたように、政宗と小十郎の前に立ち直る。

「伊達様、片倉様。ご処罰の」
政宗「んなもん、ねぇって。奥州に帰っぞ。

政宗は、苦笑交じりに言い、の頭に手をおいた。
は、叱りの言葉も処罰もなかったことに驚いたが、自分の頭に触れるその手に、頬を紅潮させ、小さく笑んだ。

「はい」
佐助「えぇ〜、もう帰っちゃうの〜。もう少しゆっくりしってたら?なんなら俺様の怪我が直るまで、ここにいるってのはどぉ〜おっ?」

ガックリと海月の首が落ちた。

あまりに雰囲気が崩れたせいで、はそのまま卒倒しそうになるのを、踏ん張り、後ろを振り返る。
「何度言ったら分かるんですか!?私が貴方を探して助けたのは、武田様と真田様に頼まれたからです!!だから、ここまでです!!」

佐助「えぇ〜そんなぁ。俺様と抱き合った仲じゃなーい」
政宗(!)

「あれはっ、背の傷を開くには、あれが一番やりやすかったんですから、仕方がないじゃないですか!うつ伏せよりも」
佐助「寝るときだって、ぴったりくっついてさぁ」

「あんたが、勝手にそーしたんじゃないですか!!そのおかげで、準備も帰るのも前倒しになっ」
佐助「傷だって、舐めあって〜」

「そっ、それは。だいたい、私は舐めた覚え・・・・」
はふと言い止まると、考え込んだ。

(確かに、背の傷から血を吸い取ったけど、あれは舐めたに入るのでしょうか・・・。ん!?)
は、誰かに腰の辺りを捕まれ、後ろに引き寄せられた。

見上げれば。
「伊達様!!」

政宗「やれやれ、の動物愛護にも困ったもんだぜ」
佐助「えーそれって、俺様、に愛されちゃってるってことだよねぇ」

政宗「・・・・・(見据えています)」
佐助「・・・・・(満面の笑みです)」

二人の間に見えない火花と、龍と大鴉の幻影がぶつかる。
(伊達様の好敵手って、真田様のはずじゃ・・・)

佐助「あぁ〜そっか〜。独眼竜は、抱きしめたこともないんだ」
政宗「猿が、イイ気になるなよ」

佐助「図星なんだ」
「お抱きになったことぐらい!」

政宗と佐助は、に注目。
は、自分の発言にしまったと気づき、口を開けたまま止まった。

因みに、顔は徐々に赤くなっていく。

「・・・あっ」
政宗「A?」

小十「あります」
政宗「A―An!?」

幸村「破廉恥でござる!」

政宗は後ろを振り返って、小十郎を見た。
小十「宴の席でお酔いになられたとき、近頃の政宗様はいつも、をお抱きになって、お眠りに」

幸村「破廉恥でござる!!」

政宗「What’s!?、宴の日にゃ目ー覚めてもはいねーぞ」
小十「ご存知でないのも無理はありません。政宗様がお目覚めになる前に、が逃げ出しているせいに」

政宗はに向き直る。
政宗「Reary?」

縦長の瞳孔が「嘘をつくんじゃねーぞ」そう、言っている気がした。
「・・・・・・・・は」

幸村「破廉恥でござる!!!」
政宗「Shut Up!!真田幸村!!テメーが、何imageしてんのか分からねーけどな、おめぇのその頭ん中のほうが破廉恥なんじゃねーのか!!」


ガーーーン


幸村「そっ某が・・・破廉恥!?・・・・」
幸村は、瞳孔全開にして固まった。

政宗は、ふたたびを睨むように目線を送ると、は消え去りそうな声で「はい」と答えた。

最初に政宗に抱き枕にされてからというもの、宴の時には、なるべく政宗から距離を置いていただったが・・・。
(政宗「〜、、どこいったぁ!!」)

(家臣大勢「「「「姉御っ!!筆頭がお呼びですぜ、さぁっ!!」」」)
(家臣大勢「「「「姉御っ、さぁっ!!」」」)

家臣たちは、その掛け声と共に、の背を押すように政宗のところまで運び・・・・・・。
ただ、寝に入ってしまえば、伊達政宗の手は緩み、その隙には抜け出していたので、政宗は知らなかった。

佐助「でもまぁ、本人に自覚がないんじゃーしてないのと同」



ゴッ



は佐助の頭を殴った。
佐助「ちょっとーーーっ!!瘤(こぶ)の上から殴ぐるなんて、酷すぎじゃない!?っていうか、奥州にいってから、暴力的になってない!?」

「うっせーです!!伊達様を愚弄するような、あんたがいけねーんですよ!!」
佐助「言葉遣いも乱暴になっちゃって、俺様、ちょー悲しい〜。それって独眼竜の影響?」

政宗「おい・・」
「違います!!あんたが知らなかっただけです!!」

佐助「そうだねぇ。今回、に助けてもらって、案外面倒見がいいってことも、知ったしぃ。俺様、惚れ直しちゃったかもしんない」
政宗(!!)

