【19.滞在】

応接室の奥の扉が開きルークとティアが現れた。

ガイ「ルーク・・・。シュザンヌ様はどうだった?お前の顔見て少しでも、ご気分はよくなられていたか?」
ルークは、机の上にあった御茶菓子を手にとり、ガイを見る。

ルー「ん?あぁ、母上なら元気そうだったよ。ティアとも話して、誤解がとけたみてーだし」
ガイ「そうか。良かったじゃないか、ティア」

ティ「えっ!えぇ」
ジェイドは眼鏡に指をあてつつ、椅子から立った。

ジェ「さて、ティアも帰ってきたことですし、そろそろおいとましましょうか」




【ルークの屋敷:玄関口】

アニ「ルーク様、アニスちゃんのこと、忘れないでくださいね」
アニスは目を潤ませながら、ルークの前に立ち、祈るように手を合わせてた。

ルー「なんだよ。もう会えねーみたいな言い方して」
ジェイドは眼鏡の位置を直し。

ジェ「まぁ、その可能性のほうが高いでしょうね。あなたは我々を国王陛下に引き合わせるという役目を終え、当初の目的であったご自分の家に無事に、辿り着きました」
ルー「あっ、そっか。って、無事・・・」

ジェ「おやっ?もしや一生を左右するような怪我でもしましたか?」
にっこりと、ルークの癪に障るような言葉を添えて、笑った。

ルー「へっ」
ジェイドの紅い目から避けるように、ルークは鼻で笑い飛ばす。

ティ「じゃぁ、私もモース様に報告があるから、もう行くわね」
出て行くはずが当然のティアに、ルークは驚く。

ルー「あ、あぁ・・・」
ルー(そうだよな。こいつともここで・・・なんか、変な感じだな)

旅の間ずっと一緒にいたせいだと、ルークは思った。
ティ「あなたのお母様、優しい方ね。大切にしてね」

ルー「なっ、なんだよ、お前に言われる筋合いねーつーの」
ティアは、ふと目線を下げ、胸元に手を当てた。

というより、何かを軽く握るという感じだ。
だが、ティアの胸元に握るような物は何もなかった。

ティ「そうね。・・・・・それじゃ」
ルー「あっあぁ・・・」

またな、と言おうとして、ルークは口を噤んだ。
また・・なんてあるんだろうか。

それ以上何も言えず、出て行く皆を前に棒立ちになる。
何度も手を振るアニス、扉が閉まる前に、一度だけ振り返ったティア。

それを、何にもせず、ただ見ていた。
ルー(本当に、これで終わりなんだな)

バタリと、扉が閉まった。

ガイ「さて、俺もちょっと騎士団のほうに報告に行くわ。じゃあな、ルーク」
ルー「ん、うん」

メイドたちは、仕事に戻るためルークの横を通り過ぎり、お辞儀をしていく。
・・・・・。

しんと静まり返った部屋に一人。

俺の周りはこんなに静かだったろうか。
ルークは否定するように首を振った。

ルー(何考えてんだよ、俺。いつもに戻っただけじゃねーか・・・・)
それでも、寂しいと感じてしまった・・・師匠(せんせい)に会いたい、ルークはそう思った。

ルー「・・・師匠(せんせい)・・・俺、これで英雄になれたのかな」
返答のない問いを、ルークは扉に向かってぽつりとつぶやいた。






【ガイside】
白光騎士団に報告するために、ガイは屋敷の廊下を走る。
メイドとすれ違いときは、壁を駆けだす勢いで端によって。

ガイ(そう言えば、結局旦那に聞けなかったな。彼女とどこであったのか)
まっいっかとガイは思い直し、一呼吸してドアをノックした。







【ジェイドside】
ルークの屋敷と、城の間にある道をジェイド達は歩く。

アニ「でも、大佐ぁ、のこと知ってたのに、どーして教えてくれなかったんですか?」
ジェ「私は一応言いましたよ?それに、私がいくら問いただしたところで本人が認めない限り、もしくは皆さんの中で確信がもてない限り、無駄だと判断して追及するのをやめました」

イオ「ですが、捕虜の話をすれば。ジェイド、彼女も思い出すはずです。また彼女にあったら、話してみてはどうですか?」
ジェ「イオン様。私は、彼女に話すつもりはありません」

