【序章:かすが暗殺】

後ろ短く、顔の両サイドにある髪は長い。
闇の中で金色が鈍く光る。

顔つきは少々キツメの印象を帯びるが、美人と誰もが口を揃える顔立ち。
黒い服が、ぴったりと身体の輪郭を出し、しなやかで妖艶な体つきをより演出させる。

??(あぁ、お眠りになっている姿も美しい)
うっとりとかすがは胸中でため息をはいた。

かすがは、天井裏から上杉謙信の就寝を見守っていた。
盗み見ではない、護衛というものだ。

【かすが】
もともと上杉憲信を暗殺しようとした伊賀のクノイチだったが、謙信の美しさに一目惚れをし、今は里を抜け謙信の専属の忍びとして、日々を送っている。

抜け忍となったかすがは、ときおり里から追い忍がくる。
そして、今夜も・・・・。

かす(!!)
天井裏にいたかすがの姿が、音もなく消えた。



ザザッ


ザッ


謙信が眠っていた館の山の下、森の奥深く。
風も吹かずに、木々の揺れ、葉が音を鳴らす。

黒い2つの影がぶつかり合い、白い火花を散らし、消え。
またぶつかり合う。


キンッ


キンッ


森の枯葉に小さな血の跡がついている。
かすがの血だった。

いつものよう、すぐに刺客など始末しようとしたかすがだったが、敵は相当の手練。
今までの刺客、つまり一般の上忍ではないことがすぐに分かり、森へと向かった。

地理は、こちらに有り。



??(しまった)
一つの黒い影の体勢が崩れた。

かす「もらった!」
かすがの複数のクナイが


ドスドスドス


黒い影を突き刺し、木に固定された。
クナイの糸を辿り、敵の間合いに入らない位置までかすがは近づく。

かす(今までの刺客とは違う)
雲隠れしていた月が顔を出し、敵の姿を映し出した。

かす(!)
かす「お前は・・・)」

「・・・・」
は名を呼ばれ、嬉しさと悲しさが入り混じる。

藍色の髪、水に濡れたような眼、左眼には縦に古傷が走しる。
夜に溶け込むような服。

藍色の布は血を吸い、その色を濃くする。
かすがの放ったクナイが両肩、腕、脇腹、両脚から、血を流し桜色に淡く光る糸を赤く染め上げる。

クナイに結ばれた細い糸は、刺客の体に食い込んでいる。
無理に引き裂こうとすれば、そのまま細切れになることを知ってかも下手に動こうとはしない。

かすがは一瞬、悲しい顔をした。
「・・・こんな形で、会いたくなかったです」

もまた、泣きそうな顔をしていた。







かす「里がお前を差し向けたということは、本気ということか・・」
今戻れば、まだ罰を与えられて里抜けが許される状態だった、ということをかすがは知っていた。

自分も過去に追い忍をしたことがあるからだ。
だが、もう許されないところまで自分はきてしまった。

その証拠が目の前にある。
刺客の存在もそうだが、刺客が持つ武器・・・。

里の秘宝の3つのうちの1つ、蛟。
中央に持つところがあり、左右の先端に刃が存在する。

扱いが難しいとされていた、下手な使い手であれば自分が傷つく。

諸刃とも呼ばれる。
かすが、そして甲斐にいる忍びの武器もまた、里の秘宝の1つ。

全ての忍びが一度は手にするが、使い手は一人。
人が武器を選ぶのではない、武器が人を選ぶのだ。

かすがもこのクナイを手にした瞬間、光の糸が出現した。
しつこくかすがに追い忍がつく、最大の理由とも言えるのが、里の秘宝の回収。

刺客「かすが・・・。今ならまだ間に合い、ます。里に・・・」
かす「フン。戻るつもりなど初めからない。私はあの方の剣!」

強く言いきったかすがだったが、表情は苦悶を浮かべていた。
そうこの刺客、かすがの同期、共に苦痛を分け合った仲間・・・だった。

同期であれ、そのときかすがの実力は里のくの一のトップ。
は、このころ里で、もの覚えが悪いと噂されるような存在だったが、
まだ、本当の実力は出ていない、いずれ自分に追いつく、とかすがは見抜いていた。

里のトップの自分に曖昧な敬語をつかう。
どこかほっとけない雰囲気、というよりドジ。

険しいく滑りやすいところならまだしも、何もない平坦な道で躓く。
転ばなければ大丈夫ですと言うが、その前に躓くな。

それでもかすがもこの者の修行を見たり・・・・。


「かすが・・・」
かす(!)