「面倒見がいいのは、伊達様を見ていれば影響もでます」
政宗「俺の?」

「・・・・・・」
は素早く政宗を見上げ、一気に顔を赤くした。

「申し訳ございません!気がついたら、その・・見ていた、と言いますか、決してお邪魔になるようなことは」
政宗「そうかい・・・。俺は知らねーうちに、おめぇに視姦されたのか」

「な”っしっしししっしかってそんなっ!?私は、そんな疚(やま)しい目でっ」
佐助「えぇ〜どうかなぁ。ってば、けっこう助平だし〜」

「絞め殺しますよ」
その場に一瞬、固まっていた幸村も我にかえるほどの寒気が起きた。

今にも泣き出しそうなが、氷の如く冷たく言い放ち、鋭い目つきで佐助を見ていた。
政宗(!)

政宗は、そのに驚く。
と同時に。

政宗(・・・いいねぇ)
嬉しくなった。

今のに不満があるわけではないが、どうもCoolさにはかけると思っていた。
慌てふためいては焦ったり、頬を染めて笑むのがの印象だった。

だがそれは、自分に見せていたが、の全てだと決め付けていたせい。
背筋がぞくりと泡立った。

数日前、との手合わせをしなかった政宗は、異様にと手合わせ・・・いや、この場で真剣で戦ってみたい衝動に駆られた。
自分の知らないの一面を見れる・・・それは、目の前に入る真田幸村や、自分に剣術を指導した小十郎とはまた、違ったスリルが味わえそうだ。

政宗「!!」
「はい!!」

は、分けが分からないまま返事をした。
(一緒に佐助を絞めると、お言いに?違う、この猿は自分が殺るから手を出すなと・・・)

政宗「俺と戦え」
「・・・・」

政宗は、の腰においていた手を離し、六爪を引き抜いた。
まだ理解できていないを尻目に、好戦的な笑みを見せる。

(まっまさか!!)
「だっ伊達様、あの、絞め殺すというのは、伊達様に言ったのではなく、佐助に・・・」

政宗「HA!!そんなことは、百も承知だ!!だがな、。そこの猿、絞め殺す気で俺と闘え」
(?????)

は状況が呑み込めず、政宗を目の前に、口が半開きなっていた。

佐助(あぁ〜ぁ、独眼竜も当てられちゃったか〜)
佐助には、政宗がに闘えと言った理由が分かっていた。

の殺気は、恐怖というより、体の奥から高揚感のような、心地よい危険を目の前にしている感覚になる。
おそらく先の発言で、独眼竜は、それを感じ取ったのだろう。

幸村「政宗殿!!女子(おなご)に手を出しすとは、見損なったでござる!」
政宗「An!?おめぇもと手合わせする、しねー言ってたじゃねーか!!」

幸村「そうでござった!!殿っ、政宗殿の前に、某と手合わせ願おう!!」
「おっお待ちください。今は、とりあえず」

政宗「おめぇには、猿がいるだろ」
幸村「佐助は、某と手合わせをしてくれん。いつも逃げてしまうでござる」

佐助(あっ、猿で通じちゃうわけね・・・)
政宗「HA!やっぱりな、猿はEscapeしかできねぇようだ。足に自信はあっても、腕に自信はねぇってか?」

佐助は殺気を出す・・・かと思いきや、にっこりと笑った。
佐助「そうだねぇ〜」

(?)
政宗(?)

政宗は、その態度に軽く毒気を抜かれ、は違和感を感じた。
「・・・佐助?」

佐助はだけに伝わるよう、読唇術を使う。
(佐助「俺様が何でそうするか。独眼竜と闘えば分かるよ」)

(?)
に伝わったことが確認できると、佐助は政宗に殺気を飛ばした。

佐助「でも、言われっぱなしっていうのも、ムカつくよねぇ」
政宗「おいおい、Damege負ってる奴に手は出せねーな」

佐助「なんだ、アンタだって逃げてるじゃん」
政宗「An!?」

佐助「龍は、飛んで逃げるってね」
政宗「・・・OK、OK・・そんなに負けてーのか。後悔すんじゃねーぞ、猿!」

政宗は構え。
佐助「お空や綺麗なお水しか知らないような龍に、地面や泥沼がどんなものか教えてあげますか」

常闇(大型の手裏剣の名前)に手をかける佐助、両者が・・。

信玄「佐助ぇ!」
小十「政宗様!」

止まった。

双方、その場で石のように止まっていたが、戦う気配は消え去っていた。
政宗(・・・何やってんだ、俺は。いい加減、城を空けとくわけにもいかねーし、奥州に帰って。、休めてやんねーとって、自分で言ったばっかじゃねーか)