ジェイド達は城の門前に到着した。
アニ「えぇっ!?いいんですかぁ、大佐?」

ジェ「はい。私から言うより、彼女から思い出したときのほうが・・・何かと面白そうですから♪」
ジェイド達は、城の門を開けた。

そこには一人のキムラスカ兵が立ち、敬礼した。
兵士「お待ちしておりました。和平の使節団であられますね。客室に、ご案内致します」

その兵のあとに続いて歩いているとき、アニスが小声でジェイドに言う。
アニ「待っててくれるのって、一瞬かなぁ〜なんて、期待しちゃいましたよ」

ジェイドは、アニスに向かって振り返る。
ジェ「えぇ、私もです」






side】
は、陸軍大将専用の執務室にいた。
(・・・・)

軍人になってから、執務室と戦場を行き来する日々。
ホド戦争がはじまってというもの、この部屋にもあまりいなかった。

戦場にいることのほうが多かった。
(といっても、三年前までの話だがな)

アルマンダインの屋敷には数える程度しか行ったことがない。
「いつでも帰ってきなさい」と司令官は言ってくれたが、その当時、そんな暇など司令官にも私にもなかった。

執務室の扉を開けて、右の壁に沿うように縦長の本棚が並ぶ。

扉の左側には低い長机があり、それを挟むようにソファーが二つある。
その奥に執務机が一つ。

執務机や長机には埃ひとつなく、本棚のガラスや窓も曇っていない。
がいなくなっても、メイドに毎日、掃除をさせていたことが分かる。

執務机には、山積みの書類。
今にも崩れ落ちそうだ。

執務机の後ろには、の胸元ぐらいの高さの棚がある。
部屋の右奥にある扉は寝室につながり、内装、質ともに客室以上、王室以下。

(これも・・そのままにしていたのか)
は、執務机後ろの棚の上にある、鉢植えに目をやる。

花もなにもない。その鉢植えには、土だけが盛られていた。
は執務机の椅子に座った。

執務机の左にある一番上の引き出しから、長方形型の縁の眼鏡を取ってかけ、山積みの書類に目を通す。
機密情報が書かれている書類は、外部の者に知られないよう、譜を施された眼鏡が支給される。

その眼鏡をかけることで、書類が読めるようになる。
書類を渡され運ぶだけの一般兵が見ても、ほとんど白紙、というわけである。

階級によっても、読める書類と読めない書類が存在する。
たとえ譜が施された眼鏡であろうと、自分よりも上の階級の書類は見えないが、下の階級のは見ることができる。

の場合、大将、元帥の書類は読むことは出来ないが、陸軍大将以下の書類は読むことが出来る。
地位が高いだけに、知る情報も多く、それだけ機密性も高く、責任も重い。

といっても、が目に通している資料は、キムラスカ関係ではなく、ダアトに関するものだった。
大詠師や六神将、アニスにティアについての情報だ。

【大詠師 モース奏将】
(まぁ、取り立てて注意する人物ではないな)

【詠師・信託の盾主席総長 ヴァン・グランツ謡将】
(昔に元帥殿の屋敷で何度か顔を合わせたが・・・髭一つであそこまで変わるとは・・・・・・。失礼だが、アニスの言ったよう、同年とは思えん風貌になったものだ)

【総長付副官・第四師団長 リグレット奏手】(魔弾のリグレット)
(まだ、会ったことない者だ。確か、導師イオンを救出、セントビナーに姿を見せたとガイが言っていたな。魔弾・・・譜の二丁拳銃、遠距離型・・・)

【参謀長・第五師団長 シンク謡士】(疾風のシンク)
(この歳で参謀長とは・・・。素手か・・あのときの動きと、二つ名からして、比重のある攻撃ではなく、素早さを生かしたほうだろう)

【第一師団長 ラルゴ謡士】(黒獅子のラルゴ)
(・・・)

【第二師団長 ディスト響士】
(まぁ、いいだろう)

第三師団長アリエッタ、第六師団長カンタビレと読み進めていく。

ノック音。
少し前、時計が低く三回鳴っていたので、メイドが茶の準備をしにきたのだろうと、は思った。

資料に目を通したまま、入れと声をかけると、案の定メイドが入ってきた。
「あの・・・」

「御苦労。珈琲でいい。あとは適当にやってくれ」
から、何も話しかけるなという雰囲気が漂っているのか、メイドは口を閉ざし、慌てて御茶の準備をして、失礼致しますと言って静かにドアを閉めた。

(六神将と呼ばれているのなら、第六師団までを指しているのだろう)
は、カンタビレから下、特務師団長アッシュの資料を読み飛ばし、アニスのページを探した。

アニスの情報を読み終え、ティアのページを見る。


【ティア・グランツ響長】
ND2002年 ローレライガーデン・イート・1日 16歳
音律士 情報部第一小隊所属

は、口元に手を当て考え込んだ。
(2002、16歳・・・。今は2018年。資料は年齢が変わると同時に、更新される。おかしいな、15ではないのか?)