かす(感傷に浸るなんて・・・)
かすがはクナイを構え。


かす「誰がこようとも、私はあの方のおそばにいる!」
に向かってクナイを


『かすが、今日から里のトップですね。自分も頑張らないと』)


・・・・。


『かすが、ちょっとその服は露出が』)

・・・・。

『かすがは、私の憧れです』)




かす「・・・」

引き抜いた。
は支えをなくし、地面へと落ちた。

出血がひどい。
ほっておけば、死ぬ。

だが、もし里のものがきたら・・・・。
かす「里長に伝えろ。私は戻らない。武器も返さない。誰がこようと殺す。お前でもだ」

かすがはを一瞥し、姿を消した。




・・・・・。






・・・・・・・・・。



ガサ




どれだけ歩いただろう。
視界が暗く、霞む。

あの後、自力で立ち上がり、里へと足を向けた。
任務失敗と、かすがの言葉を告げる為。

出血はとまらない。
歩いた道が、紅く染まる。

血の匂いを嗅ぎつけ、獣の声が近付いてくる。
歩いている感覚がない。

どさりとは地面に倒れた。
自分は、ここで死ぬ。


そう思った。


ザッ


複数の黒い影がを取り囲む。
(・・・里の忍び。助かり)

忍1「かすが暗殺に失敗か」
忍2「だが、これは好都合」
忍3「手間が省けた」

声が遠い。
それでも、何を言っているかくらいは分かる。

だが言葉の意味は理解できなかった。

忍3「このまま、ほっておけばいずれ死ぬ。獣に食われて骨も残らない」
忍4「秘宝が無事ならそれでいい」
忍5「我々の任務は蛟の回収、の暗殺」

(!?)

忍1「まだ、意識があるようだ」
一人の忍者が、近づく。

忍1「蛟に選ばれた使い手は、昔から里の反逆者が持つという伝えがある。里長はそれを恐れた。お前のかすが暗殺の任務は、暗殺の隠し網にすぎない」



ガッ



別の忍者がの頭を踏む。
忍2「残念だったな。今まで里のため、里のため頑張ってきたのに、まぁ、俺はそのたびに笑いをこらえてたけどな」

顔を隠していたが、布越しで男が笑ったのが伝わった。

二人の忍者が、の手に固く握られた蛟を取ろうとしたが、は離さなかった
忍3「未練がましい」

ドス

「っ」

二人の忍者はの手首にクナイを深く突き刺し、奪い取る。
の手から離れた蛟は、浅葱色の光が消え、刃の部分が徐々に短くなる。

忍5「武器が使い手を選ぶ。言ったものだ」
忍4「あー良かった。選ばれなくって」

忍1「哀れな奴だ」


ザッ

黒い影は消えた。


「・・・・・」
はうつぶせ状態から、仰向けに体を動かした。


(・・・・哀れ)

今まで、どんな修行も耐えてきた。
かすががいなくなっても、頑張ってきた。

蛟を手にした瞬間は、嬉しかった。
里長も嬉しそうに笑っていた。

獣の声が、近い。

かすがの暗殺を命令されたときは、誰もいないところで泣いた。
覚悟を決めて、任務に失敗して・・・・・。

木々の音が大きくなる。

最後は、里に捨てられ、仲間の忍者に卑下され、反逆者扱い。
そんなこと、考えたこともなかった。


(・・・・)


満ちた月。
かすがの金髪を思い出す。

(かすが・・・ごめん、なさい。伝え、られそうに・・)

は目を伏せた。
暗闇に浮かぶは、甲斐の忍びの姿。

やたらと、かすがは何が好き?かすがの好みってなんだろね〜。
同じ質問じゃん。

口にはださず突っ込みを入れた。
本人に聞けと言いって、会話はいつも一言、それで終わり。

だが、かすがが抜け忍になったことをいち早く教えてくれた。
泣きたいなら胸貸すけど?なんてアホなことを言ってくる。

(・・・振られてもいいから、言っておけば良かった)

だが、もう遅い。
意識が遠のく。


茂みの中かから、狼の群れが咆哮をあげ飛びかかり



ドドドドドドッ



別の方向から出てきた六本の剣の串刺しになった。
??「政宗様!!せめて一本だけでも剣は残してください!!」

政宗「HA!固いこというなって小十郎。おかげでall hitだぜ」
政宗と呼ばれた男は、右目に黒い宛て物をし、青い服を靡かせる。

腰には左右三本ずつ、空の鞘を携えていた。
その後ろにつく小十郎という男は、左頬に傷がありオールバックの髪型、政宗よりも背が高い。

二人は茂みをかい分けた。
政宗(!)

小十「!!!政宗様!!人がいたではありませんか!!あぁ、無暗にお投げになったりするから」
小十郎は頭を抱え込む。

政宗「おいおい、待てよ。小十郎。こいつは俺がやったんじゃねー。・・・・」
政宗はの手首に刺さったクナイを見た。

政宗「・・・忍びだ」









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【秋音(syuon)より後書き】
 武器の蛟(みずち)が、読んでいると、どうしても蚊(か)という漢字に見えて仕方がない。