佐助は、政宗が渋々、六爪から手を離すと、すぐ近くにいた武田信玄を見上げた。
ゆうに政宗、幸村、佐助、と、四人ぶんを多い尽くす影をつくるほど巨漢の持ち主である信玄は、腕を組み立っていた。

佐助は、常闇から手を離した。
佐助「はいはい。お仕事だったら、ちゃーんとやってきましたよ。例の・・・っと、まっ詳しくは後にしまっしょっか」

信玄は、目を伏せる。
信玄「何があったのじゃ。儂を杞憂させおって」

佐助「いや〜実は、お仕事の後に追っ手に」
「嘘です。かすが、見つけて追いかけて、振られたついでの攻撃が直撃した挙句に、川に流されたところを、運悪く流れてきた木が背に直撃して気絶。川岸で目が覚めて、回復を試みようと逆に衰弱していくなか、私に助けられたんです」

佐助「違うって、かすがを追いかけようとしたら、川に・・・」
(!)

信玄「佐助えぇぇぇ!!」

信玄の怒りの鉄拳が、佐助の顔面に
「お待ちください!武田様」

くるまえで、ピタリと止まった。
佐助は、ほっと安堵の息をつき、政宗は舌打ちした。

「佐助、かすがをどこで見たんですか?」
佐助「今、あんたが言ったんじゃない。ってことは、あんたは知ってるってことでしょ?知ってたんなら、もっと早く助けてよね〜。惚れ直して損しちゃったじゃない」

「ただ予想したことを言っただけです。まさか、本当にかすがが関係してるなんて・・・。かすがは、どんな様子でしたか?」
佐助「相変わらず別嬪さんだったよ♪」

「当たり前です!そうじゃなくて、追われてたとか、闘ってたとか」
政宗「What's?おめぇ、そのかすがって奴、随分気にすんだな」

「それは・・私が佐助を探すと決まったときに、一番にかすがのところに行ったのですが、上杉領には居らず。かすがに文を出したのですが・・日が経った今も返答がありません。もしかしたら、かすがの身に何か・・・」
佐助「そんなの、あんたの探し方が悪いのも含めて、上杉謙信から何かお仕事でも頼まれてる最中なんじゃないの・・・っと」

佐助は、一瞬目眩に襲われ、少し前のめりになり踏みとどまると、武田信玄は静かに城の中へと歩き出した。
「武田様、どこへ行くおつもりですか」

信玄「医者を呼びに行くだけじゃ。御主との借りは、守ぉておる」
政宗(借りだと?)

借りをつくるため、とが言ってから、いつと武田信玄が、そんな話をしたのか。
そもそも、武田信玄が守っている借りとは、一体・・・。

幸村「お館様!!医者であれば、某が!!」
信玄「幸村あぁぁぁぁ!!」



ドカアァァッ!



武田信玄は自分の目の前に走ってきた、幸村の顔面を殴った。
幸村は、佐助の近くまで吹き飛ばされる。

信玄「お前は佐助を見ておれ!!儂が医者を呼びに行く間に、することはあるじゃろう!!」
幸村「おっお館さまあぁぁぁぁ」

信玄は城の奥へと去り、幸村は懇情の別れのように叫んだ。

佐助「旦那・・・大声出すと傷に」
政宗「響くってか?」

佐助「・まっさか〜、そんなはずないでしょっ傷にもイイかもって言おうとしたの」
「そんな治療法、聞いたことありません」

小十郎は溜息をはいた。
小十「政宗様、奥州に帰りましょう。、お前もだ。これ以上、ここにいる理由もない」

政宗「Un?小十郎、おめぇはが武田にとった借りのこと知ってんのか?」
小十「えぇ。がこの忍びを救出し戻るまでの間、俺と政宗様には手出しをせず、奥州にたいしても、合戦の準備や軍を潜ませるようなことをしねぇと、武田から直接聞きました」

は、伊達政宗の前で、正座をし頭を下げた。
「申し訳ございません。伊達様がこちらに残るとおっしゃられたとき、必ずや片倉様もいらっしゃるだろうと思い。それでは、奥州が狙われてしまうのではないかと・・。勝手に借りを減らしてしまい」
政宗「減らす?借りは一つだろ?」