ふと、は思い当たった。
(もしや、この者、ホド生まれか?いや、ローレイライガーデンなら、まだ生まれていない。あの時、ホドにいなかった母親が育てたのか?孤児ならば、たんに育ての親の故郷がホドということも・・・)

ホドでは、キムラスカやマルクトとは違った風習や文化が、いくつかある。
建築物や、季節に重んじた祭事も鎖ながら、年齢の数え方にも、ホド独自の数え方があった。

赤子は、母体の中で、1年ほど過ごしてから生まれてくる。
そこでホドでは、母体の中にいた時から生命があるということで、生まれたときを1歳とおくそうだ。

キムラスカ、マルクトでは、生まれたときを0歳としている。

(主席総長とは、兄妹だったな。ということは29・・・うん?私と同年?ND1989ならば、すでに28を迎えているはずだが、まだ27?・・・・あぁ、そうか、そうだったな。たしか最初の男児は、また別だったな)
但し、そのホドの数え方には例外があった。

その家で、初めて生まれた男児である。
その男児に関しては、キムラスカ、マルクト同様、0歳から数え年となり、かつ百単位の年(1900,2000,2100など)は、暦上0となるため、その年は数えないのだ。

ティアは、男児でもなければ、2002年生まれなので、2000年の無効年に影響がない。
(母の中ですでに生命とみて、1歳という考えは納得できるのだが、どうもこの最初の男児と百単位については・・・)

はっきり言わずとも、ややこしい。

ホド戦争の生き残りかと思ったが、それはないだろう。
あの戦争の末路は、島の消滅。

敵味方関係なく、全てが消えたのだ。
は、その時、運よく艦隊に乗っていた。

運よく・・・というより、そうした方がいいと教えてもらった。
(今思えば、あれはマルクトの人間だったのかもしれんな)

は息をついて、再びティアの資料に目をやる。
ティアもヴァンについても、出身地はダアトと書かれている。

ならば、育てたものがホド生まれの者で、ホドの風習に沿っただけだろう。
たかが年齢の数え方1つで、ホドの生き残りと断定するのは浅はかだ。

ましてや、過去に何度かヴァンと顔を合わせたことがあったが、自分に対して、復讐や憎悪といったものは感じられなかった。
(・・・・・)

考え過ぎだ。
は、ため息をはき、人指し指で眼鏡の位置を正す。



因みに、この時は既に28歳を迎えていた。
ジェ「どうしました?ため息などついて」

「・・・・・」


ジェ「・・・・・」


「・・・何故、ここにいる」
ジェ「おやっ、既に了承の上だと思っていましたが、今、お気づきになられたのですか?貴方ほどの方が意外ですねぇ。それとも、それほど興味深い資料だったのでしょうか」


は、資料を机の上に置いて、出入り口に近いソファーを見た。
いる。

確かに、それはいた。
いつからだ。

(・・・そう言えば、さきほどメイドが)
そのときだろう。

(メイ「あの・・・」)
と何か言いたげにしていたのは、紅茶か珈琲のどちらにするかいう、問いかけではなく、このマルクトの軍人についての発言だったのかもしれない。

は、ばつが悪そうに、息をついた。
「まぁ、そんなところだ。・・・・何の用だ。わざわざ、私のところに来るとは。何か困ったことがあれば、客室前の警備兵にでも言えば済むはずだぞ」
ジェイドは、執務室の本棚にあった本を広げ、読んでいた。

ジェ「用ですか?そうですねぇ、陸軍大将ともなると、どんな執務室かと思いましたが、こちらの方が少々広いと言った以外、私の執務室とあまり変わりませんね。その奥の部屋は、寝室と言ったところでしょうか?」
「あぁ、そうだ。用は済んだな、客室に帰ってはどうだ」

ジェイドは、本から目を外し、を見る。
は、肘を付き両手を合わせ、その上に口元を当てて、ジェイド見ていた。

ジェ「私がここにいては、邪魔ですか?」
「・・いや、そのような意味ではない。が、そのように聞こえてしまったのなら、詫びよう。ただ、この部屋で長居するのは、貴殿にとって得とは言えん。いいか?ここは、私の執務室だ、誰が来ようと思う者もいない・・・と言えば、察しがつくであろう」

ジェイドは、ふと笑みを漏らした。
ジェ「回りの目など、気にしたことはありません。まして、ここはキムラスカです。貴方の執務室に私が居ようと居まいと、意味は変わらないと思いますが」

「貴殿がそれで良いなら、私もこれ以上何も言わん」
は、キムラスカに関する資料を読もうとして、長方形型の縁をした眼鏡に手をかけたが。

ジェ「そろそろお茶にしませんか?いい加減、冷めてしまいますよ」
ジェイドは、長机にあるメイドが用意してくれた、カップや茶菓子に目を向けた。

「・・・そうだな」
は、執務机の椅子から立ち上がり、長机を挟んでジェイドとは向かい側のソファーに腰掛けた。

小瓶に入ったミルクや砂糖には、一切手をつけず、珈琲の入ったカップとソーサーを自分の手前に置いた。
ジェ「おや、ブラックですか?」

「あぁ」
・・・というより、そうなってしまった、と言ったほうが正しい気がする。

は、カップから立ち上る湯気を見つめながら、初めて珈琲に直面したことを思い出す。
ホド戦争が終わり、まだルークと会う前の頃。

当時13歳、階級は小尉であったが、働きは佐官クラス。
だが、まだ軍人としての知識や経験が足りないため、その階級に甘んじていた。

将来有望、アルマンダイン伯爵の養女ということもあり、早々と今の部屋が当てがわれた。
子供にしては大きすぎると思ったが、陛下の心遣いだという。

はっきり言って、いい迷惑だった。
陛下の心遣いは、周りの軍人からひいきだと思われる要因の一つでもあるからだ。

階段を降りて、突き当たりの部屋はナタリア殿下の部屋だった。
緊急時には、すぐに駆け付けられるので、その点だけは良かった。

そんなであったが、この頃からすでに回りの人間からは恐れられ、陰口もたたかれていた。
13歳のを目の前にして、メイドが手を震わせながら、お茶の準備をしている。

一体、いつどこで発ったか分からない噂が、尾びれと背部れと髭まで生やしているせいだろう。

軍服は、殺してきた人間の血で染めているだの。
機嫌を損ねれば、噛まれるだの。

その他もろもろ。

「・・あ」)
(メイ「しっ失礼します」)

バタン

礼を言う間もない。
メイドは逃げるように部屋を出ていった。

目の前に、珈琲がある。
は、このとき、初めて珈琲というものを前にした。

最初は泥水かと思ったが、注がれた液体からは小さく湯気が立ち込め、なんとも芳ばしい匂いがした。
コーヒカップとソーサ以外に、小さな容器が二つ置いてあった。

中身を覗くと、白い液体と固形物が別々に入っていた。
(こっちはミルクで、こっちは・・・石?))

(・・・今思うと、あの当時の私は、一般的知識がかけすぎていたな)

とりあえず何であろうと、それをどうしたらいいか、分からなかった。
二つを混ぜて、コーヒとは別に飲むのか、それともこの固形物に液体を浸して食べるのか。

全部を1つにまとめては、カップから溢れる。
考えた結果。

ズズッ
そのまま飲んだ。


「苦い」)
自分のようだと思った。

今、自分が苦いといった時のような顔で、周りの人たちが自分を見るからだ。

その後、2つの使用法を知ったが、あの時一切使った形跡が見られなかったせいか、再び出されることはなかった。
仕方がないので、そのまま飲み続けた結果、慣れたと言っていい。