「いいえ、武田様には二つです。佐助を探すで一つ、殺さずに助けてここに連れてくるで一つです」
は頭をあげ政宗を見上げながら、右手と左手の人差し指を立てた。

政宗は、隻眼を大きく開き口端をあげた。
政宗「Reary。やるな。なら、さっさと奥州に帰るか。武田のやつが本当に医者だけ呼びに行ったのか、疑わしいーしな」

幸村「お館様は、そのような方ではござらん!!」
政宗「HA!どーだかな」

「あの・・私は帰路の途中で、かすがのところに行っても、いい、でしょうか・・・」
は、おずおずと片手小さく挙げて言った。

政宗「No!俺と奥州に帰ってからだ」
小十「、政宗様の言うとおりにしろ。お前は、今回のことで政宗様を振り回したのだぞ」

「・・・はい」
佐助「なんなら、俺様の傷が回復した後に一緒に行く?」

「・・・お断りします」
佐助「あれっ?流れで「はい」って言うと思ったのに、残念」

小十郎は、隅に止めておい二頭の馬を連れてこようと、歩き出した。
小十「時間の無駄だ、。これ以上、相手にしたら」


??「相手にしてたら」
全員(!?)

武田信玄の声ではない。
誰もが、そう判断したときだった。


ザザッ


(!?)
達を中心に、黒や柿色の服を着た大勢の忍者達が取り囲み


ザッ


一斉に襲い掛かった。







・・・・・・・





砂煙。
血痕。

地に倒れ、動かなくなった無数の死体。

その中に、政宗達は立っていた。
小十「政宗様、お怪我は!?」

小十郎は、刀を構えたまま、すぐ後にいる政宗に語りかけた。
政宗は、六爪についた血痕を振り払う。

政宗「ねぇよ。おめぇこそ、怪我ぁしてねーだろうな?小十郎」
小十「この程度、運動にもなりません」

二人は笑みを零した。

少し離れたところで、砂煙が風で飛ばされ、二つの影が姿を現した。
幸村「無事か!?佐助」

二槍を握り、幸村が駆け寄る。
背と肩の傷が癒えていない佐助は額から汗が滲むものの、幸村に笑顔みせる。

佐助「これぐらいのハンデは、あげないとねぇ」
そう言って佐助は、ある一点を見た。

その先は、蛟を構えたと、先ほどの声の主が、武器も何も持たず立っていた。
声の主は、辺りを見回す。

??「やっぱり、無理か」
声変わりをしていない高い声の青年。

と同じぐらいの背丈だが、体つきはしっかりと鍛えていることが分かる。
短い黒髪、黒い忍服。

長い前髪は、目を隠す。

政宗は、真田幸村に吼えるように叫んだ。
政宗「幸村!武田が、どんな奴か分かっただろ!」

幸村「誤解なさらないでもらおう!政宗殿、この者はお館様の手のものではござらん」
小十「見え透いた嘘、言うんじゃねー。この落とし前は、きっちりつけさせてもらおうか」

「・・・佐助、伊賀の里が滅んだ後に」
佐助「だーれも、雇ってない」

は、一瞬眉間に皺を寄せた。
(こんな時に・・)

「伊達様、片倉様。真田様のおっしゃるとおりです、このものは」
声の主は、頭を下げた。

??「はじめまして。僕は、服部はんぞう、と言います」
政宗と小十郎の額に、皺がよった。

政宗「服部半蔵だと?そいつぁ確か、徳川んとこのじゃねーか。徳川が何の用だ」
小十「お待ちください、政宗様。たしか徳川の服部半蔵は、もっと高齢の方です」

は目の前の人物に、警戒しつつ、口を開いて言う。
佐助の表情も鋭い。

「・・・伊賀の服部で生まれた男児は、全て【はんぞう】と名づけられます。この者は、徳川の・・・その方とは漢字違い。ぞうの字は三」
半三は、クスリと鼻で笑った。

半三「奥州にいたんだ。何て名乗ってるの?」
「・・・・」

小十「お前の名が、他にあるのか」
佐助「違うよ。っていうのは、本当」

幸村「殿?」

政宗は、の横につき、半三に六爪を切っ先をつきつける。
政宗「本当か嘘かなんて関係ねぇ。こいつが、俺にって名乗ったんなら、だ」

半三は、政宗のほうに首を動かし、を向く。
半三「幸せそうだね。こっちは大変だよ、里の復興のために毎日毎日・・・。僕の祖父も狂ったように、秘宝だ、復讐だって言うし」

「里長が生きて・・・」
半三「里長だなんて、まだそんな余所余所しい言い方してたんだ。それに・・てっきり僕・・・姓も名乗ってると思ってたよ」

風が吹き、半三の前髪が上がり。
隠れていた目が達を見る。


その瞳・・藍色。



半三「・・・・姉さん」










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