そして今に至る。
今はこの苦味が、苦だとは思わない。

むしろ好ましい。
あの時、自分のようだと思ったが、今もそうだ、そしてこれからも。

は、カップにかけようとした手を
ジェ「奇遇ですね。私も珈琲は、ブラック派ですよ」

ぴたりと止め、見上げるような目線をジェイドに送った。
「・・・では、聞くが」

ジェ「はい?」
ぽちゃり、ぽちゃり。

「今入れているのは、砂糖か?」
ジェ「はい」

「その色は、明らかにミルクを入れているな」
ジェ「はい」

「・・・・マルクトでは、それをブラックというのか?」
ジェ「いいえ。貴方が今、飲もうとしているのをブラックと言いますよ」

「・・・・」
ジェ「ただ、疲れているときはこうしますねぇ」

「・・・そうか。ならば今日は、早々に・・」
ジェイドは持っていたカップとソーサを、の前に置いた。

(?)
ジェ「どうぞ」

そう言うと、ジェイドは、が手にかけそこなった砂糖もミルクも入っていない珈琲を取り、ソファーに深く座ると、さも自分が用意されたもののように、口につけてしまった。

(・・・私が・・疲れているということか?)
別段、自分はそう思っていない。

「・・・・」

は、ジェイドが用意してくれた砂糖とミルクの入った珈琲を、ゆっくりと持ち上げ口へ運んだ。
(・・・・甘い)

ジェ「お口に合いませんでしたか?」
「いや、甘い、なと思ってな」

ジェ「砂糖は一つにしておけば、良かったですかねぇ」
ジェイドは、カップとソーサを長机に置き、はその少し残っている珈琲と、自分の持っている珈琲を見比べた。

「・・・・お前のようだ」
は、手に持った珈琲を見ながら言った。

ジェ「そうですね。私は、癒し系ですから」
は苦笑の表情を見せ、カップを持ち上げた。

「そうだな」
ジェ「おやっ、そう素直に返事をされるとは思いませんでした」

「少なくとも、私はそう思っている」
ジェ「・」

ジェ「ありがとうございます」
ジェイドは、一瞬、間を置いて、そう答えた。

その間が、驚いてしまった間だった事に気付いたのは、お茶の時間を終えてからだった。
メイドが、丁度いい時間に、茶菓子の片づけをしに来た。

は、執務机の上にある山のような資料に目を通し、時折ペンを走らせ、判を押す。
ジェイドは、そのままの執務室に残り、本棚にある本を読み続けていた。



【チャット形式】

「申し訳ございません」
ジェ「いきなりなんですか?理由も無く謝られては、私が困ります」

「今までのご無礼、どうかお許しいただきたい」
ジェ「無礼、ですか?あぁ、チーグルの森では戦える状態にも拘らず、私に譜術を使わせたことですか?それとも、私を大佐ではなく少佐だと言ったことでしょうか?いえ、正体を追求した時に、貴方が誤魔化したことかもしれませんねぇ」

根に持つタイプだ。
「それも、ございますが。何よりも、今まで、対等の立場で話してしまったことを、お許しいただきたい」

ジェイドは、くだらなそうに溜息をはいた。
ジェ「・・・何を言うかと思えば、そんなことですか。改まる必要などありませんよ。これまで通り、貴方は貴方らしくしていればいいではありませんか。というより、そうしてください。今更、そのような話されるほうが、こちらとしても不愉快です」
「・・・良いのか?」

ジェ「えぇ」
「そうか。感謝する」

そう言い終わると、ジェイドは再び本に集中し、は書類の山と格闘しはじめた。
ジェ(大方、階級は大佐ですが、和平の使節団、ピオニー陛下の名代と今頃気づいて・・・といったところでしょう)

(年上だったのか・・・)
の手には、ジェイドに関する資料が握られていた。





【チャット形式】
は、黙々と書類を処理していく。

ジェ「そうしていると、あのとき、お会いした貴方は、別人ではないかと思ってしまいますね」
「世界に、3人似たものがいるらしいが、同一人物だと言っておこう」

ジェ「まったく。こんな緊迫状態のなか、よくマルクトに足を踏み入れられたものです。まぁ、少なくとも視察というふうには見えませんでしたが」
「あぁ、個人ごとだ」

ジェ「ほぉ、一体、何故またマルクトに?」
「知りたいのか?」

ジェ「いいえ、別に」
「なら、言わんでもいいだろう」

ジェ「・・・・」
リョ「・・・・」

ジェ「あなたが、どー−してもお話したいのでしたら、聞いてあげなくもありませんよ」
(・・・一体何なのだ?・・まぁ、秘めるようなことでもないか)

「どうしても、会って礼を言いたい方がいてな」
ジェ「・・その為だけに、わざわざ、マルクトへ?」

リョ「あぁ」
ジェ「貴方にそうさせるほどの人物とは、よほど明瞭な方なんでしょうね」

ジェイドは、少し投げやり気味に言った。

「あぁ、バルフォア博士という方だ」
ジェ(!)

ジェ「それは・・」

ジェイドの目は若干、大きく開いたが、次の瞬間。
ジェ「お会いできるといいですねぇ」

実に楽しそうな笑みへと変わった。
「あぁ。落ち着いた頃、またマルクトに行かなくてはな」

ジェ「♪」



時計が12回、ボーンという音を立てた。
(もうそんな時間か・・・)

は、手に持っていた資料を、そのまま読み続けた。
「もう、夜も深い。そろそろ、客室に戻ったほうがいい」

ジェ「私としては、客室に戻って一般兵が警備につくより、このままここにいたほうが、安全だと思いますが」
「愚考だな。いくら和平の使節団だからと言って、私はお前の護衛を命令されていない。それに、陛下や大臣が【お前を殺せ】と命令すれば、私はお前を殺す。そして、その命令は、最も私が請け負う可能性が高い。言わば、私は、お前にとって最も危険な人物なのだよ」

ジェ「・・・・」
「分かって貰えただろうか」

は、丁度資料を読み終え、ジェイドに目をやった。
ジェ「・・・・」

ジェイドは、足を組み、膝に本を載せて読んでいるせいで、横顔は髪で覆われてしまい、どんな表情をしているのか分からない。
(!)

突然、ジェイドの持っていた本が、すごいスピードで捲れていった。
今までのは、単なる時間つぶし、これが本来の読む速度なのかと思わせるほど、早いものだった。

バタリ

最後の背表紙が閉じた。
だが、ジェイドは立ち上がりもせず、止まったままだった。

(怒らせてしまったのだろうか・・・)
仮にも和平の使節団だ、不機嫌にさせたことで、この話はなかったことに・・・などと言われてしまっては、まずい。

は、椅子から立ち上がり、咳払いをして、ジェイドの傍に歩みよりながら言った。
「・・・その、すまない。口が過ぎてしまう節があるようだ。だが、先程言った可能性は無きにしも非ず、気をつけた方がいい。今は、お前を殺せという命令はされていない、それだけは信じてほしい」
ジェ「・・・・」

無言。

「・・・護衛の命令はされていないが、護衛をするなとも言われていない。客室に送る間は私がお前の警備につく。・・・本も読み終えたことだ、客室に・・・」
は、ジェイドから本を取り、覗き込む。


ジェ「zzzz」
(寝てる)









は、眠ったままのジェイドの前に立ち尽くし、考えていた。
起こした方がいいに決まってはいるのだが・・・。

先程、寝顔を見たときに、目元に薄らと隈があった。
(せっかく寝に入れたものを、起こしてしまっては・・・)

悶々とした結果。
(まぁ、途中で起きたら、客室に送ればいいか)

どうせ、自分は寝ずに起きている。
(さて、こういった場合、何をすればいいものか・・・)

は、旅路で、ティアが自分の毛布を一枚、譲ってくれた事を思い出した。
(毛布か。寝室のベットにあるやつだな)

は、執務室の奥の扉を開けた。


・・・・・・・・・



(これで、いいだろう)
は、ベットの前に立っていた。

ジェイドは、そのベットの上で、布団を肩までかけられ、横になり眠っていた。
毛布を持ってこようと思っただったが、その毛布が大きかった。

ソファーでは、ありあまるほど・・・。
再び考え込んだ結果、毛布が運べないなら、マルクトの軍人を運んでしまえばいいと思い、ベットまで運んだ。

幸い、ジェイドは目が覚めずに眠っている。
(さて、執務室に戻るか)

は、寝室の扉を静かに閉めた。


その音と同時に、ジェイドの紅い目が開く。
実は、起きていた。


ジェ(やれやれ)
ジェイドは、軽く寝返りをうち、楽な体勢になる。

ジェ(まさか抱き上げられるとは、思いませんでしたよ)
ジェイド・カーティス35歳、姫抱っこを経験。




(軽かったな・・・・)








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キムラスカ城滞在1日目
ジェイドがキムラスカ城に滞在する話(gate19〜20)の間に起こった出来事。

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